「けやぐの道草横丁」

身のまわりの自然と工芸、街あるきと川柳や歌への視点
「けやぐ」とは、友だち、仲間、親友といった意味あいの津軽ことばです

#25.南部鉄器 カレー鍋 「 右腕 」 くん

2013年12月13日 | 工芸


  うつわとの衝撃的な出会いは、碗や皿や丼などテーブルウェアに限ったことではありません。
  画像の鋳鉄鍋も、まるで「私を待っていたかのように」手を振って迎えてくれた長年の「けやぐ」です。
  20年以上前の南部鉄器の展示会場での衝撃的な出会いでした。
  作り手は、偶然にも小ブログ 『#3.南部鉄器 鉄瓶「なぎさ」くん』で紹介した鉄瓶と同じ、岩手・雫石町の「七ッ森工房」佐々木健太郎さん。
  本名は「煮込鍋」。「あらゆる煮込み料理にお使いください」というご配慮なのでしょう。
  この「煮込鍋」、私にとっては「親父カレー」作りの冷静沈着な長年のコーチであり、抜群の実績と信頼感に敬意をこめて、私の「右腕くん」と銘々し、披露したい逸品です。

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  この「右腕くん」、いわゆる「キッチンオーブン」といわれるタイプの鋳鉄鍋。
  レンジにかけやすいよう底は平らに、しっかりと厚く重たい蓋がついています。
  もちろん「鉄瓶なぎさくん」同様 I Hヒーターでも使えます。
  鋳鉄鍋の肉の厚さが急激な局所的温度変化を抑え、鍋全体で温度を均一に保ちながら高めていくので、食材にじっくりと火が通ります。
  暖め続けると、水分が水蒸気となって身と蓋の隙間を埋め、蓋の重さから密閉状態となり、いわゆる「圧力鍋」と同じような高気圧状態になると思われます。
  水分が蒸気として逃げにくいため、食材の水分を利用した無水(あるいは節水・省水)調理ができる「ダッチオーブン」と同じような調理効果があるともいえます。
  ですから、ガスレンジに掛ける場合は、一貫して「とろ火」=最小の炎のままでよく、火加減の心配が要りません。
  あとは食材投入のプライオリティとタイミングさえ遵守すれば、「右腕くん」が自らおいしいカレーに仕上げてくれます。
  なにしろ親父カレー、急ぐ必要がまったくありません。
  定刻まで時間をたっぷりとかけ、鍋や食材たちと対話しながら調理を進めてゆくことそのものが、なによりの楽しみなのです。

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  造形については、なんといっても黒光りのする鋳鉄肌に、重厚な存在感があります。
  にもかかわらず、全体としてやわらかな感じ、肩肘を張った感じがありません。
  身も蓋も、縁周りは手なり感のある自然な曲線で丸めてあり、定規をあてたような角張った線の縁が全くありません。
  腰から上がややつぼまった緩やかな逆勾配になっていて、量産型の作品ではないことがわかります。
  また、身の上部に周回している2本の筋が、キリリと全体を引き締めています。
  さらには、向かい合わせで取り付けられた「鐶(釻)/かん」を併せ、総じて細やかな気配りのいわゆる「和」の味を印象づける、優しさをテーマにした作品=調理用の道具と受けとめました。

  「鐶」は主に茶釜に取付けられるもので、炉に吊り下げるための器具です。
  「右腕くん」と出会った当時は、「アウトドア」でも使えるとか、「囲炉裏」にも吊るせるなどとイメージもしたものですが、いまだ実現していません。
  「鐶」といえば、お地蔵さまの持物である「錫杖/しゃくじょう」が想い出され、民話「笠地蔵」で七体のお地蔵さんが老いた夫婦のあばら家へ行進してくる場面、退却する場面を読むときには、この「錫杖」のシャク・シャクという音が聞こえてくるような気がしたものです。
  このイメージがあったためか、「右腕くん」の「和」の感じが私にとっては衝撃的な出会いでした。
  カレーの日にはこのような日本古来の造形がキッチン空間にデンと構えることになるのですが、この取り合わせ=コラボレーションがなんとも心地いいのです。

