「けやぐの道草横丁」

身のまわりの自然と工芸、街あるきと川柳や歌への視点
「けやぐ」とは、友だち、仲間、親友といった意味あいの津軽ことばです

#43.蝉坊植物録 - ダイズ -

2014年07月26日 | 植物
▲ ダイズの花

cast ; ダイズ/大豆/Glycine max/Soybean/マメ科/
一年草/中国東北部~シベリア原産/両性花
date ; 0‎7/17/2014/‏‎11:42
place ; 埼玉・北本市・“ショージ農園”
find ; ショージさん
photo ; Mr.蝉


  ダイズの撮影・取材のため「ショージ農園」にお伺いしました。
  急きょ前日のリクエストにもかかわらず、快く対応していただきました。
  ちょうどダイズの収穫時期にあたっていて、2・3日遅れたら「また来年」ということになるところだったとのこと。
  テレパシーがはたらいたような滑りこみセーフでした。
  お馴染みとなった「ワンダーランド」ですが、梅雨がまだ明けきれない日、お昼前後のファームはうだるような暑さとなりました。
  「ショージ農園」は農業を営んでいたお宅の農地を、ご近所の愛好者が共同で借り受けた畑の一画にある、いわゆる「サンデー・ファーム」です。
  もちろんダイズの撮影と同時に、間断なく生活を営んでいるこの時期の動植物を発見できるチャンスでもありました。
  メガネレンズを磨き、蝉坊なりの「草眼/くさめ?」で注視していたつもりですが、別の区画の時期をずらした「ダイズの花」を発見したのは、やはりショージさん。
  師匠のプロフェッショナルな「草眼」には到底及びません。
  無言のうちに対象物の「生活誌」を可能な限り紹介しようというご配慮に頭が下がります。
  そこで、蝉坊にとっては珍しい「ダイズの花」の画像を、時系列とは切り離してトップに配置してみました。▲
  ダイズは茎をはじめ花以外のあらゆる部位に「毛」が目立ちます。


  当然といえば当然のことですが、ダイズの最終的に成熟し乾燥した「種子」はいわゆる「大豆」で、未成熟な段階で食用に供されるものを「枝豆」と呼びます。
  店頭ではもっぱら「莢/さや」の部位を取り外して集めたものか、枝や葉や根が付いたまま束に縛られた「枝豆」を見るだけですから、ややもすると「枝豆」という植物が存在しそうな気になります。



▲ ダイズの莢の房と茎と葉/ショージ農園

  「ショージ農園」では今期最後の10株ほどが、たくさんの膨らんだ莢を実らせて迎えてくれました。
  「品種」を尋ねると、隅の抜き取った枯れ雑草などの山のなかから探してくださったのがふたつの「種袋」。
  「早生枝豆/食味のよい白鳥系品種/左」と「おいしい枝豆/甘みのある黒大豆(枝豆で食べる時の豆は緑です)/右」と表記されています。▼

 

  ショージ師匠「どれがどれかは判らない」と苦笑いですが、これぞどんな子供も元気に育ってくれればそれでいいという、映画「二十四の瞳」の「大石先生」のようなおおらかな優しさと博愛を感じます。
  畑の畝/うね/で生きているダイズに触れたのは、大げさではなく、半世紀ぶりのことでした。

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  日本では古くから主要な穀物を「五穀」という共通イメージがありますが、メンバーが一定しているわけではなく、「古事記」では「稲・麦・粟・大豆・小豆」のセット、「日本書紀」では「稲・麦・粟・稗・豆」のセットで扱われているそうです。
  どちらにもダイズは採用されていて、アズキとヒエがボーダーライン上にあるようです。
  日本には「稲・麦」の栽培が遅れてやってきたように思われがちですが、現在の研究ではいずれもが縄文時代の早い時期から利用されていたことが想定されているそうです。
  あらためて見てみると、ダイズは日本人のくらしには切っても切れない重要な作物です。
  モヤシ、枝豆、大豆、大豆油、煮豆、きな粉、醬油、味噌、納豆、豆乳、おから、湯葉、豆腐、油揚げ、厚揚げ、焼き豆腐、湯豆腐、凍み/高野/豆腐と、あげたら一息では済みません。
  近所のスーパーなどの店頭で豆腐や納豆が日々山と積まれるようすを見るにつけ、よくもまあこんなにたくさんのダイズが国内外で生産されているものだと思います。



