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唯物論の再構築

数理労働価値(第三章:金融資本(1)金融資本と利子)

2023-10-09 09:28:01 | 資本論の見直し

(1)金融資本と利子

  前章(5)が示したのは、余剰生産物が部門内で剰余価値として分離する過程である。そこでの必要労働と剰余労働の区別は、第一に剰余労働力からの必要生産物の分離であり、第二に必要労働力からの剰余生産物の分離であった。しかし剰余労働が必要労働に転じることで、剰余労働力は剰余生産物と必要生産物の両方を取得する。その積極的表現が部門の拡大再生産であり、消極的表現が剰余価値搾取である。したがって余剰生産物が無ければ搾取しようにもできず、搾取が無ければ拡大再生産も無い。一方で前章(5)の拡大再生産モデルは、次の難点を内包していた。
・余剰生産物を持たない必要労働力からの剰余価値搾取
・拡大再生産における蓄積前の蓄積資本需要
・不変資本生産と拡大再生産に充当する資本価値構成の不整合


(1a)貧者からの収奪

 前章(4a)でも指摘したことだが、等価交換の資本循環が一旦確立すると、雇用者による労働者からの搾取は困難を抱える。もともと資本主義社会において労働者は、最低限の人間生活を営む労働力商品である。雇用者がこの労働者からさらに搾取をする場合、例えば労働者に追加労働を課して、追加労働以前と同じ賃金を支払うことにより搾取する。しかし労働者がそのような極貧の人間であるなら、おそらく既に彼の労働可能時間も枯渇している。当然ながら雇用者も、そのような労働者に追加労働を課して搾取できない。このときに雇用者が採用する方策の一つは、一部賃金の借財化である。その雇用者は労働者に最低限に満たない賃金を渡す一方で、労働者に不足分の生活費を貸し付ける。もっぱらその貸付の名目は、雇用者の善意に基づく賃金の先払いである。しかしその労働者の借財は雪だるま式に膨張し、労働者を奴隷化する。そして負債の支払いに耐え切れなくなった労働者は、生きた姿か死んだ姿かを問わず、或る日を境に負債を親族に残して、雇用者の元から逐電する。なおここでの雇用者と貸付者は、同一人物でも別人でも内実的に変わらない。ただ別人である方が、雇用者を労働者の不幸の全体俯瞰から解放する。そして雇用者は事実直視から遊離するほどに、自らの良心を痛めずに済む。マルクスが示す資本の本源的蓄積、および産業予備軍において雇用者が行使するのは、もっぱらこの最低限の生活を営む貧者への貸付を伴う搾取である。その雇用者は、労働者に最低限の生活を与え、自らは豊かな吸血生活を楽しむ。しかしそのような資本主義経営は、富める雇用者と貧しい労働者の二極構造を隠せない。加えてこの剝き出しの資本主義の姿をした搾取要領は、資源枯渇するまで魚を一網打尽に捕らえる。そのあからさまな搾取経営は、前近代的であるとともに持続困難である。それは貧者の側に階級的怒りのマグマを蓄積させ、流血の階級対立を引き起こす。もちろんその階級対立は、資本主義を短命に終わらせる可能性さえ持つ。そこで雇用者による搾取は、分業と協業、機械の導入を通じた生産工程の省力化を目指す。そしてその省力化を媒介にして、雇用者は労働者に追加労働を課して搾取する。それゆえにこの拡大再生産の難点は、省力化を実現するための蓄積資本が不足すると言う第二の難点に転じる。ただしこの第一の難点は、上記で示したように、既に資本循環における利子生み資本を胚胎している。


(1b)拡大再生産の原資不在

 前章(4)において筆者は、まず拡大再生産の原資を準備するものとして剰余価値搾取を示した。このことは前章(5b)における不変資本による拡大再生産の資本循環モデルでも変わらない。またマルクスにおける拡大再生産のための原資想定も、同様のはずである。しかしこれらの資本循環モデルには、それが確立した資本循環が等価交換であるほどに、上記(1a)の難点がつきまとう。そしてその難点は、そのまま次の難点と入れ替わる。それは拡大再生産に先行して必要な原資の不在である。またこの難点のゆえに前章(6)に示した資本財部門も、資本循環の始まりに拡大再生産の原資を持たず、代金支払いに先行して不変資本を取得し、その代金支払いを遅延させる。しかしこの不変資本代金の後払いは、マルクスが示した無産資本家による労賃ぼったくりの不変資本版である。無産資本家による労賃ぼったくりの場合、資本家は労働者にまず働かせ、その果実を収穫後に後付けで労賃を捻出する。この場合に資本家は無資本で事業を開始し、利益を得る。資本家は事業に失敗すれば労賃を払わない。また事業に成功しても労賃を払わないかもしれない。さしあたりこのぼったくり資本循環において原資は不要である。それと言うのも遊休可変資本は、それ自体が既に資本だからである。資本主義黎明期の封建支配からの無産者追放に対し、マルクスが「資本の本源的蓄積」と命名したのも、このことに由来する。したがってこの拡大再生産の原資は、実際には不在ではない。それは資本家が空約束で入手した労働力や不変資本として存在する。とは言えいくら悪徳資本家でも、不変資本の取引相手に対して代金未払いを続けられないし、同様に労働者相手に労賃未払いを続けられない。それゆえに原資に不足した資本家は、消費財や資本財を取得する同じ要領で原資を調達する。それが表現するのは、資本循環における貨幣資本の要請であり、利子生み資本の必要である。その資本は、貸し付ける貨幣の代金を、貸付額と利子の合計として受け取る。そこでの貸付貨幣は、利子生み資本にとって原材料であり、貸与して還流する不変資本である。そして利子は利子生み資本にとって、原材料の貸付に要した付加価値であり、貸付労働を担う可変資本の代価である。したがってその財取引の全体は、不変資本と可変資本を一体にした生産財、すなわち原材料と付加労働力を一体にした生産財とそれに対応する人間生活の交換として現れる。それは、財一般の取引と基本的に変わらない。


