(2024/4/9)
『日本の「来訪神」図鑑』
フランそあ根子(著)、中牧弘允(監修)
青春出版社 2024/2/21
・来訪神は、年の変わり目や季節の変わり目に異界からやってきて、ご利益を授けてくれる夢のある存在です。
<はじめに>
・日本には、ナマハゲのようによく知られるものから地域の人しか知らないようなマイナーな神さままで、多くの来訪神が存在する。通常、神さまは神社などに祀られていてこちらからお詣りに行くが、来訪神は神さまの方からやって来てくれる。
・多くは、仮面をつけるなど仮装している。
<北海道・東北地方の来訪神>
<猿田彦 北海道 積丹町 美国町・古平町>
<天狗が燃え盛る炎の中を悠々と渡る>
・積丹町の美国神社、古平町の琴平神社・恵比寿神社に、猿田彦神が現れる。猿田彦は神を導く神。天狗の面をつける。
<大黒天 青森県 田舎館村大根子地区>
<カパカパと福俵ころがし>
<俵を転がし福を呼ぶ 子ども大黒天>
・「カパカパと福俵ころがし」は、子どもたちが大黒天や神主に扮して地区内の家をまわる。
<ナモミ 岩手県 久慈市・宮古市・山田町>
・「ナモミ」は、木製の鬼面をつけ、「悪いわらす(子ども)はいねがぁー‼ 」などと大声を上げながらやってくる。
<ナゴミ 岩手県 山田町ほか県内各地>
・「ナゴミ」は般若の面をつけて現れる。面には男女があり、手に包丁を持っていないのが特色。地区によっては、床を這って現れるのでかなり怖い。
<崎浜のタラジガネ 岩手県 大船渡市三陸町越喜来崎浜>
<悪い子や怠け者を叱りに来る「怖いお爺さん」>
・「崎浜のタラジガネ」は、鬼面をつけ、米俵を体に巻いている。手に短刀や長刀を持ち、低い姿勢で大股に歩きながら家々を訪れる。
<吉浜のスネカ 岩手県大船渡市三陸町吉浜>
<獣のような虫のような不思議な顔つきの神さま>
・スネカは獣とも虫ともつかない不思議な顔つきをしていて、背中に小さな子どもの靴をぶらさげた俵を背負っている。言うことを聞かない子どもをこの中に入れてさらって行くという。
・スネカは後ろ姿を見せない決まりになっていて、あとずさりしながら玄関の戸を閉めて闇の中に消えていく。
<自然の形状を生かした独特の面>
・スネカの面は、木の根などを材料にして自然の有機的な形を生かして作られる。鬼のようなものの他に牛馬や、象のような長い鼻を持つ面があり、「ケモノ系」と呼ばれる。また虫に似た面は「虫系」と呼ばれる。どの面も独特の重厚な雰囲気を持っている。
この行事は地元で密やかに行われており、現在も外部の人の見学は積極的には受け入れていない。
<福の神 宮城県 蔵王町遠刈田温泉 遠刈田>
<「アキ~の方からチャセゴにきした」>
・「チョセゴ」は子どもたちが「福の神」となり、地域の家々や施設・商店をまわる古くからの厄落としの行事。「アキの方」とはその年の恵方・福の神が住んでいる方角。地域の人は福の神の子どもたちにお菓子を渡して、家の災いをお菓子と一緒に持っていってもらう。
・ハロウィンのようにたくさんお菓子をもらえる、子どもにとっても楽しい行事。
<米川の水かぶり 宮城県登米市東和町米川>
<古くからの火伏の行事>
・「米川の水かぶり」は、毎年2月に行われる火伏(火難除け)の行事。水かぶりについての伝承は、神が宿るとされる神の世話を担う役割を持つ「水かぶり宿」と呼ばれる家だけが代々受け継いでいる。
<厳しい寒さの中の身支度>
・当日は早朝から町内の若者や厄年の人が「水かぶり宿」に集まり支度する。支度所は屋外の裏庭のような場所で、この時期は氷点下の凍てつくような寒さだが、水かぶり役の人々は裸同然の姿になって身を清める。
<火男とおかめ 宮城県 登米市東和町米川>
<米川の水かぶり>
<火の神さまの静かな道行き>
・水かぶりの一団とは別に、墨染めの僧衣の火男と天秤棒に手桶をかついだおかめが地区内をまわる。
