「けやぐの道草横丁」

身のまわりの自然と工芸、街あるきと川柳や歌への視点
「けやぐ」とは、友だち、仲間、親友といった意味あいの津軽ことばです

#18.タマネギ!…のような、ニンニク !! -私のワンダーランドとショージさん-

2013年07月06日 | 植物
▲ 居住まいを正した大きなニンニクとタマネギ

  思わず「タマネギ!のような、ニンニク!だね!」といってしまいました。

  先日7年ぶりに埼玉・K市のショージさん宅で、一宿三飯のお世話になってきました。この大きなニンニクは、重さ140g、周囲240mm、平均直径76mmもあり、町内の農地でショージさんが得意技を楽しんでいる、いわば「ショージ農園」で穫れた、「福地ホワイト6片」という青森産の高級ブランド種です。大きく育ったのは、前年の9月に初めて作付けし追肥も結構やりましたが、それまでの長年にわたるいろいろな野菜の作付けの過程で形成された土壌の環境がこのニンニクの生育にあっていて、その養分を独り占めできたからではないかとのことでした。おかげで、おいとまのときには、配偶者ともどもリュックと両手に持ち切れないほどのさまざまなショージ農園産野菜をいただき、先の大戦時の食糧調達さながらの体験を味わう深夜の帰京とは相なりました。

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  ショージさんは母の姉の子で5歳上の従兄です。そして実は、マンツーマンで私の幼児期のパーソナリティ形成に圧倒的な影響を与えた「エコロジー=生態学」の恩師でもあります。ご本人にはそのような認識はないとはいいますが、私がいまこうしてセカンドライフの楽しみをそれなりに表現できているのも、ショージさんのおかげであることは、紛れもない事実なのです。「三つ子の魂百まで」といいますが、私の場合現実のこととなっています。

  「エコロジーの恩師」とはどういうことかといいますと、物心ついてから小学生までの間、私は母の実家に連れられて行くたびに、近所のショージさんを訪ねるのが何よりも大好きでした。ショージさんは私を山や川や田んぼ、いわゆる「里山」に連れて行ってくれました。私はまるで「金魚の●●」のように、どこに行くにも嬉々としてチョコマカとついて歩いたものでした。そして、当時の私の普段の生活圏にはまったくない、さまざまな景色や動物や植物、さらにはそれらとの関わりあい方について身をもって教えてくれたのです。

  例えば単にキノコ採りやムシ捕りの名手なだけではなく、どの季節にどこへ行けば何があるかを知っていて、そのうえあるだけ捕ってしまえば、翌年には見つからなくなることをも知っていたので、何ものをも取り尽くすことなく、後ろを振り向くこともなく、平然とその場を移動するのです。何度も体験を積むうちに、私はそこにショージさんの、自然に対する思いやり、弱い立場のものに対する慈しみといった姿勢を深く学びました。ですから、幼いころから私にとってショージさんはまさに「正義の味方」であり「ヒーロー=英雄」だったのです。その時間と空間は、まさに私の「ワンダーランド」でした。

  私のふるさと青森市A町は、青森湾に面した、秋田方面からの「羽州街道」の終点の地であり、かつ北海道への「松前街道」の始点の地でもあります。ショージさんのふるさとO町は、その羽州街道を西に上るひとつめの集落でした。距離にしてわずか3kmほどしか離れていないのに、微妙に異なる津軽弁を話すふたつの町。現在では宅地化が進み、町境も不明な状況となっているのに、いまから50年前のあの文化の違いは何だったのだろうと考えると、そこに双方の町が歩んできた歴史の積み重ねを感じ取ることができます。

  A町は、最近の考古学の成果によると、古代・平泉時代から北海道や大陸や上方へ開かれた北の玄関口、いわゆる「国際自由交易港湾都市」として、各地の文化や経済が直接入り込む町、上方の大商人や資本家の北の前線基地・コロニーとしての性格を持つ特殊な地域としての歴史があるようです。青森市発行の「新青森市史」(平成23年3月刊)にも重要な比重を担って記述されています。現在の青森市や弘前市よりも相当早くから都市化していた町と思われます。

