酔いどれ烏の夢物語 キネマ

　　　　

                  　キネマ

僕が彼と出逢ったのは　映画館だった

仕事が突然キャンセルになったので

先日公開された映画でも見ようかと出掛けた

春休みのせいか　若い子たちの姿も見られた

チケットを購入するためブースの前に並んだ

僕の前には一人の若い男性が立っていた

僕以外にも一人で映画を見に来る人がいるんだ

チケットを購入して　上映開始時間を確かめた

時間にはまだ早い　僕は飲み物とポップコーンを買った

男のくせにと思われるかもしれないが

僕はキャラメルがけが好きだ　それとコーラだ

 

それを持って会場に入った　さてどこに座ろうか

会場に入ってすぐ声を掛けられた

先ほど僕の前に居た若い男性だった

良かったら一緒に座りませんか

一人と言うのもなんだし　そうですね

僕は同意した　並んで座り雑談をした

意外な事に彼の方が二つ僕より年上だった

仕事以外でこうして誰かと話すのは久しぶりだ

それがとても新鮮で　なんだか楽しくなった

彼は会社には勤めているが

最近では自宅で仕事をする事の方が多いらしい

 

そういえば映画の事を　キネマと言うけど

シネマとキネマはどっちが正しいんだろう

僕はかねてから気になっていた疑問を口にした

すると　実は僕も気になって調べた事があります

キネマと言うのはギリシャ語らしいです

シネマよりキネマが広がったのは

そう言いかけて　彼はくすくすと笑った

シネマが日本語の「死ね」を連想させるから

と言う理由で使うのを嫌がって　

キネマが主流になった時期があったそうです

今じゃ誰もそんな事　考えませんよね

 

僕らは互いにアドレスを交換して

それから映画を見て　夕食を食べた

どうやら彼は僕を気に入ってくれたらしい

勿論　僕も彼にとても好感を抱いた

偶然仕事がキャンセルになり

たまたま出掛けた映画館で知り合って

こんな風に友達になった

春は別れと出逢いの季節だと言うが

正にこれが出逢いと言うやつなんだろう

僕たちは次に会う約束をして別れた

帰り道　僕の心はとても穏やかだった