goo blog サービス終了のお知らせ 

メイキング・オブ・マイマイ新子

映画「マイマイ新子と千年の魔法」の監督・片渕須直が語る作品の裏側。

グ・リ・コ・の・オ・マ・ケ!

2009年11月26日 10時54分20秒 | mai-mai-making
 さて、その佐波神社の石段、カメラを持って登ってるのは、ロケハン中の私です。
                   

              

 ここで、新子と貴伊子にはジャンケンして遊んでもらうことにしました。

      「じゃんけんもってすっちゃんほい!」(山口弁)

 貴伊子はチョキを出し、グーを出した新子のほうが勝ってます。
 もし、新子がパーで勝ってたらどうなっていたでしょうか。

      「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」

 6段登らなくちゃなりません。
 では、チョキだったら?

      「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」

 うーん。
 是が非でも新子には「グー」で勝ってもらわなくちゃなりません。

      「グ・リ・コ」

 3段。
 作画枚数がかからない、カットの尺が変に延びない、いろいろな点でこれでなくちゃならない。

「だけどさ、これはタイアップとる必要があるよね」
「ほかにも、『グリコ』って言葉、何度も出てきますものね」
 
 ということで、江崎グリコにタイアップを取りに行ってもらうことにしました。
 江崎グリコの方からは、商標名の使用許可といっしょに、オマケの資料まで提供していただいてしまいました。


          
                      

 そういうことになったのなら、こちらも。
             
 これは、本編で使った素材。新子たちの読み物雑誌や、漫画雑誌の裏表紙は全部、グリコの全面広告になってるわけです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

桑畑、もうすぐ五十郎

2009年11月25日 03時10分42秒 | mai-mai-making
 そろそろ畑には、ひょろひょろした麦苗が生え始めています。この映画を作り始めてから、麦が芽生え、育ち、麦秋を迎える周期を何度も見てきました。麦畑を取材に行こうとしても、季節外れだと何も見ることができないわけで、自然、季節のサイクルに敏感になってしまうのです。そういうもので季節を感じるようになっていました。ときにそれは、移ろう季節がスケジュールといっしょになって追っかけてくる焦りであったりもしましたが。

 われわれにとって、『マイマイ新子と千年の魔法』における三大植物は、「麦」「桑」「ウツギ(卯の花)」でした。
 桑もまた、眺めに行こうにも、季節外れには葉っぱがついていませんし、実も実っていません。それ以前に、「桑畑ってどこにあったっけ?」という日ごろの不注意っぷりです。

 とりあえず、2007年の春、片渕と浦谷で休みのたびにグルグル回って偵察を繰り返していたのですが、秩父のほうにロケーションのよさそうな場所を見つけ、4月15日(日)、美術監督の上原さんを誘ってもう一度出かけてみました。日曜日にプライベートでロケハンで出向いているあたりに、奥ゆかしさを感じていただければ幸いです。
             
 ここは多々良山の山すそを思わせる扇状地で、そのまま防府で取材した風景にはめ込める利点がある場所でしたが、いかんせん、肝心の桑に葉がありません。
             


「桑っていったら、群馬じゃないかな?」
 黒澤明『用心棒』で三船敏郎が「名前はそう、桑畑三十郎・・・・・・もうすぐ四十郎だがな」と名乗った頃から、桑といえば上州と決まっておりましたので(?)、この日はさらに関越道を飛ばして群馬まで足を伸ばしてみました。さすがに広い桑畑が広がっています。葉がないことに変わりはないのですけれど。いや、とにかくここは広すぎました。
             


 上原さんは上原さんで、いずれ描かなければならない桑のことに注意を払わねば、と思い始めたようで、5月半ばの日曜日に家族連れで群馬を再訪しています。どうも、確信がもてないロケハンは、日曜日の家族旅行の形を借りて、ひっそり個人的なものとして行われることが多いようです。この5月13日には、さすがに桑の葉が出てきていたのですが、まだ見るからに「若葉」で物足りません。上原さんは、そんな桑の木の前に小学生の娘さんを立たせて写真を撮ってきました。
             
 翌週の日曜日は、今度は、片渕が小手指のあたりに出かけ、やはり桑の木の下に娘を立たせて写真を撮っています。
             
 桑の木の高さが小学生をどれくらい隠すか、それが気になっていたわけです。桑の木に覆われた中に、新子たちの「ひみつの空間」を作ろうとしていたものですから。

 5月28日は月曜日。桑の葉の様子ももういいだろう、と思えてきたので、メインスタッフ一同を、最初の秩父の場所に引率しました。葉っぱが出揃ったので、取材もオフィシャルになった、というところです。
             