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  カレーライスとスパゲティの調理は大方担当し、ちゃんと機能しているものとは思っています。
  最近は何かにつけてドライな娘たちも、「おいしい、おいしい。」といってくれるのは、還暦親父への気遣いなどではなく、クッキングを楽しんでいる親父へのエールなのだと思いたくなります。

  カレーライスは、インド料理を元にイギリスで生まれ、日本でアレンジが加えられたものだそうです。
  月に2・3日はカレーの日になります。食材の買い出しから調理、盛り付け、皿洗いまでを楽しみます。

  野菜たちはスーパーより古くからの商店街(近所に2か所)をぶらぶら道草しながら探します。
  カレーの「三種の神器」といわれるジャガイモ、ニンジン、タマネギについて簡単に復習してみます。

○ジャガイモ/馬鈴薯/Solanum tuberosum L./英;potato。ナス科ナス属の一年草の地下茎。南米アンデス山脈原産。江戸時代当初インドネシア・ジャカルタ港から輸入された。
○ニンジン/人参/Daucus carota subsp. Sativus/英;carrot。セリ科ニンジン属の2年草・多年草の根。アフガニスタン原産。東洋系は細長く、西洋系は太く短い。「金時ニンジン(京人参)」は東洋系の代表。
○タマネギ/玉葱/Allium cepa/英;onion。ヒガンバナ科ネギ属の多年草の鱗茎(葉)。中央アジア原産。ニンニクの同属異種。

  世界中からやってきた「三種の神器」は、カレーソースのなかで形のあるなしにかかわらず、どれも大好きです。
  とくに近年はいずれも小さいサイズのものがよく出まわるようになり、核家族にとっては「使い切り」がよく、見た目にも可愛いのでよく求めます。

  だいぶ昔、大女優・佐久間良子さんを起用した某カレールウのテレビCMで 「ジャガイモは入れないほうがおいしいのよ」と繰り返し繰り返しPRしていたのが、今でも耳に残っています。
  “このカレールウには…”ということだったのでしょうが、今となっては商品名は記憶になく、ジャガイモを使わないほうが本格的な、あるいは先進的なような意味あいが、一人歩きして誘惑するごとくのある種の戸惑い感が残っています。
  当時としてはオピニオン・リーダー的な性格を持たせた画期的なCMだったのかもしれませんが、子供ながら、ジャガイモ生産農家に対する配慮が欠けているのではないかと思わずにはいられませんでした。

  ジャガイモ云々以前に、ライスは本来のインディカ種ではなく、圧倒的にジャポニカ種を食べるわけですから、日本のカレーはそもそも日本流なのです。
  国民食というものにカレールウ・メーカーがいろいろ指図することそのものが、すでにフェアじゃない、勇み足だと思ったものです。
  消費者一人ひとり好みの食材を入れようと入れまいと「カラスの勝手でしょ!」でしょう。
  そのこともあってか、ジャガイモ(男爵)は欠かすことなく登場してもらっています。
  ジャガイモの皮むきは大好きな手作業のひとつです。新ジャガはむかずに楽しみます。
  ニンジンもタマネギも小ぶりなものはおもちゃのように可愛いく、とくにタマネギは刺激が少なく甘味が強いように思います。

  その次に欠かせないのが、セロリ/おらんだみつば/Apium graveolens var. dulce/英;celery、セリ科オランダミツバ属の多年草の茎・葉。ヨーロッパ・中近東の冷涼な高地の湿原原産。
  料理研究家の小林カツ代さんが以前番組で「小林家のカレー」について話していたのを実践してみたら、とても薫り高く丸みのある味に仕上がるので、以来仲間に加えています。葉っぱもザクザクと刻んで投入します。

