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メイキング・オブ・マイマイ新子

映画「マイマイ新子と千年の魔法」の監督・片渕須直が語る作品の裏側。

アフレコ第2日目(中編)

2009年11月30日 19時30分44秒 | mai-mai-making
 さて、福田麻由子くんや水沢奈子くんたちに、新子や貴伊子の声の芝居をお願いしているのは、中学生の彼女たちだから普段のまま喋れば「子どもらしく」なるだろう、などと思っているからなどでは、もちろんありません。
 声質に大人の声優とは違うものを求めているのは確かですが、そういうことでいえば、麻由子くんの張りのある声は声優的といってもよいですし、奈子くんは高めに声質を作ってきています。ましてや、松元環季ちゃんはもはやプロの声優といってもよいふだんの仕事ぶりです。地声のナチュラルさが目的ではないのです。

 求めているのは、なんというか、芝居の可動域の大きさです。

 体がしなやかに柔らかい人が自由なポーズを作れるように、型にはまらない自由度の高い演技を、柔軟な彼女たちになら期待できると思って、このアフレコに望んでいます。
 芝居の自由度が大きければ、より自然に感じられる方向に演技を持っていくことが出来るだろうと、そう踏んでいるわけです。そういう意味合いで麻由子くんには「自然な感じで」と注文しているのであり、彼女もそれを解って、居のままにではなく、演技力で「自然な感じ」を作り出そうとしてきています。
 演技の自由度ということでいえば、貴伊子が登場以来、そして、新子も引き込まれてそうなってしまう、細い息のようなピアニッシモの芝居がその典型です。あれは、普通のアニメーションのアフレコではまずあり得ません。ともすれば、ノイズとまぎれてしまいかねない発声を求めることになるのですから。そいう意味では、録音の小原吉夫さんには苦労してもらっています。
 しかし、これまで続けてきた貴伊子のピアニッシモ演技は、これから行うウイスキーボンボンの場面を通り抜けることで、また別の次元に移行してゆくはずです。

「本物のウイスキーボンボン、まだあったけ?」
 と、たずねたのは、制作の丸山真太郎がフランス土産に買ってきた、洋酒瓶型のウイスキーボンボンのことです。作画の参考するために使って、あとは適当にメインスタッフで分けてしまったのですが、まだ少し残りがあるはずです。

真太郎「いや、まだちょっとはありますけど、あれ、出すんですか?」
監督「本物食べながらやらせたら、どうなるだろうと思ってさ。かーっと、熱くなるとことかさ」
真太郎「いやあ、相手は未成年ですよ。まずくないですか?」
監督「まずいかなあ。さすがに」
 とはいえ、原作では不思議な発音で書かれている、ふひ(口)にひょほれーほ(チョコレート)をふくんだままの芝居をしてもらおうために、「ふつうの」チョコレートを買ってきてもらうことにしました。
 これからの芝居は、テイクごとにチョコレートを食べながら、ということになります。
「リテイク出して、テイク数増えてったらどうなんだろ。太らせて返した、っていって、彼女らの事務所から怒られるのかな」

 味噌っかすの光子が、自己主張して前に出たい感じ。
「おはへがはひってふ」という貴伊子から、急に大笑いはじめる段差感。
 酔っ払ってしどろもどろの新子が、母の内緒話をひざをたたきながら話すくだり。
 どれも絶妙なところでうまく成立しました。

③諸星すみれちゃん。
 すみれちゃんは、光子役のオーディションで発見しました。
 彼女も、光子の泣きの芝居は前回で演じてました。
 物怖じしないこの感じならば、笑いもいけるだろう、と、千古の双子の妹たちの役を振りました。
 物語上の流れでは、すみれちゃんを笑わせるのが、この映画の最終到達目標ということになります。
 しかも、双子だから、2回演じなけらばならなかったわけですが。
 これも無事クリア。