<能代のナゴメハギ 秋田県 能代市>
<番楽の面をつけた雅な顔立ちの神さま>
・「ナゴメハギ」は、手に包丁や斧を持ち、恐ろしい面をつけた山の神。
・ナゴメハギの面は、かつてこの地域で舞われてきた浅内番楽のものが使われている、優美な顔立ちだが独特の迫力がある神さま。
<前郷のヤマハゲ 秋田県 秋田市雄和豊岩前郷>
<藍染の装束を纏った鬼女>
・「前郷のヤマハゲ」は、古い木彫りの鬼女の面をつけ「夜衾(よぶすま)」という藍染の布で作られたこの地域独特の分厚い装束を身に纏う。
<男鹿のナマハゲ 秋田県 男鹿市全域>
<鬼の姿をした歳神>
・大晦日に男鹿で行われる「ナマハゲ」は、鬼ではなく鬼の姿をした歳神。地元ではナマハゲは、年の節目にやってくる厄を祓い無病息災や豊漁豊作等をもたらす神さま。
<ナマハゲの謎>
<諸説ある起源>
・ナマハゲの起源については、山の神さまの使者説、山伏の修験者説、異国からやってきた人々説はあるが、詳しいことはわかっていない。
漢の武帝が男鹿を訪れ、五匹の鬼を毎日のように働かせていたが、正月十五日だけは鬼たちが解き放たれて里を荒らしまわったという伝説があり、これを起源だとする説もある。
<ナマハゲはどこから来るか>
・ナマハゲがどこから来るかは地区によって言い伝えが異なる。男鹿半島西側の真山、もう少し遠くの寒風山から降りてくるという説もあれば、秋田市の大平山から八郎潟をわたって来るとも言われている。
<最古の紀行スケッチ>
・ナマハゲは、約二百年以上の歴史を持つと言われている。江戸時代に、博物学者で旅行家であった菅江真澄がナマハゲの行事について「男鹿の島風」「牡鹿乃寒かぜ」に書き記したのが最初の記録とされている。
「牡鹿乃寒かぜ」には、小刀を持ち、腰から四角い箱を下げたナマハゲの姿が記されている。現在のナマハゲは、出刃包丁は持つが小刀は持たず、箱のようなものも下げていない。また現在とは異なり、鬼面の他にひょっとこのような面をかぶったナマハゲの姿も。ナマハゲの姿も長い歴史を経て変化してきたようだ。
<色・素材・表情も多様な面>
・ナマハゲは一般的に赤鬼や青鬼のイメージが強いが、面の素材や色彩、表情はバラエティに富んでいる。
<ヤマハゲ 秋田県 秋田市雄和・寺沢地区>
<寺沢の悪魔祓い>
<「悪魔祓い!悪魔祓い!」>
・二柱の「ヤマハゲ」が叫びながら地区をまわり厄を祓う。角が一本のものが雄、二本が雌。
<赤石のアマハゲ 秋田県にかほ市 金浦地区赤石集落>
<顔を墨で真っ黒に塗った子どもの神さま>
・赤石集落に伝わる「アマハゲ」は、地元の二人の男児が藁蓑を着て顔を墨で真っ黒に塗って務める。
<にかほのアマノハギ 秋田県にかほ市 象潟町小滝・秋田市上新庄石名坂>
<「ぽっぽら杉」から降りてくる(小滝)>
・小滝のアマノハギの面は「鳥海山小滝番楽」で使用される古い鬼面。
<音も立てずに入り、急に脅かす(石名坂)>
・石名坂のアマノハギの面も年代物。小滝の面は無彩色だが、石名坂のものは青や赤などで彩色されている。
<加勢鳥(かせどり) 山形県 上山市>
<藁蓑姿で踊る癒し系の神さま>
・「加勢鳥」は、商売繁盛や五穀豊穣、火伏を祈願する。地元の若者たちが「ケンダイ」とよばれる藁蓑をまとい、加勢鳥に扮する。
<アマハゲ 山形県 遊佐町吹浦地区女鹿・滝ノ浦・鳥崎>
<遊佐の小正月行事>
<三つの集落に伝わる「アマハゲ」>
・遊佐町の「アマハゲ」は、女鹿・滝ノ浦・鳥崎の三つの集落に伝わる。鬼面をつけた神さまが、家々を訪れて新年を祝福する。
<彼岸獅子 福島県 会津若松市>
<春彼岸に舞う三匹の獅子>
・会津で春彼岸の時期に演じられる古式ゆかしい獅子舞。三匹が一組となり、笛と太鼓の音に乗って踊る。
<関東地方の来訪神>
<獅子 群馬県 玉村町藤川・飯塚地区>
<藤川・飯塚の悪魔祓い>
<獅子頭で頭を嚙み悪霊を追い出す>
