2022年  にっぽん復興へのシナリオ

日本が復興を遂げていく道筋を描いた近未来小説と、今日の様々な政治や社会問題についての私なりの考えや提案を順次掲載します。

六.転勤(4)

2012-03-08 01:00:00 | 小説
 徳村が家に帰ると、妻の美由紀は息子の隆志とモニターを見ながら楽しそうに話していた。

 「なんだい?」と徳村が聞くと、美由紀が振り返り「隆志の新しい学校の友達紹介を見ているの」と言った。
 モニターには、すでに転校する予定のF小学校からメッセージが届いており、子供たちが書いたクレヨンの字で『徳村隆志くん 新学期に会えるのを楽しみにしています』と書かれ、クラス担任とクラス全員の顔が表示されていた。それぞれの顔をタッチすると、拡大写真に名前のほかに、好きなこと、得意なことなどが自己紹介されている。その中には、隆志の顔見知りの富田弘明君の顔もあった。
 徳村が勤務中に行った引っ越し手続の結果が、隆志の編入するF小学校に伝わり、早速ウェルカム・メッセージが届いたというわけだ。

 「隆志も自己紹介を送ったのかい?」と聞くと、「これを送ったよ」と言って、隆志が送信済のメッセージを開いた。
 隆志の顔写真の横に、『みんなに会うのを楽しみにしています』と言うメッセージが添えられていた。また、絵を描くのが好きな隆志らしく、豊中のこれから住む家の前で家族三人がニコニコ笑って立っている絵も添えられていた。
 徳村は、新しい生活を前向きに始めようとする息子に頼もしさを感じ、暖かい目で息子の横顔を見つめた。

 夕食後、モニターの前でタブレットを操作すると、マイ・ページに豊中市からのお知らせがモニターに表示された。
 タブレットとモニターはブルートゥースでつながっており、家族で見たい場合などは大きな画面に表示することができる。
 『ようこそ、豊中市へ! 徳村さまご家族が快適にお過ごしになれますように、市は全力でご支援申し上げます』と表示されていた。

 その下には、電気、ガス、水道の開通希望日を入力する項目があった。
 「引っ越しは今月最後の土日で良いよね?」と妻に確認すると、日曜日に当たる27日を開通日に指定した。これは住民登録情報にも反映され、27日をもって豊中市の住民になることになる。

 また、利用可能な電気会社の一覧表も表示され、その中から三か所までを選ぶことができる。
 2015年に発送電分離を軸とした電力の完全自由化が実現し、様々な特徴を持った発電会社が参入した。そうした改革の結果、利用者の好みや生活スタイルに合わせて電気会社を選択することができるようになった。

 次いで、銀行やクレジット会社などの住所変更が完了した旨の通知があり、あとは通勤定期券の購入程度で手続きがすべて完了する。通勤経路は、勤務先の所在から機械的に割り出して、いく通りかの経路が選択可能になっており、それを選択するだけで購入が完了する。購入した定期券の情報は赴任先の人事担当に伝わり、交通費清算に反映される。

 手続が終わり、モニター画面を切り替えると、付近の案内が映像付で表示された。
 ショッピングモール、地下街、病院、近隣の施設など、生活上必要な情報を確認することができる。バーチャルリアリティによって、歩くテンポでタブレットを操作しながら、散歩感覚で周りの店や景色を三次元画像で眺めることができる。店舗にカーソルを合わせると、店の紹介や売られている商品の簡単なメニューが表示される。

 「下見では家の周りしか見なかったけど、なかなかいい環境だね。隆志も喜んでいるし」
 「さっき、神戸のお母さんから連絡があって、四月二日の土曜日に転居祝いを持って来るそうよ。あなたにもよろしくって」
 「そうか。さっそく現地視察ってわけだな。僕は大阪に住むのは初めてだから、いろいろとお義父さんから教えてもらおうかな」
 「どうせ、美味しいお酒の飲める場所とかでしょ。お父さんの関心は、お酒かゴルフのどっちかしかないんですもの」

 『ついでに、お義父さんにそちらの案内もしてもらおうか』と徳村はひそかに考えた。


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