④まだ酔いが残る貴伊子に、苦いイタドリを食わせる新子。
 食べさせられた貴伊子のリアクションは、台本では「う―――」となっています。
監督「そこ、貴伊子のリアクションに『酸っぱ苦い』感じ、何かもらえないでしょうか? イタドリなんか食べたことないお客さんも多いわけだし、どんな味か想像するよすがに、ひとつ」
奈子「酸っぱ苦い?」
監督「酸っぱくって、それでいて昔のホウレンソウみたいな苦い感じ」
 うーん、今ここで手元にイタドリがあればなあ。
奈子「やってみます。――うーっ、にっがああぃ」
 ああ、そりゃそうだよね、あの尺の中だと「すっぱ!」「にっがああぃ」って二つは入らないものね。端的に、苦い、っていっちゃうしかないよね。そのとおりでした。
 はい、オッケーにします。今のでいただきました。

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山子さんのミヤコワスレ

2009年11月30日 14時58分46秒 | mai-mai-making
 美術の石川山子さんはとても上品な感じの方で、一種の天才肌の絵を描く絵描きであり、しかも、一枚の背景画に費やす時間も、普通に想像できる域を恐ろしく上回って常人離れしています。
 そういう方だものですから『アリーテ姫』のときは、魔法書の挿絵のみに集中して作業をお願いすることにしました。『アリーテ姫』をご覧になった方には、本の挿絵だけまったく別格な絵の世界になっていることに気づいていただけるのではないでしょうか。あれを描くのに何ヶ月かかったことか。
 その山子さんが、2007年暮のマッドハウス忘年会で、こちらを見てニコニコされています。
「わたくし年明けちょっとあとから、片渕さんのお仕事、させていただくことになりました」

 山子さんにはどこをお願いしたらよいものか。上原さんと考えて、貴伊子の家の庭に咲く花々を独自の世界で描き出していただくのが良いのではないかと、なりました。
 山子さんは一枚の絵を何ヶ月単位という時間で描かれるので、その一枚はひじょうに貴重です。
 これがその一枚です。
 庭に咲くミヤコワスレ、エビネラン、カタバミ。



 貴伊子の庭のウツギの木の根元に咲いているのはミヤコワスレでは?
 と、気がついた観客の方がいらっしゃいました。
 ええ、そのとおりです。
 花の選択にまで意味を込めたのかって? ええ、文字通りの意味です。
 誰か気づいてくれたらいいなあ、と、ずっと思ってました。

 山子さんに差し入れていただいたパイ、美味しかったです。

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アフレコ第2日目(前編)

2009年11月29日 19時12分15秒 | mai-mai-making
 2008年11月1日(土)。
 昨日と同じ富ヶ谷のスタジオで、アフレコ第2日。
 マッドハウスのスタッフが、松尾プロデューサー運転の車で乗り付けようとしたとき、
「あれ? 今、中嶋君が歩いてましたね」
 などと、いいます。
 みんな早く来て、コンビニへ買い物に出たりしてるわけです。

 エレベーターで4階に上がり、調整室に荷物を投げ出すと、ゴム草履に履き替えます。監督は昭和30年代の子どもだったので、いまだに靴が苦手なのです。
 待合室に行くと、今日はどっさりと人が揃っています。今日明日の予定作業量は膨大な感じがして大変です。
 といいつつ、実は昨日は収録作業終了後、マッドハウスに戻って画作りの作業も行っています。今朝はなんだか調子が悪い。寒気がします。
「風邪引いてしまったかも。ビタミンCが欲しい」
といったら、みんながドリンク剤やビタミン入り柚子茶のペットボトルや何かを持ってきてくれて、監督席のデスクが満杯になってしまいました。ありがとう。