・玉村町の藤川・飯塚地区で毎夏行われる「悪魔祓い」は、子どもが中心になって行う行事。獅子頭をかぶった子どもを先頭に、太鼓を叩きながら「あくまっぱらい! あくまっぱらい!」と叫んで地域の家々をまわり、悪霊を追い出す。
<ボウボウサマ 茨城県 行方市藤井 香取神社>
<お面入り>
<能楽面を頭の後ろにかぶる渋い佇まいの神さま>
・毎年秋に行われる「お面入り」という行事に「ボウボウサマ」は現れる。面は戦国時代から伝わる能楽用の翁と嫗の夫婦面。面は頭の後ろにかぶるのが正式とされている。
<マダラ鬼神 茨城県桜川市 雨引山楽法寺>
<マダラ鬼神祭>
<鬼神と眷属の五匹の鬼>
・マダラ鬼神祭は、桜川市の雨引山楽法寺で毎年行われる。薬法寺は、延命観世音菩薩が祀られていることから雨引観音とも呼ばれている。「マダラ鬼神」は、この行事に眷属の五匹の鬼を従えて現れる。
・マダラ鬼神は元々はインドにルーツを持ち、中国を経て日本へ伝わったという。
<龍神 埼玉県鶴ヶ島市 白鬚神社>
<脚折雨乞>
<四年に一度現れる龍神>
・脚折雨乞は江戸時代から続く雨乞いの行事。四年に一度、夏季オリンピックの行われる年に現れる。長さ約三十六メートル、重さ三トンあまりもある龍蛇を作って雨乞いを行う。
<大蛇と繋がる神さま 神奈川県 横浜市鶴見区生麦>
<蛇も蚊も>
<藁の大蛇を担ぎ悪疫退散>
・茅で作った大蛇を担いで町を練り歩く蛇も蚊も祭りは、大蛇の頭を家々の玄関や商店の入口に差し入れて悪疫を祓う。「蛇も蚊も」の名は疫病をもたらす悪霊を封じ込めた「大蛇」と、疫病を媒介する「蚊」を退散させるということが由来。
<龍神 東京都 大田区大森町>
<水止舞>
<珍しい「雨止め祈願」の行事>
・雨乞いの行事は日本全国で見られるが、雨止めを祈願する行事は珍しい。
<藁筒の中で龍神が法螺貝を吹き鳴らす>
・当日、厳正寺近くの路上で、白装束を着た二人の男性が太い縄で編まれた藁筒の中に入る。
<中部地方の来訪神>
<アマメハギ 新潟県 村上市大栗田>
<新潟県唯一の来訪神>
・子どもたちが赤獅子・天狗・狐の面をつけ「あーまめはぎましょ、あーまめはぎましょ」と唱えながら列になって歩く。
<百足獅子(むかでじし) 富山県 射水市 二口熊野社>
<二口熊野社火渡り神事>
<穢れを炎で焼き清める>
・秋季大祭で行われる二口熊野社の火渡り神事に百足獅子が登場する。
<能登のアマメハギ 石川県 輪島市・鳳珠郡能登町>
<新年の賑やかな来訪者>
・能登で正月または節分に現れる「アマメハギ」は、新年を無事に迎えるために家々を巡ってお祓いし、怠け心を叱る。地区によって、装束や所作は少し異なる。輪島市旧門前町皆月地区と五十洲(いぎす)地区では、一月二日に赤い猿面・ガチャ面、天狗面、翁と嫗の夫婦面がやって来る。ガチャ面とは鼻が潰れているなど目鼻立ちが崩れた面。
<面様(めんさま) 石川県 輪島市輪島崎町(輪島前神社)・河井町(重蔵神社)>
<家々を訪れて祝福する夫婦神>
・輪島市で行われる厄除け行事「面様年頭」に、男面と女面の夫婦神「面様」が現れて氏子の家々を巡る。
<田の神さま 石川県 輪島市・珠洲市・穴水町・能登町>
<目に見えない神さまを心をこめてもてなす>
・古くから奥能登地方各地に伝わる「あえのこと」は、稲の成長と五穀豊穣を司る田の神さまを、まるでそこに本当にいるかのように心をこめてもてなす行事。
<あっぽっしゃ 福井県 福井市蒲生町・茱崎町>
<海から悪い子をさらいに来る鬼>
・「あっぽっしゃ」は海からやって来ると言われる赤鬼。髪は海藻でできていて、耳まで裂けた口と鋭い歯を持つ。
<アマメン 福井県 福井市白浜町>
<地元の中高生が務める鬼神>
・白浜街には「アマメン」が現れる。アマメンは鬼面をつけた藁蓑姿。
元々は島根県から伝わった古い行事。
<幸法(さいほう)・競馬(きょうまん)長野県 下伊那郡阿南町 伊豆神社・諏訪神社>