▲ ツルマメ/Glycine soja/(公財)野口研究所/板橋区・加賀

  ダイズの原種はツルマメだとされています。
  ツルマメとクズ/葛/はともにマメ科のツル性植物で、葉は極めてよく似ているので、花を見ないと違いか判らないほどです。
  ツルマメの花は控えめでダイズにとてもよく似ていますが、クズの花はノボリフジ=ルピナスやアカンサスのように自立式で下から咲き始めます。
  よくよく見るとクズの葉の方が色が濃く、葉脈がやや太くたくましい感じがあります。
  クズの塊根からは「吉野葛/よしのくず」などでお馴染みのデンプンが生産されます。

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  ショージ師匠は「草眼」ばかりではなく、素晴らしい「虫眼/むしめ?」をも備えているので、撮影後抜き取った大豆の茎に大きなイモムシを発見してくれました。▼
  後で調べると、ダイズを食草 host plant とするトビイロスズメというスズメガと思われる若齢幼虫でした。
  色・形とも明らかにダイズの茎に合わせた保護色・擬態となっていて、蝉坊の眼にはまったく映りませんでした。
  健気で美しいこのイモムシ、触ってみると炎天下ひんやりとしてとても軟らかな生命体でした。
  ショージ師匠は、害虫以外の何ものでもないというのですが、成敗するのも忍びなく、ちぎって棄てられた大豆の葉の山のうえにそっと置いて帰ってきました…スミマセン…。



▲ トビイロスズメ/鳶色雀/の若齢幼虫
Clanis bilineata tsingtauica/鱗翅目/スズメガ科/ab.80mm

  こればかりではありません。
  今回の取材の最後に、別の区画でショージ師匠が見つけてくれたさらに大きく美しいイモムシ。▼
  サトイモを食草 host plant とするセスジスズメという、これもスズメガの1種の若齢と高齢の幼虫各1頭。
  とくに若齢幼虫の体側の「夜汽車/か夜間飛行機/の窓」のような紋様のひょうきんさ。
  型落ちの「火星人のアンテナ」のようなトゲ/尾角/がゆっくり動くのも初めて観察しました。
  高齢幼虫は夢中でサトイモの葉の食事中でした。
  どちらの意匠も、鳥類から身を守る「威嚇」のための擬態紋様と想われます。
  思わず「素晴らしい!最高!」と叫んで、畝の谷間を飛び跳ねるようにまたぎながらシャッターを切りまくりました。
  ショージ師匠は、暑いなか寡黙に微笑みながら珍しいダンスでも観ているように素人カメラマンを眺めていました。
  こうして炎天下の「ワンダーランド」の時間はあっという間に過ぎていきました。
  今からでも遅くはない、「草眼」、「虫眼」、「樹眼/きめ?」や「鳥眼/とりめ?」をもっともっと磨かなくては!



▲ セスジスズメ/背筋雀/の若齢幼虫
Theretra oldenlandiae/鱗翅目/スズメガ科/ab.80mm



▲ セスジスズメ/背筋雀/の高齢幼虫
Theretra oldenlandiae/鱗翅目/スズメガ科/ab.100mm

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  さて、ダイズ畑で思い出されるのが不朽の映画「エデンの東/East of Eden /1955/USA 」。
  第一次世界大戦ごろのアメリカ西海岸の農業地帯にあるサリナスSalinasという実在の町を舞台に繰り広げられるこの物語は、主演のジェームス/本当はジェームズ/・ディーン/ James Byron Dean /1931年2月8日 - 55年9月30日/を永遠の大スターにした名作。
  サリナスは原作者ジョン・スタインベック/ John Ernst Steinbeck /1902 - 68/の生まれ故郷で、同名の小説は蝉坊の生年と同じ1952年に発表され、旧約聖書「創世記」に記された双生児、カインとアベル兄弟の物語を題材に創作されました。
  父親がサリナス名産の「レタス」の冷蔵出荷への投資で受けた決定的なダメージを、ジェームス・ディーン扮する二男キャル/ケイレブ/が、世界大戦を背景に「ダイズ」の先物取引で取り戻す、いわば親のレタスの仇を倅がダイズで果たすというプロット。
  カリフォルニアの大農場で地平線まで続く「遠近法」のダイズ畑の畝の谷間に、ジェームス・ディーンが純真な子供のように寝転び、ダイズの苗の成長を楽しみに待ち焦がれるという場面が印象的でした。▼


