酔いどれ烏の夢物語

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酔いどれ烏の夢物語 残雪

2023-03-20 01:18:09 | ポエム

     

       残 雪

春は苦手なんだ 彼はぽつりと呟いた

溶け残った雪が汚れて 

太陽に照らされて ただ溶かされていくのを 

待っている様で なんだか切なくなる

そう言ってグラスのウイスキーを飲んだ

毎年、今日の日を僕らはグラスを片手に語り合う

今日は彼の恋人の誕生日だ もういない彼女の

三年前の今頃の事だ 二人は結婚する筈だった

当時は美男美女のカップルと皆が羨むほどだった

幼馴染の僕から見ても そう見えていた

 

彼女が亡くなった 彼の悲しみは

今の僕には計り知れない

病気や事故だったなら まだ救いはあったのか?

だが人の手によって 彼女の命は奪われた

よりにもよって薬に精神を侵された人間が 

賑わう繁華街でナイフを振り回した結果

二人の重傷者と一人の死者 それが彼女だった

倒れた彼女を抱きかかえ 半狂乱の彼を僕は見ていた

待ち合わせていたカフェの二階の窓から 偶然にも

あの日から三年が 過ぎようとしていた

 

あの日からずっと 彼の悲しみは癒えない

俺にはどうする事も出来ずに

ただ、彼の話を聞く 友とは歯がゆいものだ

そして今年も春は もうじきやって来る

人々が希望に胸を膨らませる春が

一人の、いや二人の男の心を凍てつかせたまま

俺は二人の幸せを見守る事で ケリを付けたかった

そう彼への想いを 断ち切るために

これからも俺は友として彼を支えていくと決めた

この残酷な現状に 抗う術を知らないから