<新野の雪祭り>
<夜通し舞い踊る神の化身>
・新野の雪祭りは、鎌倉時代から伝わる五穀豊穣を祈る祭り。伊豆神社と諏訪神社を中心として、毎年一月十四日の夜から翌日の朝まで夜もすがら行われる。極寒の中、田楽、舞楽、神楽などの伝統芸能が披露される。
<霜月祭の神々 長野県 下伊那郡上村・飯田市>
<遠山の霜月祭>
<諸国の神々を招いて湯を捧げる>
・旧暦霜月(新暦十二月)、長野県下伊那郡の遠山地方の各集落で霜月神楽が行われる。霜月神楽とは全国の神々を招き入れる神仏混淆の行事で、湯立を中心とする。
祭場に竈と湯釜を据え、湯を沸かしてその周囲で神事や舞を行い、全国の神々を招き湯を捧げる。
・丑の刻に行われる重要な湯立「鎮めの湯立」では、死者・神霊・森羅万象の全てのものを鎮める。これは、かつて百姓一揆で滅亡したとされる遠山一族の怨霊を鎮める儀式でもある。
<こじき 岐阜県 加茂郡川辺町>
<桶がわ祭り>
<「こじき」は神さまの使者>
・「樋がわ祭り」は、下麻生地区の縣(あがた)神社で毎年四月に行われる。通称「こじき祭り」とも呼ばれるが、この祭りに「こじき」が登場する。言い伝えによれば、昔、この地域が飢饉に見舞われたとき、村に住み着いたこじきに食べ物を分け与えたところ、雨が降って豊作に恵まれたという。それ以来、そのこじきは神さまの使者だったとされ、豊作を願う祭りが行われるようになった。
<山見鬼・榊鬼・茂吉鬼 愛知県 北設楽郡等(奥三河)>
<花祭>
<夜通し踊り、鬼たちと遊ぶ>
・十一月から一月にかけて奥三河の各地域で行われる「花祭」は、神仏を舞庭(まいど)と呼ばれる祭場に招き、人々が神仏である鬼たちと交遊する。
・この祭りに、役鬼(えんき)と呼ばれる山見鬼・榊鬼(さかきおに)・茂吉鬼の三柱の鬼が登場し舞い踊る。
<近畿地方の来訪神>
<摩多羅神 京都府 京都市右京区太秦 大酒神社・広隆寺>
<太秦(うずまさ)の牛祭>
<妖しく謎に満ちた神さま>
・奇怪な神面をつけ、牛に乗った「摩多羅神」が太秦の牛祭に現れる。赤鬼・青鬼の面をつけた四天王を従え、広隆寺の周辺を練り歩く。摩多羅神は、薬師堂前に設けられた祭壇を三周した後、壇上で祭文を独特の節回しで読む。参詣者たちは、祭文読誦の間野次を飛ばし、石を投げるなどして妨害する。元々はかつて広隆寺の境内にあった大酒神社の秋の祭礼。祭りの起源や摩多羅神が何の神であるか、また祭文の意味なども一切不明。ミステリアスな行事。
<天狗 大阪府 箕面市新稲 西小路八幡太(はちまんた)神社>
<西小路天狗祭り>
<天狗のじゃり(竹の先を細かく割ったもの)で叩かれて良い子に育つ>
・西小路八幡太神社の秋季例大祭「西小路天狗祭り」には神さまの化身である天狗や獅子舞が現れる。
<餅割鬼・尻くじり鬼・一番太郎鬼・赤鬼・姥鬼・呆助鬼・青鬼 兵庫県 神戸市長田区長田町 長田神社>
<古式追儺式>
<節分に現れる七匹の鬼>
・長田神社で行われる古式追儺式では、神々の使いである鬼たちが神に代わって災いを祓う。
<鬼 和歌山県 伊都郡九度山町 椎出厳島神社>
<椎出鬼の舞>
<長い棒を持って踊る赤髪の鬼>
・八月、椎出厳島(いつくしま)神社の境内に赤髪の鬼が現れる。「盆の鬼」とも呼ばれ、十人衆の奏でる太鼓や笛に合わせて、約二メートルある長い棒を振りかざしながら日没まで踊る。六百年以上も前から続けられていると言われ、天災地変や災いを追い祓い地域の人々の安全と五穀豊穣を願う。
<中国・四国地方の来訪神>
<ベタ・ソバ・ショーキ 広島県 尾道市 吉備津彦神社>
<尾道ベッチャー祭>
<三鬼神が町を暴れまわる>
・「ベタ」「ソバ」「ショーキ」の三鬼神は、尾道で行われるベッチャー祭に現れる。町中で子どもを追いまわし、祝い棒やささら(竹の先を細かく割ったもの)で頭を叩いたり体を突く。狂言面のベタと白い大蛇の能面をつけたソバが祝い棒を持ち、天狗面のジョーキがささらを持つ。子どもたちは逃げまわり、叩かれた子は叫び声を上げる。