(1c)拡大再生産に充当する不変資本の価値規模

 拡大再生産のための不変資本は、資本循環の始まりに必要である。そして資本家はその原資を、利子生み資本から調達する。ここでの調達原資は、それ自身が不変資本である。それゆえに不変資本の調達原資の取引は、不変資本取引と同様に、生産財の資本循環に先行する。さらに言えばそれは、不変資本取引にも先行する。その先行する不変資本取引は、前章(5c)において不変資本に対するみなし代金が充当した。ただし筆者はそこでの不変資本のみなし代金を、単純に不変資本に充当可能な蓄積資本の価値量として示した。すなわち筆者は、そこでの不変資本のみなし代金と不変資本生産のための必要価値量を同一視している。しかし不変資本に充当可能な価値量は、不変資本の生産に必要な価値量ではない。あるいは不変資本が果たす仕事の価値量は、不変資本の生産に必要な価値量ではない。言うなれば前者が表現するのは支配労働価値であり、後者は投下労働価値であり、両者の価値量は異なる。そして価格競争を通じて落ち着くべき価値量は、前者ではなく後者である。不変資本が果たす仕事の価値量は、不変資本の導入に伴い減少し、不変資本の生産に必要な価値量に落ち着く。それは新規技術の不変資本が登場するまで大きな労働力を体現していたが、今では以前より小さい労働力を体現する。それゆえに前章(5c)において筆者が扱った不変資本のみなし代金の価値量には、不整合がある。不変資本の生産に必要な価値量が、不変資本購入用に準備した価値量より少ないなら、不変資本購入者の手元に残金が残る。そうでなく不変資本の生産に必要な価値量が、不変資本購入用に準備した価値量を超えるなら、不変資本の購入者は、購入を断念するか、代金を分割払いするかの選択を迫られる。しかし不変資本購入者にとってその購入断念は、同業他社との価格競争の敗北に等しい。それゆえに彼において、不変資本購入を断念するような選択余地は無い。したがってまた彼に不変資本の原資調達を断念する選択余地も無い。そうであるなら資本家は、不変資本の価値規模が巨大で、その支払いが複数回に渡るとしても、その不変資本の取得を断念しない。資本家における貨幣資本の必要は、単に資本循環の始まりにおける不変資本の原資不在に留まらず、不変資本の価値規模によっても要請される。


(2)金融資本における生産財転換モデル

 貨幣は価値の普遍性および不変性を体現する必要があり、その素材にもっぱら鉱物が使われ、最終的に金が選ばれた。それは原材料として言えば消費財かもしれないが、基本的に価値の交換・蓄積手段として資本財である。それは価値基準となるために定型・定量に製錬・加工され、自らの単位生産労働力を体現した価値単位となる。金融資本も最初は消費財部門の一部を成す鉱山業だったかもしれないし、質権を設定して中古品を取引する商業だったかもしれない。いずれにしてもそれは、生産工程を得た資本財部門として分離し、むしろ商業部門の特異な一角へと自らを純化する。それは物財の移動・蓄積サービスでありながら、貨幣の決済・貯蓄サービスだけを請け負い、あるいは物財の転売・貸出サービスでありながら、貨幣の為替・貸付サービスだけを請け負う。金融資本においては貸借貨幣が物財であり、利子・手数料がその貸借サービスの代価である。したがって利子・手数料で増幅した返還貨幣は、原材料と付加価値の合計代価である。それは生産者における卸売価格と変わらず、商業における店頭価格と変わらない。それゆえにその資本循環は、前章(4a)の生産財転換モデルに準じて次のようになる。