  そのほか、ブナシメジ/橅占地/Hypsizygus marmoreus/シメジ科シロタモギタケ属/や、エリンギ/Pleurotus eryngii/ヒラタケ科ヒラタケ属/などのきのこ類を一種類投入します。辛味のなかにほどよい風味が味わえます。
  ナラタケ/楢茸/Armillaria mellea subsp. Nipponica/キシメジ科ナラタケ属/は、ボリボリ(北海道)、サモダシ(青森)、ボリメキ(岩手)、サワモダシ(秋田)などともいわれる北の味ですが、ぜひいちどカレーにも使ってみたいと思っています。

  もちろん、ニンニク/蒜/Allium sativum/ヒガンバナ科ネギ属の多年草の鱗茎(葉)/英;Garlic/中央アジア原産/と、ショウガ/生姜/Zingiber officinale/ショウガ科の多年草の塊根/英;Ginger/熱帯アジア原産/を包丁でつぶし、みじん切りにした香料は欠くことができません。ショウガを加えることは、旧友F.テッちゃんから伝わった文化でもあります。

  動物性たんぱく質食材は、主にニワトリ/鶏/Gallus gallus domesticus/キジ科ヤケイ属セキショクヤケイ種の亜種/英;Chicken/の「手羽もと」を骨付きのまま使うのが常です。
  次の3月で終了が決まったという「笑っていいとも!」で、タモリ氏も「カレー料理というのは、チキンに限りますねぇー!」と話していたので、顔でニンマリ・心でガッツポーズです。
  チキンの骨のスープの味わいが決め手。食べるときにちょうど身ばなれがよくなるように煮込むと大成功!だと思っています。

  ちなみにここ6・7年を通じて嗜好しているカレールウは、「横濱舶来亭/カレーフレーク/こだわりの中辛/エバラ/本社=横浜市西区/工場=茨城県境町(製造)・埼玉県加須市(パッキング)」です。
  原材料の食用油脂に牛脂ではなく、ラードとオリーブ油を使用しているのが決めてです。スッキリした辛さに安定感と好感が持てます。

  なお、カレーを味わったあとは、残ったソースを保存容器に早めに移し替え、鍋の内部をティッシュで拭き、中性洗剤で水洗いして少し加熱し乾燥させたら、キッチンペーパーに食用油を少量含ませて鋳肌に薄く油膜を引き、鉄の酸化を防ぐことが肝要です。鋳物の肌が生き生きとして味わいが増し、次回の使用時に爽快感が得られます。

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  日本で初めてカレーライスの調理法を紹介したのは、『西洋料理指南』/敬学堂主人著/1872(明治5)年刊行/と、『西洋料理通』/仮名垣魯文著/同年刊行/の2誌だそうです。

  さらには、日本人がはじめてカレーライスに出会ったのは1863(文久3)年のことで、江戸幕府の横浜鎖港談判使節団(第2回遣欧使節)随行員の三宅秀という人が、船中でインド人が食事するようすを見て「飯の上へ唐辛子細味に致し、芋のドロドロのような物をかけ、これを手にて掻き回して手づかみで食す。至って汚き人物の物なり」と日誌に記しているそうです。どなたさまか、よくぞ調べていただきました。

  文久3年といえば、動乱の世のさなか、下関事件や薩英戦争など外国との負の交流があった年。
  読んで字のごとく、カレーライスのふるさと大英帝国とのもめごともこれありの年でした。
  …とすると、なんと、ちょうど今年が「日本人とカレーの出会い150周年」の、アニバーサリーイヤーだったということになるではありませんか!
 

  鋳鉄鍋「右腕くん」の周辺について調べてみたら「瓢箪から駒」、こんな珍発見とも出会うことができました。
  親父カレーの世界にますますの興味と実感が湧いてきそうな「鋳物が身近にあるくらし」、おすすめです。


親父カレーまたほめられる鋳物鍋  蝉坊



▲ 画像data; 煮込み鍋「右腕くん」/南部鉄器/なんぶてっき
七ッ森工房・佐々木健太郎/伝統工芸士/岩手・雫石

体高=117mm/縁径=190mm/底面径=170mm
最大径=200mm/総重=3,000g!/蓋重=800g
つまみ高=25mm/つまみ径=37mm
総容=3,000㏄/鐶径=36mm



《 関連ブログ 》
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