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メイキング・オブ・マイマイ新子

映画「マイマイ新子と千年の魔法」の監督・片渕須直が語る作品の裏側。

関係者列伝

2009年11月23日 10時08分01秒 | mai-mai-making
『マイマイ新子と千年の魔法』スタッフ・キャスト関係者列伝。
最初のひとりは、荻窪・白山神社の神様。

             

 2008年2月25日、打ち入りの日の午前、スタッフ一同で御祓いを受けに行ったときから、ずっとスタッフルームに来ていただいていました。

 2009年11月21日、公開初日には、新宿ピカデリーのバックヤードの控え室までお連れしました。
「お連れしてきてくださったんですか! ああ・・・・・・」と、エイベックス・岩瀬智彦プロデューサー。

 みんなで拝みました。
             

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塀にさえ花を咲かせたい心

2009年11月21日 10時09分04秒 | mai-mai-making
 いわゆる「築地(ついじ)塀」というのは、二種類ありまして、官衙や寺院のように母屋が瓦葺きのときは、築地塀も瓦葺きです。
 写真は、周防国分寺の築地です。
             
 映画に出て来るのはこんな感じ。
             

 一方で、瓦葺は公的な施設に限られており、私邸の場合は屋根が檜皮葺き、板葺きになります。母屋がそうした造りの場合、築地には板屋根がついて、それを土で押さえたかっこうになります。この押さえの土を「上土(あげつち)」といいます。一般的な築地のてっぺんは土でできていたわけです。
             
             

 さて、この築地の上土に花の種をまいて花壇にしまったのが、花山天皇です。陰陽師・安倍晴明を重用した帝です。
 花山帝の在位期間は西暦984年から986年というわずか二年でしかなく、譲位を強制され、法皇として隠棲させられてしまいます。花山法皇は、自邸の築地の上に撫子(なでしこ)の種をまかせ、そこには花が咲き乱れたといいます。
 花山帝に代わって即位したのが一条帝で、清少納言はその中宮・定子に女房となって仕えることになります。
 そういうことですので、花山天皇がこんな雅やかなヤケクソぶりを発揮してしまったのは、実際には、清少納言が周防から平安京に戻って以降のことになります。


 ですが、塀の上に撫子の花が咲き誇る寝殿造の屋敷。
 これもまた、刺激的なイメージで、思わず見たくなってしまう光景です。


 わずか19歳で出家させられそんな行いに走ってしまった花山帝。
 『マイマイ新子と千年の魔法』の登場人物は、何を思って撫子の種をまくのでしょうか。

 それは、「単純にきれいなものを見たい」というだけではなかったかもしれません。
 

              
             

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貴伊子が見つからない

2009年11月20日 12時03分24秒 | mai-mai-making
 さて、2008年9月21日(日)、今日から問題の貴伊子オーディション開始。

 福田麻由子による新子の台詞テスト録音は、すでに完了済み。
 子役の時期を脱して、演技力にいっそう磨きがかかってきた福田麻由子の相手役となれる人材。それでいて、比較的低めの音程で作られた福田・新子の役作りと対をなす以上、やや高めの涼やかな声であるのが望ましい。
 すでにペーパープランとボイス・サンプルで、ああでもない、こうでもないと、10代のタレント、女優の選別を繰り返してきた末でのことです。キャスティング・スタッフは、いきなり初日に40人の少女たちを揃えてきました。これだけサンプル数があれば、よしんばこの中に命中がなくとも、おおよそ必要とされている資質の方向性が客観的に浮き彫りになってくるだろう、という判断です。

 そこまで腐心していただいた上でこんなことをいうのもなんなのですが、これから決めなければならない貴伊子、シゲル以下の男の子たちはティーンエイジャーから選ぶことになるわけですから、オーディションのスケジュールは学校が休みの日主体になります。必然的に、われわれは休日なしになってゆきます。

 さて、初日の参加者は9歳から18歳までの女の子39人、プラス、本来の枠外なんだけどご本人の希望で24歳の声優1名。
 録音された新子の声とかけ合いをやってもらって、新子の声質とのアンサンブルを見つつ、演技を見る。すでに新子が自然な感じで成立しているので、いわゆる声優喋りだとマッチングが難しくなります。あまり力のこもった台詞回しだと、貴伊子らしさから外れてしまいます。

「ある程度か細くなくちゃならないんだよなあ、貴伊子」

 参加してくださった皆さんの力量の問題なんかじゃなく、あくまで、役のイメージとたまたま一致しているかどうかなのですから、難しい。しかも、貴伊子のパーソナリティは一面的ではない、いくつかの異なる表情が要求されます。オーディション用の台詞原稿も、三つくらい演技の質の違う場面を用意してありました。

「ひとり9歳の子いたね。『仮面ライダー電王』のコハナちゃんの子」
「松元環季ちゃん。声質の年齢感がちっちゃ過ぎですか?」
「リアル9歳なのになあ」
 6月のオーディションで、新子の妹・5歳の光子をリアルに4~7歳くらいの子役に演じてもらったら幼く聞こえすぎてしまった、という経験がありました。なので、9歳の新子を14歳の福田麻由子が演じるとき、光子は10歳前くらいがちょうどいいんだろうなあ、という感触は抱いておりました。
 ということで、光子=松元環季の線が急浮上。