<トイトイ 山口県 山口市阿東地福>
・子どもたちが集落の家の玄関先に手作りの藁馬を置いて「トーイ、トイ!」と叫んでから物陰に隠れる。家の人が藁馬を受け取り、お礼の餅や菓子を籠の中に入れる。
・島根県飯南町頓原張戸にもトロヘイというよく似た行事がある。
<ホトホト 鳥取県 米子市日野町菅福>
・厄年を迎えた人のいる家に、神の使いである「ホトホト」が訪れ厄を祓う。蓑笠を身に纏った男性たちが「ホトホト」と唱えながら家々を訪問し、縁起物を届ける。
<吉兆さん・番内 島根県 出雲市大社町 出雲大社>
<神さまを表す「吉兆幡(きっちょうばん)」>
・「吉兆幡」は、「歳徳神(としとくじん)」と大きく縫い取りした高さ十メートル・幅一メートル余りもある幟(のぼり)で、吉兆さんと呼ばれる。歳徳神が天下るとされる神籬(ひもろぎ)であり神を表象する。
・番内は、いかめしい鬼の面を付け、煌びやかな神楽衣装を着た年男。
・氏子の家の玄関で「悪魔祓い!」と大声を上げながら青竹で地面を払ったり叩いたりして邪気を祓う。
<べちゃ 岡山県 倉敷市児島塩生 塩生(しおなす)神社 >
<べちゃ祭り>
・秋祭りに天狗の面の神さま「べちゃ」が現れ、子どもたちを追いかけて笹の棒で叩く。叩かれると1年間無病息災で過ごせる、足が速くなるなどと言われている。
<竜神 香川県 三豊市仁尾町>
<仁尾竜まつり>
・夏、稲藁と竹で作った巨大な雨乞いの竜神が現れる。全長約三十五メートル、重さは約三トンあり、百人以上の担ぎ手によって町を練り歩く。
<牛鬼 愛媛県 宇和島市和霊町 和霊神社>
<和霊大祭・宇和島牛鬼まつり>
<鬼のような牛のような姿の悪魔祓いの神さま>
・牛鬼は、和霊神社の和霊大祭に登場する。牛鬼の顔は恐ろしい形相の鬼面で、牛の胴体に剣をかったどった尻尾をつけている。身長は約五~六メートルあり、全身をシュロの毛や、紅白の布などで覆っている。
<稲の精霊 愛媛県 今治市大三島町宮浦 大山祇神社>
<目に見えない稲の精霊と真剣な取り組み>
・「一人角力」は、大山祇神社の旧暦五月五日の御田植え祭と旧暦九月九日の抜穂祭で奉納される。力士が、目には見えない稲の精霊と真剣に相撲をとる。
<九州・沖縄地方の来訪神>
<トビトビ 福岡県 福岡市早良区石釜>
<神の使いの子どもたち>
・夜、神の使いの子どもたち「トビ」が家々をまわる。上部を束ねた藁束をかぶり、家の前で「トービ」と掛け声をかけて到着を知らせる。
<聖なる来訪者 九州の各県>
<もぐら打ち>
<もぐらを追い出すような仕草で邪気を祓う>
・先端に藁を巻いた竹棒を持った子どもたちが地域を巡り、「もぐら打ちの歌」を歌いながら地面を叩く。このもぐらを追い払うような身振りを行うことで邪気祓いをし、五穀豊穣を願う。この行事は、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県の九州の各県で広く行われている。
<見島のカセドリ 佐賀県 佐賀市蓮池町見島 熊野神社>
<青竹を激しく地面に打ちつけ悪霊を祓う>
・毎年小正月に見島に現れる雄と雌のつがいの「カセドリ」は神の使者。笠をかぶり顔に白手拭いを巻き、藁蓑、黒手甲、脚絆を身につけている。
<七福神 佐賀県 神埼市千代田町姉>
<七福神来訪>
<ちょっと変わった七福神がやってくる>
・七福神に扮した人々が家々を訪れる「姉の七福神」は、一般的な七福神の毘沙門天・寿老人・福禄寿・弁財天の代わりに「年徳」「じい」「ばあ」「嫁」がいるのが特徴。
<サンドーラ 長崎県 五島市玉之浦町大宝 言代主神社(ことしろぬしじんじゃ)>
<大宝郷の砂打ち>
<激しく砂を打ちつける「砂鬼」>