  かたやO町に関する記述は「新青森市史」には、まったくといっていいほど見当たりません。室町時代に入植が始まったという言い伝えがあるのみです。このことが意味することは、O町は食糧の自給自足経済が長い時代にわたって続いてきた典型的な農村、他の地域に依存する必要のない、自立したコミュニティだったのではないかということです。そのせいもあってか、私にとって、先の大震災直後にメディアに取り上げられた文部省唱歌「故郷/ふるさと」(1914年/大正3年)の歌詞に繰り広げられるイメージは、まさにO町周辺そのものの風景なのです。(高野辰之・作詞)

1. 兎追ひし彼の山  小鮒釣りし彼の川
夢は今も巡りて  忘れ難き故郷
2. 如何にいます父母  恙無しや友がき
雨に風につけても  思ひ出づる故郷
3. 志を果たして   いつの日にか歸らん
山はき故郷  水はき故郷

  
  そこで、もう速いもので半世紀も前になってしまいましたが、ショージさんとの交流の記憶を具体的にたどってみました。(すべて資料画像)

  まず動物から。ショージさん宅で飼っていたことのある哺乳類のうち家畜(津軽では家畜を「たてる」といいます。)は、
 ノウサギ、 ヤギ、 ヒツジ、 ブタで、それぞれに名前がついていたように思います。
  ペットは真っ白な  ネコ、いつも体調が優れませんでした。
  続いて恒温動物の鳥類では、リンゴ園で営巣を見せてもらった  キジバト。
  いまでいうロフトの窓から棟木の隙間で深夜に寝ていたところを手づかみで捕まえた  スズメ、小さいのに必死で逃れようとする野生の力に驚きました。
  変温動物では、伐採した跡の山で見つかって小枝に吊るされた  ヤマカガシ、毒蛇だったことは最近知りました。
  お家の前の田んぼの用水路を堰き止めて捕った  モクズガニ(かわがに)、挟まれたショージさんの指から真っ赤な血が流れ出ました。これを真っ赤に茹でて美味しくいただきました。
  同じく  ナマズ、生姜醤油漬けにして焼いて食べたような気もしますが、以後お目にかかったことがありません。
  続いてショージさん宅のすぐ裏を流れる天田内川(あまだないがわ)の清流に上ってくるのを置き針で釣り上げる  アユ、伝聞により形成されたイメージかも知れません。
  昆虫では稲刈あとの田んぼの粘土に穴を掘り、稲藁で格子の牢を作っていっぱい閉じこめた  イナゴ、青森ではイナゴ食文化はなかったようです。
  植物では上に挙げた伐採地でバナナのようにぶら下ってなっていた  アケビ。
  くるりと逆さ円錐形に丸めてコップ代わりに沢の水を飲むことを教えてもらった  クマザサの葉、容器の原点を見た思いです。
  実験中のものでは、板ガラスで挟んで土中の営巣を観察する  アリ。
  ビーカーに吊るして過飽和状態から成長していくのを観察する  砂糖の結晶。
  芸能関係では、たしか“オーレーはーカーワラーのーカーレスースーキー(船頭小唄)”と弾いていたような  バイオリン。
  はたまた津軽伝統人形芝居の「金多・豆蔵(きんた・まめじょ)」に触発されてかの  指人形の頭(木偶/でく)、それに触発され私は実家でも指人形を何体か制作し、東京にきてからも子供らにオズの魔法使いの指人形を作ってあげたことがあります。
  そして  「釘切り」には、O町のご近所のからだとことばがご不自由な老人が、ときどき杖を突いてショージさんを訪ねてくるたびに、その手足の「爪」を切ってあげていたことが鮮烈に思い出されます。めぐまれない人に対しても慈悲深く対応されていたショージさんは、やはりヒーローでした。

