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田園都市の風景から

筑後地方を中心とした情報や、昭和時代の生活の記憶、その時々に思うことなどを綴っていきます。

横武クリーク公園と映画「張込み」

2018年06月04日 | 日々の出来事

 佐賀県神埼市の横武地区にクリーク公園があります。クリークとは農業用水路のことで、昔からのクリーク風景を残した6ヘクタールほどの公園です。普段は魚釣りに訪れる人がいる程度です。

 筑後川が流れ込む有明海は干満差が6メートルあり、満潮時には20㎞以上も上流の久留米市付近まで海水が逆流して、水位が上昇します。比重が重い塩水は下に潜り込み、上面を流れる真水を樋門から取水してクリークに取り入れます。いわゆるアオ(淡水)取水です。

 筑後川下流の筑後・佐賀平野ではクリークが網の目のように、あるいは迷路のように張り巡らされていました。今では久留米市に筑後大堰が建設されて水源が転換され、クリークも統廃合されました。この公園では昔ながらのクリーク風景が少々こぎれいに残されています。

  この地方を舞台にした小説やドラマでは、水郷のような風景がよく描かれます。

 松本清張は終戦後、外地から復員して一時、神埼町にあった夫人の郷里に身を寄せますが、そこはこのクリーク公園から1キロばかり南です。彼の自伝「半生の記」では、復員後、国鉄神埼駅で降りた彼が村まで辿りついて、畑で鍬を打っていた妻と再会する印象的な場面があります。

 そこでは、町や村の様子を「山は遠く、見渡す限りの田圃にはいくつもの掘割があった」 (妻と両親が住んでいた)「その古い百姓家はかなり大きな家だったが・・・・・・このあたりは水を湛えた濠が縦横に走り、櫨の立木がならぶ美しい田園である」と描写されています。

 クリーク公園にはこの地方独特の、くど造りの民家が復元されています。清張の夫人が住んでいた家も、そう変わらない風景だったでしょう。ただ、その家はぼろぼろに古びていたそうです。

 家の内部です。中学生の時、祖母が田舎に里帰りした際に同行したことがあります。その家の様子がこういう感じでした。

  農具小屋には足踏み水車がありました。町っ子の私には経験がありません。

 国道沿いの「大町橋」バス停です。横武クリーク公園へはこの交差点から左に入ります。ところで、このバス停の名前を見てピンときた方は、よほどの映画ファンです。

 ここは松本清張原作の映画「張込み」(昭和33年)のロケ地になりました。佐賀市内から市営バスで来た、高峰秀子演じる「さだ子」がこの大町橋バス停で下車します。

 大木実と宮口精二の二人の刑事がさだ子を尾行しています。ロケ当時は周りは田圃で、映画ではバス停前の雑貨屋の少年に刑事がバスの時間を尋ねるシーンがあります。雑貨屋のあった場所は仏壇店になっていますが、壁には「貸店舗」の紙が貼られていました。

 さだ子はバス停から3キロほど北にある唐香原という集落まで、この道を歩いて行きます。横武地区はその途中です。当時この道路はもっと狭く、もちろん舗装もされていませんでした。さだ子が恋人だった犯人に会うと思っていた刑事たちは、親戚の葬儀に来たのだと知って肩透かしを食らうのです。

 清張夫人の実家はここからすぐ近くです。小説には葬儀のエピソードはありませんが、あるいは原作者に敬意を表して、ここをロケ地に選んだのかも知れません。映画では佐賀市内の掘割や、空撮による田園地帯が印象深く描かれています。

 

 

 