・「サンドーラ」は、豊作豊漁を祈願する言代主神社の秋祭りに登場する「砂鬼」。祭りでは猿田彦や獅子頭、農民に仮装した人々の行列が町を巡り農作業の様子を表現して豊作を願うが、サンドーラはその行列の最後を歩く。
<ひょうたん様 大分県 豊後大野市千歳町柴山 柴山八幡社>
<「ひょうたん様のお通りだ!」>
・柴山八幡社の霜月祭りに登場する「ひょうたん様」は、派手な緋色の装束を着て大きなひょうたんを頭に乗せた神の化身。
<ケベス 大分県 国東市国見町櫛来 岩倉八幡社(櫛来社)(くしくしゃ) >
<ケベス祭>
<「ケベス」と「トゥバ」が火を巡り争う>
・岩倉八幡社の火祭りに現れる「ケベス」は、白装束を身に纏い独特の迫力を持つ妖しい木面をつけている。
<災払鬼・荒鬼 大分県 豊後高田市長岩屋 天念寺>
<修正鬼会(しゅじょうおにえ)>
<鬼を仏の化身として迎える>
・修正鬼絵は、毎年春に行われる神仏混淆の鬼の祭り。ここでは鬼を悪しきものとして追い払うのではなく、幸せをもたらす良き存在として迎える。この儀式には災払鬼(赤鬼)・荒鬼(黒鬼)が現れる。
<鬼が僧侶に乗り移る>
・次に荒鬼役の僧侶が現れ、別の僧侶に口に含んだ水を吹きかけられて鬼に化身する。
<疫病神 宮崎県 小林市・えびの市、鹿児島県 湧水町一帯>
<餅勧進(もっかんじん)>
<派手で賑やかな厄払いの神さま>
・宮崎県えびの市では毎年一月十四日の夜、派手に化粧し仮装した厄年の男女が家々にやってくる。これは「餅勧進」と呼ばれる厄払いの行事。
<山之口弥五郎 宮崎県 都城市山之口町冨吉 的野正八幡宮>
<弥五郎どん祭り>
<巨大な健康長寿の神さま>
・的野小八幡宮で行われる「弥五郎どん祭り」には、伝説の巨人である弥五郎どんの長男・山之口弥五郎が登場する。
身長は約三メートルあり白い麻衣を纏い、顔に朱面をつけ頭に三叉の鉾、腰に大小の太刀を差している。
<岩川弥五郎 鹿児島県 曽於市大隅町岩川 岩川八幡神社>
<弥五郎どん祭り>
<白い顔に口髭を生やした次男>
・岩川八幡の弥五郎どん祭りに出現する次男・岩川弥五郎は白い顔に口髭をたくわえ、梅染めの茶色い衣を着ている。竹籠で作られ、身長は約五メートルあり巨大な太刀と小刀を腰に差している。
<南九州に伝わる弥五郎伝説>
・南九州には、巨人が登場する多くの「弥五郎伝説」がある。弥五郎どんは、山に腰かけて海の水で顔を洗うほどの大男だといわれる。
<ハレハレ 宮崎県 宮崎市糸原 倉岡神社>
<全身に蔓草を纏った紅白の鬼>
・「ハレハレ」は赤鬼・白鬼の面をつけ、蔓草を全身に巻きつけた鬼神。
<イブクロ 宮崎県 新富町 新田神社>
<夏祭りに現れる穏やかな神さま>
・夏祭りに現れる赤と白の夫婦神。赤が男神、白が女神。
<メゴスリ 宮崎県 串間市大平>
<仲秋の名月とともに現れる鬼神>
・十五夜に現れる赤鬼と青鬼。
<健磐龍命(たけいわたつのみこと)・阿蘇都比咩命(あそつひめのみこと) 熊本県 阿蘇市一の宮町 阿蘇神社>
<火振神事>
<神さまの結婚を祝う炎の輪>
・阿蘇神社で行われる五穀豊穣を願う神事。農業神である健磐龍命が姫神・阿蘇都比咩命を娶る「御前迎え」の儀式が行われる。
<大王殿(でおどん) 鹿児島県 日置市日吉町日置 日置八幡神社・鬼丸神社>
<神事を見守る仮面神>
・「大王殿」は、日置八幡神社の御田植祭に現れる巨大な仮面神。御田植祭では「せっぺとべ」と呼ばれる日吉町独特の豊年祈願の踊りが奉納される。
<疫病神・貧乏神 鹿児島県 南九州市知覧町郡>
<カセダウチ>
<悪い神さまたちに一風変わったもてなし>
・小正月の晩、七福神などに扮した人々が神さまになって新築の家にお祝いにやってくる。一軒の家に何組か訪れ、格好も人数もその都度まちまち。
<大ガラッパ 鹿児島県 南さつま市金峰町 玉手神社>
<子どもたちを水難から守る大河童>
<ヨッカブイ>
・大ガラッパ(大河童)は、玉手神社で行われる水神祭り「ヨッカブイ」に現れる。頭に不気味なシュロの皮をかぶり、腰に荒縄を巻いた夜具を着る。