[金融資本における生産財転換モデル1] ※m:剰余価値率、p:預金利率


上記資本循環が前章(4a)の生産財転換モデルと異なるのは、まず財一般が全て財代金と同じ貨幣で現れることであり、次にその他部門と金融部門の間に預金金利が現れることである。しかしそれだと金融部門に返される財代金は、預金金利の分だけ余計に目減りする。もちろん金融部門は、この目減りを剰余価値で受け止めずに、自部門の労働者に負担させることもできる。しかしいずれにしても預金金利による財代金の目減りは、金融部門全体の利益を他の生産部門より劣ったものにする。それゆえに預金金利は、金融部門と生産部門の間にも現れなければいけない。少なくとも金融部門は生産部門への貸与元本に対し、預金金利を上乗せする必要がある。ただし預金金利と貸出金利が同じだと、金融部門は資金調達と貸出にかかる労働力をまかなえない。それゆえに金融部門は、該当労賃を預金金利に上乗せて、貸出金利とする。加えてここでの金融部門における資本主義的利益は、自部門動労者からの剰余価値搾取により生じる。それゆえに金融部門は貸出金利に、該当労賃に対応する搾取剰余価値をさらに上乗せる。このことを整理すると、貸出金利を構成するのは、次の三つとなる。
 ・調達金利(ここでは預金金利)
 ・労賃
 ・剰余価値(すなわち労賃×剰余価値率)

[金融資本における生産財転換モデル1での商取引]※▼:出力、△:入力、m:剰余価値率、p:預金利率


(2a)調達金利と貸出金利、卸売価格と店頭価格

 上記の生産財転換モデルの場合、その他部門から金融部門への預金、および金融部門から生産部門への資金提供に異なる利率が使用される。そこでは前者が調達金利、後者が貸出金利として区別される。ただしその内実的な利率は、金融労働の手数料部分を外すと同じである。これは上記の生産財転換モデルが、資本財部門の生産財転換モデルを模したことに従う。ただ実際の調達金利と貸出金利に利率に差異があり、その差異は貨幣資本の貸付相手がそれぞれ金融部門と生産部門として異なることに従う。また金融部門の資金調達先は、自社保有の預金だけでなく、市中金利で得られる他の金融部門の資金も加わる。そして貸出先の担保価値を含めた信用リスクに応じて、金融部門も貸出金利を引き上げる。調達金利と貸出金利の利率の差異は、結局それらの調達業務と貸出業務の業務内容に応じた必要労働力量の差異に対応する。同様に預金金利と貸出金利、および市中金利の利率の差異も、その業務上の必要労働力量の差異に対応する。その差異は元売り各社における卸売価格、および販売店舗における店頭価格の差異と変わらない。それらの価格差異も、物財の供給過程における必要労働力量の差異に収束する。その理解の必要は、やはり物財取引における等価交換の原理的必要に従う。一方で上記モデルにおいて金融部門が生産部門に貸与する元本は、∮sではなく、(∮s+∮g(1+m))である。当然ながら貸出金利を設定する場合、金融部門はそれを∮sではなく、(∮s+∮g(1+m))に対して取得する。この場合の貸出金利の利率は(p∮s+∮g(1+m))/(∮s+∮g(1+m))となる。しかし調達金利と貸出金利を比較する場合、そのように金融部門間と生産部門取引で元本規模を変えると、上記の信用リスクに対応した調達金利と貸出金利の利率差異を考察するのが困難になる。やはり金融部門間と生産部門取引で元本規模を等しくし、単純に貸出金利をp2として上記の資本循環を考察すべきである。つまり融資額は∮sであって欲しく、(∮s+∮g(1+m))では困る。この場合に為すべきなのは、金融部門が行う調達業務と貸出業務を信用リスクに対応した必要経費として扱い、消去することである。もちろんその経費は本当に消失するのでもなく、どこかの誰かが着服するのでもなく、実際に必要リスクに対して支払われる。すなわち金融部門2の必要リスク経費は、少なくとも貸出金利と調達金利の差分として、生産部門から還流しなければいけない。そのように必要リスク経費と貸出利率を考慮すると、上記モデルは次のような資本循環に書き直される。ちなみに必要リスク経費∮g(1+m)は、融資額∮sの規模に相関しない。それは新規技術がもたらす特別剰余価値と同様に、金融部門を経由しない資金調達コストとの差額として現れる。またそうでなければ、生産部門は、金融部門を経由せずに自前で資金調達を行う。単純にそれは、金融部門における資金運用と管理業務のコストである。さしあたりここではそれを、リスク経費と同一視する。

[金融資本における生産財転換モデル2] ※m:剰余価値率、p1:調達利率、p2:貸出利率


[金融資本における生産財転換モデル2での商取引]※▼:出力、△:入力、p1:調達利率、p2:貸出利率


上記モデルにおいて金融部門2の可変資本∮g2は、調達業務と貸出業務を行う労働力量である。そして金融資本2が生産部門に貸与する元本の貸出金利と調達金利の差分は、この労働力量に対応する。それゆえに以下の数値関係が成立している。
 (p2-p1)∮g1=∮g2(1+m) …貸出金利と調達金利の差分=金融部門2の可変資本

当然ながら金融部門2における労賃∮g2も、(p2-p1)∮g1に等しく、金融部門2における剰余価値m∮g2も、m(p2-p1)∮g1に等しい。
この逆算から貸出金利の利率p2は、次のように表される。見て判るように右辺式の第二項が、貸出により調達利率に上乗せする差分利率である。
 p2=p1+∮g2(1+m)/∮g1  …貸出利率
(2023/10/09)

続く⇒第三章(2)差額略取の実体化   前の記事⇒第二章(8)生産財転換の実数値モデル2

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移


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