  新進気鋭のいわばニュー・スターを畑のなかに腹ばいにするという演出は、この映画の監督、エリア・カザン/ Elias Kazanjoglou /1909 - 2003/ならではの自由な発想ではなかったでしょうか。
  周囲には粗暴な態度をとるキャルの優しく純真な内面が、誰にも言葉なしにひと目で解ります。
  これが、観るものにジェームス・ディーン本人の人柄とオーバーラップして観えるという効果を及ぼしたように想います。
  実はこのカットのおよそ10分前に、不意に何気なくこれと同じ畑の景観が映されている場面があります。
  近くの都会モントレーから貨物列車に無賃乗車してサリナスに帰ってきたキャルが、手馴れたように軽く飛び降りたところの背景です。▼
  スタインベックのやんちゃ少年のころの体験でしょうか。


  サリナスの町の景観の特色とストーリー展開の伏線・暗示を表現したものと思います。
  こちらに植わっている作物は「レタス」です。
  時系列的には、レタスを収穫したあとにダイズを植えたということになります。
  どちらのカットも10秒程度の長さで、台詞も何気もないインサートされただけのような映像ですが、重要なターニングポイントとなっていると思います。

  ジェームス・ディーンは1955年に「理由なき反抗/ Rebel Without a Cause 」と「ジャイアンツ/ Giant 」と立て続けに名画に出演し、ジャイアンツの撮影から1週間後、奇しくもサリナスで開かれるカーレースへ愛車ポルシェで向かう途中、突然の事故で帰らぬ人となりました。
  享年25。
  映画「エデンの東」の日本での封切りはその4日後。
  レナード・ローゼンマン/ Leonard Rosenman /1924 – 2008/が作曲した同名の主題曲は、映画公開とともに日本のヒットチャート/ユア・ヒットパレード/の1位となり、以後連続35週間首位を続け、36週目に映画「誇り高き男」のテーマにトップの座を譲りましたが、すぐに奪い返して通算79週の1位、その後3年にわたって年間ランキング第1位を続けるというとてつもないエピソードを残しました。

  聖書を題材にした「エデンの東」、ギリシア神話を題材にした「黒いオルフェ/Orfeu Negro/1959」など、西洋の古くからの教訓的な物語は、話の筋は解るのですが、深層にあるものの重さが今もってよく解りません。
  日本の「忠臣蔵」や「二十四の瞳」や「となりのトトロ」の温かいものが、欧米の方々に通じるのだろうかという疑問と同じことなのでしょうか。



●「エデンの東」 -DVD-
監督/エリア・カザン  脚本/ポール・オスボーン
原作/ジョン・スタインベック  製作/エリア・カザン
出演者/ジェームズ・ディーン  ジュリー・ハリス
レイモンド・マッセイ  ジョー・ヴァン・フリート
音楽/レナード・ローゼンマン  撮影/テッド・マッコード
編集/オーウェン・マークス  製作・配給/ワーナー・ブラザーズ
公開/USA; 1955年4月10日  日本; 1955年10月4日
上映時間/115分  製作国/USA

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  撮影を終えた採れとれの「ショージ農園産枝豆」は、奥さまに手際よく莢の両端をカットされ、青あおと茹であげられて、早速食卓上に登場しました。
  が、そのうまさについつい摘まむに任せ、取材シャッターを切ることをすっかり忘れてしまいました。
  シャッタァ~!?


枝豆の莢からポルシェ跳んで出る  蝉坊



《 関連ブログ 》
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会員の投句作品と互選句の掲示板。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu0123
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川柳と音楽、映画フリークの独り言。
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