<稲積弥五郎 宮崎県 日南市飫肥 田ノ上八幡神社>
<南九州巨人伝説の一番大きい三男>
・伝説の巨人・弥五郎どんの三男「稲積弥五郎」は、この土地に八幡様のご神体を背負ってきたという。田ノ上八幡神社の秋祭りに現れるが、三兄弟の中で一番体が大きく高さは約7メートル。
<トシドン 鹿児島県 薩摩川内市 下甑島>
<恐ろしい顔つきに似合わず子ども好きの神さま>
・「トシドン」は、毎年大晦日に家々を訪れる歳神。普段は天上界に住み、天上から子どもたちの行いや態度を見ているという。鬼のような派手な色の面をつけ、シュロで作られた蓑と黒いマントを着る。
<神さまが乗る「首切れ馬」>
・トシドンは天上界から付き人を従えて山の上に降り立ち、「首切れ馬」に乗って家々を訪れると言われる。首切れ(首なし)馬は日本各地に伝わる馬の妖怪で、主に四国を中心に伝承されている。
<メンドン 鹿児島県 三島村 薩摩硫黄島>
<硫黄島八朔太鼓踊り>
<赤い仮面の悪戯好きな神さま>
・「メンドン」は、毎年薩摩硫黄島で行われる八朔太鼓踊りの最中に現れる。藁蓑を着て、大きな丸い耳のついた赤い面をつけた悪戯好きの神さま。
<メン 鹿児島県 三島村 黒島>
<すりこぎとサモジを打ち鳴らしながら踊る神さま>
・「メン」は、黒島で九月に行われる八朔(はっさく)踊りに現れる鬼神。メンは妖怪を表す。
<タカメン 鹿児島県 三島村 竹島>
<竹島八朔(はっさく)踊り>
<大きな面をつけた仮面神>
・竹島の「八朔踊り」に現れる仮面神。大きな耳を持つ高さ約1メートルの大きく派手な色の面をつけている。
<トイノカンサマ 鹿児島県 屋久島町宮之浦地区>
<全身真っ白な歳神>
・「トイノカンサマ」は屋久島の歳神で、大晦日に宮之浦岳から降りてくると言われる。頭に白いシャグマをかぶり顔は白塗り、白装束を纏った全身真っ白な姿。手に長刀を持ち、言うことを聞かない子を入れて山に連れていくための籠を背負っている。
<ボゼ 鹿児島県 十島村 悪石島>
<南国的ルックスの傍若無人な神さま>
・「ボゼ」は、悪石島の盆の最終日に現れる。大きな耳のついた仮面をかぶり、ビロウの葉の腰巻きを巻き、手にはボゼマラと呼ばれる長い棒を持ったエキゾチツクな姿。
<仮面神 鹿児島県 加計呂麻島 芝集落>
<加計呂麻島のハロウィン>
・「バッケバッケ」は加計呂麻島の豊年祭前夜に行われる行事。ここに子どもたちが扮する仮面神が現れる。
<イッサンボー 鹿児島県 徳之島 伊仙町>
<イッサンサン>
<案山子の姿の豊作を呼ぶ神さま>
・「イッサンボー」は、徳之島で行われる行事・イッサンサンに現れる案山子の姿をした豊作祈願の神。
<海神 沖縄県 沖縄本島 北部から中部>
<ウンジャミ>
<海から迎える神>
・ウンジャミ、海神祭りは沖縄本島北部から中部で行われる海神を迎える儀式。
<ギレーミチャン 沖縄県 渡名喜島>
<二年に一度訪れる島神>
<シマノーシ>
・「ギレーミチャン」は渡名喜島で隔年で行われる最大の祭祀・シマノーシに現れる。蔓草で作られた神冠をかぶった豊穣をもたらす島神。
<上野野原のパーントゥ 沖縄県 宮古島市上野野原>
<サティパウロ>
<子どもが扮する「パーントゥ」>
・宮古島の上野野原では、サティパロウ(里祓い)の行事の際「パーントゥ」が現れる。平良島尻パーントゥとは違い、特別な扮装をしたり臭い泥を塗ることはない。
<パーントゥ 沖縄県 宮古島市平良島尻>
<パーントゥ・プナカ>
<泥だらけの厄払いの神さま>
・「パーントゥ」は、平良島尻のパーントゥ・プナカという祭祀に現れる。パーントゥは化け物や妖怪という意味だが、古くから地下他界から訪れて人々に幸せを運ぶ神さまとして愛されている。杖を持ち、全身をキャーンと呼ばれる蔓草で覆い、その上から真っ黒に泥を塗りつけている。
