『李登輝より日本へ贈る言葉』
李登輝 ウェッジ 2014/6/12
<再生する日本>
<日本が明るくなった>
・日本が元気を取り戻してくれて、本当によかった。
安倍晋三氏が総理に復帰して第二次安倍政権が誕生し、大胆な金融政策を打ち出したとたん、日本全体が明るくなりました。2020年の東京オリンピック開催が決まり、日本中が喜びに沸きました。メディアの姿勢にも変化が見られます。正しい方向に舵を切りさえすれば、それだけで社会は変わるのです。これはほかの日本の政治家にも見習ってほしいところです。
・前年の追悼式では、世界最多の2百億円超という多額の義援金を送った台湾を、民主党政権は中国の批判を恐れて指名献花から外しました。この非礼に対して、日本国内でも多くの批判があったと聞いています。安倍総理はそれを正したのです。
また安倍総理は、交流サイト「フェイスブック」上で台湾の支援に言及し、「大切な日本の友人」と表現した。多くの台湾人がこれに感動しました。
安倍総理は、歴代の日本の政治指導者がみせた“媚中”外交を払拭し、激変する国際社会に適切に対応しています。
<アベノミクスと「失われた20年」>
・この20年間に、日本の国力はすっかり衰退してしまいました。かつての日本は全世界のGDPの16パーセントを占める経済大国でしたが、いまでは8パーセント以下となり、GDP世界第2位の座から第3位に衰退してしまった。そのきっかけとなったのが、1985年の「プラザ合意」でした。このプラザ合意が日本経済に致命的な打撃を与えたのです。
・1ドル235円が150円もの円高になったら、カネ余り現象、つまりインフレーションが起こるのは目に見えています。なぜそれに気づかなかったのか。知っていたとしたら、なぜ放置したのか。そうして金融引き締めなどのインフレ対策をとらなかったのか。当時の日本政府をはじめとする日本の指導者たちは情けないとしか言いようがありません。
・バブルがピークに達してから、日銀はようやく金融引き締め政策を取り始めました。あまりにも遅きに失した。たちまちのうちに地価は下がり、株が暴落して、倒産が相次ぎました。銀行は不良債権を抱え込み、一挙に経済が停滞してデフレとなり、日本は長期にわたる大不況に陥った。いわゆる「失われた20年」が始まったのです。
<日銀改革に期待>
・歴代の総理は、この経済の難問に取り組んできましたが、考え方が根本的に誤っていたため、その政策はまったく成功しませんでした。
・政治家も官僚も経済学者も問題でしたが、いちばん責めを負うべきは日本銀行でしょう。私の見るところ、日本経済が「失われた20年」と呼ばれる大不況に見舞われた根本の原因は、金融政策を担う日本銀行が、1990年代以降、誤ったマネージメントを行なったことにあると思います。
・安倍総理は現在、金融政策だけでなく、大胆な国内投資の実行も政策として掲げています。これまで日本は「国債の発行残高が多すぎる」「もうそんな金はない」などの理由で大型の公共事業に対して批判的な声が高かった。
しかし、安倍総理は10年間に200兆円という「国土強靭化計画」を実施しようとしているそうです。一国の経済の舵取りには強いリーダーシップが不可欠です。安倍総理にはそれがある。私は安倍総理のリーダーシップに大きな期待を寄せています。
<「原発ゼロ」の非現実性>
・しかし、台湾と同様、日本も石油や天然ガスなどのエネルギー資源のない国ですから、やはり原子力に頼らざるを得ない。天然資源には限りがあり、すでに枯渇しかかっているのですから、「原発ゼロ」というのはあまりに非現実的です。エネルギーを輸入に頼れば経済も圧迫されます。
<夢の「核融合」発電>
<トリウム小型原発の可能性>
・日本や台湾のようなエネルギー資源のない国は、原発に賛成か反対かという二者択一ではなく、第三の道、すなわちいかにして安全な原発をつくるかという議論をしなくてはなりません。日本の技術をもってすれば、それは十分可能です。その第三の道こそ、日本再生の道です。