             


             
 この最後の写真の桑畑を、防府の佐波神社の石段と組み合わせると、
             
 こんなふうに完成します。
             
 ついでに、ネギ畑も秩父からもってきちゃいました。
             
 



 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

姿が見えない人の存在を感じる

2009年11月24日 21時53分54秒 | mai-mai-making
 映画を見終えてなおもマイマイ新子の世界に浸りたい方があったなら、東京近郊では大田区の「昭和のくらし博物館」に残る昭和の雰囲気が心地よいかもしれません。

                 

 この博物館のことは、以前にもこのブログに書いたことがあります。館長であり生活史研究家である小泉和子さんのいくつもの著書からは、膨大なイメージをいただいています。小泉さんの生活史の研究は平安時代の生活にさえ及んでいるのです。

             

 この場所は「昭和のくらし博物館」という名ではあるものの、実は小泉和子さんの実家そのものが丸々一軒保存されたものです。家の中には、そこかしこにひとつの家族の歴史を偲ぶ残り香が潜んでいます。
 この家のお父様の書斎には、女学生時代の和子さんが描いた父親の働く姿のスケッチが飾られていました。その絵を眺めているうちに、唐突に、貴伊子の母が娘に残したものがあってもよいなあ、と思い至りました。
 母親が描いた「赤ん坊の貴伊子のスケッチ」。

             

 貴伊子の母の絵は、作画監督の浦谷さんが下図を描き、途中からスタッフに参加した制作進行・小林紗英さんがたまたま美大出身だというので、描き込んでもらうことにしました。
 こちらでは深くは説明しなかったはずなのですが、彼女は、貴伊子の母の性格を見抜いてしまったようです。よほど絵コンテを読み込んでくれたのでしょうか。
「途中までできました」
 と、持ってきた赤ん坊の絵の背景には、たくさんの蝶や花が舞っていました。
「こういうのが、貴伊子のお母さんらしいと思ったんです」
 しかも、ピンクを多用した大胆な色使い。
 ああ、貴伊子ってこんな母親から生まれた子だったんだ・・・・・・。
 新人の小林に教えられた思いです。

 ほんとうに残念なのですが、小林さんは体を壊し、仕事半ばでこの職を辞めなければならなくなってしまいました。そのとき、貴伊子の母の絵はまだ未完成のまま残されていましたが、
「これだけは家で必ず完成させてきますから」
 と、約束してくれました。
 絵が完成し、彼女が自分の手でそれを届けにきてくれたのは、それから数ヵ月後のことです。

             

 彼女は、ほんのわずかな間しか仕事仲間でいられなかったけれど、画面に登場しない貴伊子の母のイメージをこの絵を通じて作り上げてくれました。そのことでもっと大きな意味での仲間になってくれました。



(この絵は下絵からすべて小林紗英の作品。映画の中ではあまり目立ちませんが、どこに登場しているか、探してみてください)
             

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

関係者列伝 その2 印度総督

2009年11月23日 12時04分28秒 | mai-mai-making
考証協力・前野秀俊氏

 戦前から戦中、戦後にかけての通俗文化の探索者。
 ときに筆名を「印度総督」と名乗る。
 印度総督とは、戦時中に日本軍がインドを占領するつもりで早々とそういう役職の人を定めてしまっていたのだけど、そうはうまくは運びませんでした・・・・・・と、そんな諧謔味をこめた意味合いのようです。ご本人は至って穏健なリベラリストです。

 前野さんは、最初に現場を立ち上げた時点で、まず加わっていただいたひとりです。
 こんな文章を書いて謙遜しておられますが、マッドハウスにはまだ、前野さんが捜してこられた資料がこんな大量に残されたままになっています。
             
             
 貴伊子のイメージは、この方のサジェッションがあってはじめて成立したものです。


 前野さんのコラムでは、この二本が特に好きです。
『かわいそうな園長代理』
『女子通信隊員の髪型問題』
 戦時中の価値観統制って、いったいなんだったのよ、というところです。
 前野さんは、そうしたことを見抜く目を持っておられます。

 そうそう、ちなみに、原作を読んだ方ならご存知でしょうが、貴伊子ちゃんの髪にもパーマがかかっています。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新子、ついに貴伊子と出会う

2009年11月23日 10時59分32秒 | mai-mai-making
 2008年10月26日。
 アフレコ開始5日前の日曜日。

 キャスティングが決定し、主だった配役のうち、大人の男性は山口県出身者で固めてありましたが、女性陣と子どもたちが山口弁に馴染みがありません。
 防府から方言監修の森川信夫さんに来ていただき、山口弁のおおよそのルールについて語っていただくことにしました。