<マユンガナシ 沖縄県 石垣市川平>
<豊穣の世界から訪れる歳神>
・石垣島では旧暦九月に年の節目を祝う節祭が行われるが、マユンガナシはその初日に現れる豊穣をもたらす神。真世(マユ)という豊穣の世界から来ると言われている。
<ミルク 沖縄県 沖縄本島と周辺離島・八重山地方>
<海の彼方から幸せと五穀の実りを運ぶ神さま>
・ミルクは海の彼方にあると言われる理想郷・ニライカナイから豊作豊穣を運んでくる神さま。
<ミルクは弥勒(みろく)>
・「ミルク」は弥勒で、それが訛ってミルクとなった。しかしミルクの面は弥勒菩薩よる布袋に似ている。昔、沖縄に中国の布袋和尚を弥勒菩薩の化生とする弥勒信仰が伝わった際、それにニライカナイ信仰が結びつきミルク信仰になったと言われる。
<地域による様々な姿>
・ミルクの姿は地域によって異なる。
<カムラーマ 沖縄県 八重山郡竹富町 鳩間島>
<黄色い衣を着た豊作を司どる神さま>
・「カムーラ」は鳩間島豊年祭二日目の奉納芸能の際に登場する。豊作や子孫繁栄の神さまで、鳩間島だけに現れる。
<福禄寿 沖縄県 八重山郡竹富町 小浜島>
<小浜島に現れるミルクによく似た神さま>
・「福禄寿」は、小浜島に結願祭(きつがんさい)にミルクと共に現れる。ミルクと似ているが別の神さまで、表情や持ち物が微妙に異なる。
<ウシュマイとンミー 沖縄県 石垣市 石垣島>
<旧盆にあの世から訪れる精霊>
・石垣島では旧盆(ソーロン)に、あの世から使者が現れて家々で祖先の霊を供養する。ウシュマイとンミーは翁と嫗の夫婦神。
<ダートゥーダー 沖縄県 八重山郡竹富町 小浜島>
<小浜島結願祭>
<奇妙すぎて姿を消していた謎の仮面神>
・「ダートゥーダー」は、小浜島結願祭(きつがんさい)に現れる仮面神。黒い天狗の面をつけ、黒づくめの装束に金太郎のような前掛けをしている。鴉天狗をモデルにしていると言われ、奉納芸能の舞台に四柱が現れ、組体操のような奇抜な動きをする。神さまの由来も所作の意味も全く不明。
<オホホ 沖縄県 八重山郡竹富町 西表島>
<西表島節祭(しち)>
<異国風の陽気な神さま>
・「オホホ」は西表島の五穀豊穣を祈願する節祭に登場する。お笑い芸人のニセ外国人のような鼻高の仮面をつけ、異国風の衣装を纏いブーツを履く。
<獅子 沖縄県全域>
<獅子舞の獅子も来訪神>
・沖縄の獅子と獅子舞は、15世紀に獅子神信仰と共に中国から伝わった。獅子は百獣の王であることからその力が崇拝され、獅子によって厄災が祓われるとされる。
<アカマタ・クロマタ・シロマタ 沖縄県 八重山諸島>
<正体不明で謎だらけの神さま>
・豊年をもたらす神さまだが、その姿は謎に包まれている。
「アカマタ」は男神で「クロマタ」は女神だと言われ、西表島のみ「シロマタ」が存在する。この行事は秘祭で、行事内容や神さまたちの姿は外部の人間には公開されていない。
<フサマラー 沖縄県 八重山郡竹富町 波照間島>
<全身を蔓草で覆った雨乞いの神さま>
・「フサマラー」は、波照間島のムシャーマに登場する。ミチサネーと呼ばれる仮装行列に現れ、瓢箪で作られた面で顔を覆い、全身にヘチマの蔓草を巻きつけている。
<監修のことば 中牧弘允>
・ところで、来訪神は民俗学では次のように定義されている。「異界からこの世へ定期的に現れ来たる神」であり、仮面仮装する場合もあれば、神歌の中で来訪を暗示させる形態もあり、祖霊信仰や年神の枠組みで捉えられることが多く、歓待と畏怖を伴って迎えられる。
・また、鬼や獅子、人形のつくりものなど、狭義には来訪神とはみなされない存在も含まれている。しかし、役割としては招福除災のために訪れる神的存在として、一脈通じあっているところがある。本書は民俗学の専門書ではないので、そのあたりは大目に見てほしい。
・近年の来訪神への関心はユネスコの無形文化遺産への登録によるところが大きい。