泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

人生処方詩集

2020-03-05 18:01:55 | 読書
「飛ぶ教室」また「動物会議」の作者ケストナーは詩集も出していました。
 この本の存在は、かつての店長(今は自分で本屋を営んでいる)に教えてもらった。
 私の書いたものもまた薬であって欲しいと願っています。特に小説は「効いて」欲しい。
 文学もまた実学だと言ったのは詩人の荒川洋治氏で、私は「そうだ!」と合点したものでした。
 しかし、前述の意図で、すでにケストナーは1936年にこの詩集を出版していた。
 当時はナチスドイツの時代。すでに出していた詩集が燃やされても。
 体験に根差し、上っ面の嘘を突き破る強さがある。
 何が人々にとって大事なのか、よくわかっているとも思った。
 詩集には、使用法が記されている。
 例えば、「孤独にたえられなくなったら」という項目があり、該当するページがわかるようになっている。
 他にも、「結婚が破綻したら」とか、「なまけたくなったら」とか、「生きるのがいやになったら」とか。
 こんな用途別の詩集など初めて読んだ。
 でも、確かに、あっていいし、もっと勧められていい。
 気に入った詩を二つ紹介します。

  森は黙っている

 季節は 森を さまよう
 目には見えない 葉の中にそれを読むだけだ
 季節は 野を 放浪する
 ひとは 日をかぞえる そして金をかぞえる
 ひとは 都会のそうぞうしさから 逃げだしたくなる

 海なす甍(いらか)は 煉瓦(れんが)いろに波だち
 空には霧がたちこめ さながら灰いろの布でできたよう
 ひとは 畑と 厩(うまや)を
 みどりの池と 鱒(ます)を 夢みる
 そして 静かなところへ行きたくなる

 こころは 街をうろつくので 猫背になる
 木々とは 兄弟のように 話ができる
 ひとは そこで こころを交換する
 森は黙っている しかし 啞(おし)ではない
 そして だれが来ても ひとりずつ慰めてくれる

 ひとは逃げる オフィスから 工場から
 行くさきはかまわない 地球はとにかくまるい
 草が知人のようにうなずくところ
 そして 蜘蛛が絹の靴下を編むところ
 そこで ひとは健康になる

 56頁1行–57頁10行

  警告

 理想をもつ人間は
 それに到達しないように 用心せよ
 さもないと いつか 彼は
 自分自身に似るかわりに 他人に似るだろう

 71頁9行–14行 

 エーリッヒ・ケストナー 作/小松太郎 訳/岩波文庫/2014

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