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スティグリッツによる、崩壊するアメリカ経済の大きな重荷

2008年09月17日 20時34分20秒 | その他翻訳
3兆ドル戦争 by Joseph E. Stiglitz 2008.3

3月20日はアメリカ主導のイラク侵略の5周年に当たる日だ。何が起きたのかを総括してみてもいい頃だろう。私たちの新しい本「3兆ドル戦争」(訳注:「世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃」)で、ハーバード大学のリンダ・ビルムズと私が、この戦争のアメリカの経済的なコストが少なく見積もっても、3兆ドルになることを、そしてアメリカ以外の世界で、もう3兆ドルがかかることを明らかにしている。もちろん、戦争前にブッシュ政権が見積もっていたより、遥かに高い金額だ。ブッシュ政権は、戦争にかかりそうなコストで世界をあざむいたのみならず、戦争が進行している時もコストをあいまいにしようとしてきた。

これは驚くべきことではない。結局、ブッシュ政権はなにもかもにウソをついていたのだから。サダム・フセインの大量破壊兵器から、アルカイダとの関係までなにもかもだ。特にアメリカ主導の侵略のあとに、イラクはテロリストの温床となったのだ。

ブッシュ政権は、この戦争には500億ドルがかかると言っていた。アメリカが現在3ヶ月で使っている金額だ。この金額を他とくらべてみよう。戦争の六分の一のコストで、アメリカの社会保障は、半世紀以上、確固たる基礎を築ける。それも給付を削減したり、納付を増やす必要もなくだ。

その上、ブッシュ政権は戦争をはじめるにあたって、財政赤字が急増しているにもかかわらず、富裕層への減税を行った。その結果、戦争の費用を支払うために、大半は海外から資金を調達して、赤字財政支出をおこなわなければならなかった。アメリカの歴史においても、増税で国民の犠牲をもとめなかった最初の戦争だ。そのかわりにすべてのコストは将来の世代に先送りされた。事態が急変しないかぎり、ブッシュ政権前は5.7兆ドルあったアメリカの国債は、戦争で2兆ドル以上増えるだろう(それに加えて、戦争前のブッシュ政権下で8000億ドル増加している)。

これは無能力なんだろうか、それとも不正直? おそらく両方というのが正解だ。現金勘定は、ブッシュ政権が現在のコストだけを考えて、将来のコストを無視していることを示している。将来のコストには、復帰した退役軍人の障害や医療保険のコストも含まれる。戦争がたって数年してからはじめて、政府は道路脇の爆弾で殺された多くの命を救うための特殊装甲車両を注文している。再徴兵をしたくないことや、不人気な戦争で兵の補充もままならなく、軍隊は2つ、3つ、いや4つのストレスに満ちた配備を強いられている。

政府は戦争のコストをアメリカの一般大衆から隠そうとしているが、退役兵のグループが、情報公開法をつかって、負傷兵の総数をみつけだした。死亡者数の15倍だ。すでに、52000人の復帰兵が、PTSS(Post Traumatic Stress Syndrome 心的外傷後ストレス症候群)と診断されている。アメリカはすでに配備されている165万人の軍隊のざっと40%に対して、障害の補償をしなければならないだろう。そしてもちろん、戦争が続くかぎり、流血もつづき、医療保険や障害でコストは(現在価値でみて)6000億ドル以上になるだろうと考えられている。

イデオロギーや不当な利益を得る行為が、戦争のコストを増加させるのに一役買っている。アメリカは、民間業者を当てにしてきたが、必ずしも安くはあがっていない。ブラックウォーター・セキュリティには、一日1000ドル以上がかかっている。それには政府によって支払われる、障害保険や生命保険は含まれていない。イラクの失業率は60%にもなっているので、イラク人をやとうのが当然のことだが、民間業者はネパール、フィリピン、その他の国からの安い労働力を輸入する方を好んでいる。

この戦争には二人の勝者しかいない。石油会社と国防企業だ。副大統領のディック・チェイニーの昔の会社のハリバートンの株価は、急上昇している。政府が業者を頼れば頼るほど、監視は少なくなる。

このうまくマネージメントできていない戦争の最大のコストは、イラクが負担している。イラクの医者の半分は殺されるか、国を離れ、失業率は25%に達している。戦争が開始してから5年もたっているのに、バクダットで電気が来る時間は一日で8時間に満たない。イラクの総人口、約2800万人のうち、400万人が強制退去させられてるし、200万人が国を離れている。

欧米人は、何千人も死んでいるので、起きてることに慣れてしまった。爆風で25人が死んでも、ニュースにもならないくらいだ。しかし侵略の前後の統計上の死亡率は、残酷な現実のいくばくかを教えてくれる。戦争の初期の40ヶ月で、最低45万人(15万人は暴力による死だ)から60万人が、死亡したと推定される。

イラクのこれほど多くの人がこれほどの目にあっているのに、経済コストをうんぬんするなんて、非情に思えるかもしれない。しかもアメリカにとっての経済コストに論点をしぼるなんて、とくに自己中心的に思われるだろう。だって、アメリカは国際法に反してこの戦争をはじめたんだから。でも経済コストは重要で、それは予算支出にとどまらない問題だ。来月、私はこの戦争が、どれほどアメリカの経済の落ち込みにつながっているかを説明したい。

アメリカ人は、ただメシなんてものはないっていうのが口癖だ。もちろん、ただでできる戦争なんてものもない。アメリカと、そして世界は、これから何十年もそのコストを支払い続けるだろう。




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