  稲刈の季節にO町を訪れると、まさに絵に描いたように、戸締りもせずに町中の人が田んぼに出かけてしまうので、静まり返った集落の中に私たった独りという、アニメ映画「となりのトトロ」(スタジオジブリ作品)の一場面にもある情景が、いまでも思い出されます。その場面を見て以来、日本映画の一押しは「トトロ」ですと即答することにしています。

  ところがある日、就職のためショージさんが東京(当時、仙台以南の地はすべて「東京」でした。)へ行ってしまうと聞いたときには、小さな胸が締めつけられるような悲しい想いをした記憶があります。まるで朝日が昇って解けてしまった、「スノーマン」(アニメ映画・ブリッグズ原作)を悲しむ場面のようでした。こうして、英雄ショージさんが主役であった、私の「ワンダーランド」物語は終幕を迎えましたが、素晴しい伝説となって私の胸の中に残ったのでした。

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  さて、大きなニンニクは、生で舐めてみると、刺激がなく甘くて深みがある味でしたので、早速大きなフライパンに大量(いつもの2倍以上)に投入され、トマトベースのイタリアンソースとして調理されました。ソース全体としても甘みがあるので、砂糖は控えめで十分でした。ソースストックとして作っておくと、いろいろに利用できとても便利です。



▲ トマトソースストック、ひとフライパン分。7~8人前。



▲ トマトソースのスパゲティ。うつわはお気に入りの砥部焼。

  家族で舌鼓を打つことはとても大切なことです。本当に美味しいので、ちなみに今日までストックを2回作りました。大きなニンニクがある間、何度もトマトソースの研究ができると想うととても張り合いがあります。

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  あれから50年。私の「ワンダーランド」に登場した師弟は、奇しくも、ともに「東京」でセカンドライフを迎えることとなりました。今後はお互いの家族ともども「エコロジー」の太い柱を囲んで、健康に留意し、新たな「ワンダーワールド」を構築していきたいものと願わずにはいられません。ともあれ、私のヒーロー、ショージさんに感謝の乾杯!!です!


ニンニクのあいだにトトロぶらさがり  蝉坊



■ ニンニク/蒜、大蒜、葫/Allium sativum:ヒガンバナ科ネギ属の多年草。中央アジア原産。英名:ガーリック/garlic。2月29日は「ニンニクの日」(4年に1度)
■ タマネギ/玉葱/Allium cepa:同じくヒガンバナ科ネギ属の多年草。ニンニクとは同属異種。中央アジア原産。英名:オニオン/onion。ネギの花は花ビラが開くが、タマネギは花ビラが開かない点で区別できる。

※別稿の「工藤省治」さんと、本稿の「ショージ」さんとはもちろん別人です。




《 関連ブログ 》
● けやぐ柳会「月刊けやぐ」電子版
会員の投句作品と互選句の掲示板。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu0123
● ただの蚤助「けやぐの広場」
川柳と音楽、映画フリークの独り言。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu575

4 コメント

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Unknown (ニド)
2013-07-19 12:57:45
街歩きの中での出会いや、自家製トマトソースのストックづくりなど、充実した日々のご様子を楽しく読ませていただきました。砥部焼にパスタの赤が映えて、とっても美味しそうです。
こんにちは。 (蝉坊)
2013-07-19 13:49:37
ごらんいただきありがとうございます。
幼いころの記憶をいつか書いてみようと思ったのですが、書いてしまうと記憶から消えていきそうな気がしています。
ふるさとはなんともいえずいいものですね。
ニド28号 (蝉坊)
2013-07-19 17:43:08
ついさきほどニド28号届きました。
読者の眼に寄り添うような視線が大好きです。
小生もこのところ台所のことが重要なテーマとなってきましたので、大いに参考にさせていただきます。
ありがとうございます。
Unknown (ニド)
2013-07-23 19:32:57
弊誌をご覧くださって、ありがとうございます。
人気の高い台所道具ですが、今回はモノの紹介よりも、
実際に使っている人を中心にした構成にしてみました。
蝉坊さんのキッチンライフの中で、少しでも
お役に立てるアイディアがあればとても嬉しいです!



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