<安倍政権の使命の重大さ>
・日本の住宅の改革も必要だと思います。日本人一人当たりの居住面積は台湾より小さい。一人当たり5万ドル近い世界有数の国民所得がありながらそんな小さな家に住んでいるのです。だから、住宅の改造を思い切ってやっていく。地方自治体と連携して都市計画を行う、都市の住宅の面積を現在の2倍くらいにすれば、国内消費が格段に伸びる。テレビも冷蔵庫も必要だし、ソファもベッドも必要だから、家電や家具の消費も伸びて、景気が上昇する。インフラ整備よりも、直接的な効果があると思います。
・TPPに参加することになれば、日本の農家の半数は大きな打撃を受けるでしょう。それを機に企業化、近代ビジネス化を進め、強い農業をつくる必要があります。
・そのために必要なのは、日本が米軍から独立した軍備を持つこと、そして、憲法を改正すること。いまの憲法はアメリカが敗戦国日本に押しつけたものだから、不平等な面がたくさんある。第九条をはじめ、いろいろと修正しなくてはならない点があります。それをアメリカに認めさせて、そのかわり、日本は自立した国家としての責任を持つ。これは現在の日本にとって究極の課題と言えるでしょう。しかし、それはまだ先の話です。
<安倍総理へのエール>
・長年にわたる政治活動を通し、私は一国の最高指導者の条件として「明確な目標を立てる」「信仰は力である」「方法論を持つ」ことなどの重要性を学んできましたが、安倍総理には「謙虚と冷静さ」の大切さをメッセージとして伝えたいと思います。
■■■ 私が思うこと、聞いたこと、考えること ■■■
・「失われた20年」といわれ、日本の劣化が目立つそうです。街中では、「日本は先進国だろうか」という声も増えているようです。「失われた20年」の原因を日銀や政府の経済財政政策の失政にあったとする人も増えているようです。政府にはベスト&ブライテストを集めているはずですが、それでも経済運営は、世界経済の激変の中、難しいようです。「限られた予算、増えない税収、十分でない福祉予算を削る財政赤字」ということで、社会福祉も大きな問題点が出てきています。「財源の裏付けのない政策は実現できない」ということで、補助金は今後減額されていくことでしょう。
・「ベスト&ブライテスト」という言葉は米国の「ベトナム戦争の泥沼に引きずり込んだ」ホワイトハウスのスタッフ幹部を指すのに使われました。皮肉な言葉です。ベスト&ブライテストのために米国が「ベトナム戦争」で苦悩したというのです。世界情勢は、ベスト&ブライテストの政策をもってしてもうまくいかないようです。一票の格差が開きますと、選挙の正当性が疑われますし、政府の正統性も問題になるようです。私たち一般人としては、とにかく政府にベスト&ブライテストを集結させて、斬新な「国家改造計画」を断行してもらいたいものです。待望の2020年の東京オリンピックの準備もやりますが、首都直下大地震津波の対策も忘れてはなりません。
・社会の遅れた面、非近代性、後進性、頭の古い面が予想以上に多くなってきています。なぜ改革が遅れているのでしょうか。「女性の登用も先進国とはいえない」そうです。女性の眼から見ても「政治政策の不手際」が目立ちます。日本のベスト&ブライテストでも「日本の劣化」が防げないようです。また官僚制度も時代にそぐわなくなっているともいわれます。官僚と政治家においては本当に優れた担当者が登用されてきたのでしょうか。官僚と政治家は役割が違いますが、日銀も含めて、外国人の目から見ると、1985年の「プラザ合意」以降、経済政策を誤った、失政だったという評価です。「失われた20年」といわれますが、失ったものが大きいようです。李登輝氏も民主党政権に失望し、安倍総理、アベノミクスに期待しているようです。Amazonに「李登輝」と入力しますと338件の書籍がわかります。1月16日には『新・台湾の主張』(PHP)が出版されます。
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