 貴伊子は何人か候補を出しつつも、決定打出ず。
 この日は開始10時、終了20時。

 翌週の28日(日)、こんどは、男の子役のオーディション。
 シゲル、タツヨシの台本を用意して、28名。それに、貴伊子候補1名
 ここで、江上晶真(タツヨシ)、冨澤風斗(立川一平)、本城雄太郎(同級生)と出会うことができました。

 ここからしばらく、アフレコに備え、完成映像の編集作業に入ってあいだが開きます。フィルム完成に至るまでのスケジュールが出る。アフレコ初日は10月31日と決定されます。

 10月11日(土)、貴伊子オーディション。16時より、10名。
 10月13日(月)、貴伊子オーディション。3名。この日は平日なので、学校が終わった夕方に、制服姿のままの少女たちに来てもらって。

 10月19日(日)、アフレコ開始12日前。
 オーディションは今日で切り上げなくてはならないのというのに、貴伊子、シゲル、ミツル、四郎が欠のまま。
 どうするんだよ、という際どい雰囲気の中、この日は男子9名、女子5名。貴伊子はこれが最後の5人です。
 15時20分スタート、録音スタジオは18時まで借りてあります。
 西原信裕(ミツル)、中嶋和也(シゲル)、海鋒拓也(四郎)が次々と決定。男の子の方は調子が良い。
 しかし、貴伊子は17時過ぎても未定のまま。
「どうするの?」
「貴伊子役候補、もうあとふたりです」
「こんどの子、名古屋から来てます。水沢奈子」
「はい」
 ああ、ガラガラ荷物ひっぱて来てた子がいたっけ。

「お」
「あ」
「これ・・・・・・」
 この最後の土壇場で、『貴伊子の声』と出会えたとき、少し呆然となって考え込んでしまいました。
 あまり呆然としてたので、催促されてしまいました。
「監督、この子にもうひと台詞やらせてみたいんですが」
「うん」
 もう1シーン分だけ水沢奈子が演じる貴伊子の台詞を聞いてみる。モノローグのところ。
 もう一回考える。ここまで58人の貴伊子の声を聞いてきて、くたびれて自分の耳は鈍磨してしまってるのかもしれない。
「今のプレイバックできます?」
「新子の声とつないでみましょうか」
 録音された音声の編集が終わるまで待つ。
「はい。出します」
 もう一回聞いてみる。貴伊子が新子とふたりで喋ってる。ふたりそろってそこにいる。
「監督ぅ?」
 ええい、皆までいうな。すがるような目で見るな。こっちだって、もう決めてるんだから。

 水沢奈子に決めます、といったら、周囲のプロデューサー陣、キャスティング・スタッフから、救われたような大きな吐息が漏れたあの夕べ。
 オーディション最終日の最後のギリギリに起こった、奇跡的な出会い。

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千年前の国衙を考えた

2009年11月20日 11時06分44秒 | mai-mai-making
 『マイマイ新子と千年の魔法』の舞台である「防府市国衙」とは、周防の国の国府の官庁があった土地であるといわれています。
 住所が今のように整理される前には、大字「国衙」の真ん中に、小字「国庁」という地名も残っていました。
             
 土地の中央には、史跡公園が残されており、そこには、こんな碑が立っています。
                  
 この土地は、古くから、国府の所在地なのだから、平城京や平安京と同じように、条坊制の区画割りがされていたのではないかと考えられていました。また実際に今も残る道がまさに方八町規模の条坊を構成しているようにも見えます。
             
 方八町の外側にも同じ碁盤目が広がっているのは、条里制の口分田の跡なのだろうと考えられたわけです。
 原作『マイマイ新子』で、新子がおじいちゃんから教わったのはこうした「説」です。だから、この土地には千年の歴史があるのだぞ、と。


 一方、現地の発掘調査が進んでくると、こうした旧来考えられていた説では、矛盾するところも出てきてしまいました。
 方八町の中のすべての道が、平安時代以前にあったわけではなさそうだし、整然と同じ角度で並んでいなかったかもしれない、そんな証拠が出てきてしまったのです。少なくとも、いろんな論文や発掘調査報告書を読んだかぎりではそう思われてしまいました。

 じゃあ、確実に千年前にあったと思われるものは何と何なのだろうか。
 それをどこまで把握できるだろうか。

「じゃあ、白飯、頼んだ」
「ええーっ、わたしがですか?」

 発掘調査報告書の添付図から、10世紀の遺構と推定されたものを拾い出して、防府国衙の地図上に貼りこんでゆく作業です。
 かなりたいへんです。なにせ、発掘調査は2003年時点で第140次まで行われていたのですから。
 制作進行だった白飯はずいぶん時間をかけてがんばって、この地道で果てしない仕事をやってのけてくれました。
             