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8 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
松本清張さん (tango)
2018-06-05 08:03:07
大好きです
まと今日のアップの記事も風景も良い勉強に
なりました
感謝です
清張館は近い所にあります
返信する
おはようございます、 (takezii)
2018-06-05 08:39:17
クリークと農村の風景が残されているんですね。長閑さが伝わってきます。
松本清張の映画のロケ地でしたか。
清張ゆかりの地でもあるんですね。
九州さんの素晴らしい紀行文と写真、
まるで NHKの放送を見て入る如くです。
こういう所を ぶらり歩きたいものです。
返信する
tango様 (九州より)
2018-06-05 11:03:16
こんにちは。
松本清張の本はだいぶ読みました。
彼は幅広いジャンルで作品を書いていますね。
小倉の記念館には一度は足を運びたいと思っています。
ただ、久留米からはなかなか遠いです。
返信する
takezii様 (九州より)
2018-06-05 11:14:33
こんにちは。
このクリーク公園は前から気になっていました。
先日、佐賀に行った帰りに寄ってみました。
この記事を書くために図書館から本とDVDを借りて再読、再見しました。
「張込み」は何度か観ていましたが、いい映画です。
ブログを書いていて、映画鑑賞を反芻するようで楽しかったです。

返信する
張込み (お母ちゃんの徒然)
2018-06-05 19:01:02
ハイ 覚えていますもの
撮影されている現場も見に行きました
確か監督は野村芳太郎監督ではなかったかしら
たくさんの名作を遺されました
高峰秀子さんお綺麗でしたよ

わざわざ熱心に図書館まで行かれて本とDVD再見
ブログUPお疲れ様でした
懐かしくブログ拝見いたしました
有難うございます
返信する
お母ちゃんの徒然様 (九州より)
2018-06-05 22:01:45
驚きました。
当時、撮影現場に行かれたのですね。
いま、映画評論家の西村雄一郎氏が書いた「清張映画にかけた男たち」を再読しています。
「張込み」の撮影について一番詳しく、正確な情報が書かれています。
何せ、彼は「張込み」に出演した俳優たちが宿泊した「松川屋」の5歳の長男坊だったのです。俳優たちとの当時の交歓風景も書かれています。
映画はいいものです。
まだ本を読みながら余韻に浸っています。
返信する
懐かしい映画と小説 (雨あがりのペイブメント)
2022-09-02 11:03:53
 「張り込み」いいですね(小説も映画も)。
私は特に野村芳太郎監督の映画が好きです。
キャストもいいですね。宮口精二、大木実のベテラン刑事と若い刑事の張り込み行で描かれる対比がいいですね。また、高峰秀子の変化のない生活の中で欝々としながら暮らし、破滅への道をたどらざるを得ない役柄がいいし、刑事でありながらこの女に感情移入していく若い刑事の大木実の描き方もいいですね。それからもう一つ、犯人の恋人役として高千穂ひずるが出ているのもいい。少年の頃好きだった女優の一人でした。
 清張の短編では、「張り込み」「顔」「声」等が好きな作品です。
 最近の清張作品は、清張の名を借りた原作とはかけ離れた映画やドラマが多く失望します。
 昭和30年代を舞台にした清張作品と令和の時代では時代背景や視聴者の好みも代わり仕方のないことかもしれませんが、それだったら、「清張原作」ではなく「清張原案」にしてほしいなどと思います。
 季節の変わり目、健康に留意しご自愛ください。
返信する
雨あがりのペイブメント様 (九州より)
2022-09-02 19:56:11
こんばんは。
「張込み」は清張映画でも一番好きな作品で、ビデオで何度か観ています。
佐賀には土地勘があるので余計そう感じるのかもしれません。
プロローグシーンの長い列車風景も懐かしくていいですね。戦後の汽車旅の雰囲気がよく出ています。
出演俳優も良かったです。
テレビドラマの清張作品はほとんど見たことがありません。おっしゃる様に、清張原案といった方がよいでしょう。
たまたまですが、数日前にレンタルビデオ屋で借りた「ゼロの焦点」を観ました。
この作品も評価が高いのですが、私は「張込み」の方が最後に救いがあるので好んでいます。
コメント有難うございました。
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