 松竹本社の会議室に集ったメンバーは、

    新子=福田麻由子(中学生)
    貴伊子=水沢奈子(中学生)
    光子=松元環季(小学生)
    シゲル=中嶋和也(小学生)
    タツヨシ=江上晶真(高校生)
    ミツル=西原信裕 (高校生)
    一平=冨澤風斗(小学生)
    吉岡さん=喜多村静枝(大人)
    初江=世弥きくよ(大人)
    メイド=久野道子(大人)

 この日はキャストの初顔合わせでもあります。長子の本上まなみさん、諾子の森迫永依さんは、スケジュールが合わず、残念ながら、と欠席。

 今日も水沢奈子くんは、名古屋から荷物を引っ張ってきています。
「あ」
 福田麻由子くんは、西原信裕君を見つけて挨拶していました。『女王の教室』の共演者どうしだったわけです。
 子どもの役は全部、実年齢高校生以下が演じるのですが、どっしり落ち着いた風情の「絵のうまい吉岡さん」だけは喜多村静枝さんに演じてもらうことにしてあります。といっても、喜多村さんの本役はむしろ「バー・カリフォルニアの女」の方なのですが。
 新子のおばあちゃん「初江」を演じる世弥きくよさんは、舞台演劇の女優さんです。監督より年下なのに「おばあちゃん」なのはもうしわけないのですが、『カムイノミ』という劇で蝦夷の女長老を堂々と演じておられたのを観て、これはいいかも、と、『マイマイ』一座に引っ張り込んだのです。新子の家は祖父の代までは大地主だったので、地主の奥様だったおばあちゃんには飄々とした落ち着きが残っています。
 山口県出身の久野道子さんには、最初のオーディションのときに子役たちのマイク前での面倒を見ていただいて、ひじょうに助かりました。本番では、フロアに入っていただいて細かい方言のニュアンス指導をお願いすることになっています。


「山口では、知らない人以外は皆知っている。森川です」

 森川さんは防府市立図書館の職員(現在は館長)なのですが、方言研究家として、山口県では放送に出てそれなりに通った顔です。自己紹介の決まり文句も持っておられます。

 山口弁は、東京式イントネーションなのですが、「ヒトシ」「ミツル」「フクダ」のような三文字の名前はだいぶイントネーションが違います。
 それから、母音の数が多い。

「『赤い』が『あけー』、『会議室』が『けーぎしつ』」

 この「けー」は実際には『か』と『け』の間の音です。標準語より多い母音は「あいうえお」では書き表せません。
 ちょっとだけ名古屋弁に似ている気もします。

「名古屋弁の場合は『きゃーぎしつ』。名古屋弁に比べて、山口弁の方が○○」

 そういって、名古屋から来ている奈子くんの顔をのぞきこんで、からかいます。
 森川さんが口にした例文をみんなで真似して復唱します。
 山口弁のツボがわかってきた気がします。
「それぞれ、ご自分の台詞で聞いておきたいことは?」
「はい」と喜多村さん。「この、『ほうたっちょきさんよ』ですが・・・・・・」
「『ほうたっちょきさんよ』。意味は『放って置きなさいよ』」
 そんな感じで、みんなで手をあげて質問していく。小中高校生、大人も入り混じった山口弁学校。


「休み時間です。それが終わったら、一度通しで映画を見てみましょう」
 一同、ガヤガヤ。

 しかし、福田麻由子くんは休み時間もひとりでじーっと台本に見入ってます。競走馬みたいに真剣に役に入れ込んでる。だけど、周りの子たちが気を緩めてる、この休み時間にも?

 と、奈子くんが、すっ、と隣に座りました。

奈子「いっしょにお団子食べよ?」
麻由子「え?」
奈子「はじめまして」
麻由子「あ。う、うん・・・・・・」

 麻由子くんは、差し出されたお団子の箱に手を延ばしました。

 うまくいってるじゃん、このキャスティング。

 福田麻由子は、主人公役として、誰よりも前に出て芝居を作り上げなければならない覚悟を携えてここに来ている。
 水沢奈子は、福田麻由子よりひとつ年上だけど、4歳から演技の世界にいる福田麻由子のことを先輩としてリスペクトし、友だちとして一緒にやっていこうとしている。

 小学生の中嶋和也が、高校生の江上晶真にまとわりついてふざけてる。江上君もちゃんと取り合ってやっている。
 芝居すれば大人顔負けの松元環季のふだんの顔は、まったく無邪気な「こども」のままです。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする