泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

夜に星を放つ

2022-12-31 18:53:25 | 読書

 年末にふさわしい読書ができました。
 窪さんの本は三冊目。『ふがいない僕は空を見た』、『晴天の迷いクジラ』に続いて。
 新作の出るたびに気になってはいました。で今回、直木賞受賞ということで、手が伸びました。
 私が言うのもなんですが、作品が、さらに成熟されていると感じました。
 より具体的で、より鮮明で、より言葉が洗練されていて。よりはっきりと見えて、より深く、確実に届く。
 人の抱えている弱さを描くのが上手です。人に見せたくないところとも言えます。
 この本には、五つの短編が収められています。
 テーマは「別れ」なのでしょうか。
 別れの中に、それぞれの星が光る。星でつながる物語とも言えます。
 でも星は、ほんのささやかなもの。夜、人工の光が少ないところでしか見えない。
「幸福」な状態とは言えない登場人物たち。だからこそ、夜、星が見える。
 幼馴染の若い男女が、夏、海で、お互いに好きになった人に告白し、お互いにすれ違ってフラれる。
 双子の妹が病死し、そのことを受け入れられないまま婚活アプリにハマり、その相手に妻子がいることを目撃してしまう。
 交通事故で亡くなってしまったお母さんが幽霊として現れ、残されていじめられてもいる女の子を見守り、助け、夫と娘の再出発を見届けて去っていく。
 離婚した妻と子のことが忘れられないまま、隣室に引っ越してきたシングルマザーと3歳の女の子と日曜日を共にするようになった後、また一人になる。
 両親が離婚し、新しいお母さんとうまく行かない男の子が、一人暮らしのお婆さんのお世話になり、戦争のことを知り、生きていればいいことは必ずあると教わる。
 小説って無限だなと思った。
 有限性があるのなら、それは人が生きている限り。
 人が生きている限り、その人その人に固有の物語がある。
 小説は、読者の一人ひとりにどれだけ伴走することができるか。
 同じテーマと星という共通するモチーフで、これだけ違う人たちを描き出すことができるようになるとは。すごいことです。
 そんな作者の労に、読者は思いを馳せなくてもいいのですが。
 切なくて、大事で、デリケートで。すぐに「ごめんなさい」と言ってしまう作中の若いお母さんが目に浮かびます。
 ほっと一息つける時間がきっと生まれます。
 うっすら涙を浮かべながら、私も「別れ」と「星」に、より深く、より確実に触れることができました。
 別れあるところに成長あり。

 窪美澄 著/文藝春秋/2022

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