 地図の南の灰色の部分は、千年前に海だったところです。この地形は今も残っていて、そのまま見ることができます。
 その左の方に両側を水色で縁取られた薄紫の道は、国衙のセンターロード(朱雀路)と思われる道です。左右を水色で縁取られているのは、道の両側にあった水路です。
 そこからちょっと入った左側に、国司館、つまり諾子の家も見えています。
 映画の中で、新子と貴伊子が走るのはこの朱雀路です。
             
 この水門のある水路は、今も現地へ行けば実際に見ることができるのですが、千年前にもそこにあった水路が発掘調査で発見されていました。千年前から流れる川は実在していました。

 こうして「ああでもない、こうでもない」と頭を巡らしたおかげで、防府国衙のかつての風景はだいぶよくわかるようになってきて、それなりに思うところも浮かんできたりしてしまったのですが、結局のところ、画面上には、旧来の想像とあまりかわらない方八町の国府を登場させています。
             
 何より、それこそ新子が(つまり高樹のぶ子さんが)おじいちゃんに教わったそのものだからです。
 そこは大事にしようと思いました。

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福田麻由子テスト録音

2009年11月19日 11時53分15秒 | mai-mai-making
 自分は小さい頃、子どもとして漫画映画を楽しんでいたものですから、その延長上でアニメーションの世界に入り込んできたようなところがあります。
 子どもに向けたアニメーションとは、「君たちには豊かな未来が待ってるんだよ」と語ってあげることだと思うのです。
 ですが、どうでしょう。テレビをつければ、親がパチンコ中に車の中で蒸し死にしてしまった子ども、ひどい虐待を受けて死んでしまった子ども、そんな非業のニュースが続けざまに目に飛び込んできてしまいます。こうした子どもたちを前にして、「自己実現を約束されたキミたちの未来」を語る元気は消え失せてしまいます。
 そうした気持ちの中で傾向の違う仕事をしていたある時期、家に帰ってから見るテレビドラマの中で、とある子どもが大人をにらみつけていました。子役時代の福田麻由子でした。
 大人が以下に理不尽を述べようとも、子どもには子どもの世界がある。『女王の教室』で、『救命病棟24時』で、『白夜行』で、その少女は、子どもの世界の中からの視線で、理不尽な大人どもをねめ上げていました。
 子どもの側に舞い戻れ、と、彼女が演じてきたいくつもの「役」に教えられたような気がしました。

 その福田麻由子は、インタビュー記事の中で「ほんとうのわたしは笑います」と話していました。
 相手の笑顔を勝ち取ることが登場人物たちの至上命題である『マイマイ新子と千年の魔法』の中で、福田麻由子に新子を演じてもらい、大声で笑わせたい。そう思うようになりました。
 会議上、そう公言してみたところ、
「それはちょっと前のドラマの話でしょ。福田くんは、でも子役の時期はもう終わりで、大人っぽくなってきてるらしいよ」
 などという情報を入れられてしまいます。
 かと思えば、
「いや、いまだに少女少女してる感じもあるらしい」
 などという人もいます。
「福田麻由子は今までの役柄からすると、貴伊子のほうじゃないかな?」
 いや、それは違います。
 知人であるマイケル・アリエス監督の『ヘブンズ・ドア』の試写会にも松尾プロデューサーと二人で潜り込み、ここ数ヶ月前の福田麻由子の姿をスクリーンに確かめては、なるほど、と思ったりしたものでした。


「新子役=福田麻由子」を決定事項とするべく押し通し、2008年9月上旬、とうとうスタジオに呼んでのテスト録音にまで至りました。今年に入って大人っぽさを増した彼女ですが、これはあくまで去年の出来事です。着飾らないジーパンとパーカーで来た彼女は、物静かで細いっこい中学生の少女でした。
「台本読んで、方言指導の音声も頭に入れてきました」
「予習バッチリです」と、傍らからマネージャーの方も。

 はい、じゃあ、やってみましょうか。

 台詞はシチュエーションの違う場面から数種類。
 映写すべき画面は未完成、何もありません。マイクの前に立った彼女は、脳裏にあるイメージだけで新子の台詞を放ちます。アフレコではなく、フリーの演技。
 「予想通り」
 と、思ったのは、陽気で張りのある太い声が出てきたからです。子どもらしいバイタリティ、それが自然な感じに出て来るのが良い。大人の理不尽なんかはね返せ。今度は目線ではなく、その声で。そして、どこまでもはしゃいでごらん。いけるいける。ほら、やっぱりこの人の中にはこういうものも詰まってたんだ。

「はい、オッケーです」

「このあと、どうしていけばいいでしょうか」と、福田麻由子。
 このまま無理に作り過ぎなくていいから。多少振れ幅があっても自然な感じが残ってる方がいい。むしろ今のをキープするような感じでやってもらえればいいから。・・・・・・というような内容を、ひとりのプロの俳優に向けた言葉として。
「わかりました」
「じゃあ、来月、本番で会いましょう」


「だけど監督、あの相手になる貴伊子役、たいへんになりましたね」
「うん・・・・・・」
 かもね。
 でも、それを探すのもまた楽しからずや。

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