 アフレコ第2日目の作業予定。
①昨日の続き、貴伊子の家(新子、貴伊子)
②その続き、今度は新子の家を訪れる。(新子、貴伊子、光子、小太郎)
③割り込んで、スケジュールの都合で諸星すみれちゃん関係。タミちゃん、千古の双子の妹。
④元に戻って、ハンモックのシーンから、道へ出てクルクル回るところまで。(新子、貴伊子、小太郎)
⑤割り込んで、保健室を訪れた新子、貴伊子から、小太郎の囲碁その1。
●昼食、休憩
⑥元に戻って、麦畑を走り回る新子と貴伊子。
⑦新子と貴伊子、考古学者に会う。
⑧勝間神社(新子、貴伊子)
⑨Bパートの終わり。スヤスヤ眠る新子、光子。寝付けない貴伊子。
⑩割り込んで、スケジュールの都合で竹本英史さん関係。(新子の父の登場、ラジオのアナウンサー)
●休憩
⑪また元に戻って、Cパート冒頭から、ダム作り、金魚出現まで。(子どもたち一同)
⑫金魚に命名。(子どもたち一同)
⑬映画館から、駄菓子屋。(子どもたち一同、一平参加)
⑭池の周りで子どもたちが遊ぶ。(新子、貴伊子、一平)

 これではBパート冒頭から、Cパートの半分までです。この全部を開始10時、終了18時45分予定という時間の中で消化しなければなりません。
 大変だ、などとも行っていられませんので、チーフプロデューサーことエイベックスの高谷さんからもらった「一番高いユンケル」をグイ飲みしつつ、粛々と収録開始。

①貴伊子の魔法に捉えられて、声が小さくなってしまった新子。時々大きな声を出そうとするのだけど、抗いきれない。ここは貴伊子のテンションの低さがすごくよく出た。
 新子と貴伊子がふたりきりになって息が詰まる場面。こういうときには何か環境音があったほうが、シーンと静まり返った感じを出せます。そこで、表で犬の名前を呼ぶ別の子どもたちの台詞を足すことにしてあったのですが、急遽、新子にこれを受ける台詞をいわせることにしました。
「ああ、クマっちゅうんじゃ」
 麻由子くんがこの台詞を微妙なニュアンスで表現して、黙り込んでるのも居心地悪いので、ついついしゃべってしまった感じがよく出ました。


②新子が自分の家に貴伊子を招くところ。まだ、気恥ずかしさが残って大声出してのコミュニケーションがしづらいのだけれど、一応新子のテリトリーではあるので、新子の声は大きくなってゆく。さて、この場面の後半で、いよいよウイスキーボンボンの登場となります。小中学生の彼らの酔っ払った芝居はどうなるのか、乞うご期待。

 ベテラン野田圭一さんの待ち時間が少し長くなってしまってるのですが、こちらは忙しくてお相手を全然できずに申し訳ありませんでした。その分、喜多村さんがロビーでお相手してくれていたようで、感謝。

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関係者列伝 その3 コトリンゴさんちのコトリちゃん

2009年11月28日 09時35分26秒 | mai-mai-making
 関係者列伝、その3。
 コトリンゴさんちのコトリちゃん。


 エンディング曲が欠けていた『マイマイ新子と千年の魔法』に歌をつけよう、と、作詞作曲兼歌唱のコトリンゴさんとはじめてお目にかかったのは、2009年7月24日。
 その4日後には、一回目のデモが、早くもほぼ完成形に近い形にたどりついて届き、歌の終わり方なんかについてちょっとした注文を出して、2回目のデモは会議室で一緒に聞きながらお話しましょう、ということになりました。大筋は一発目でほぼ完成してるのだし、もし、この後何か注文することがあったとしても、それはすごく微細でデリケートな部分でしかないはずだから、そこは直接言葉を交し合った方が早いだろうなあ、と思ったからです。
 7月30日がその打合せ。コトリンゴさんは少し遅れて到着しました。家を出るぎりぎりまでかかって、デモの録音をしていたので、という話でした。
 じゃあ、待ちに待ったそのデモを聞いてみましょうか。
 その中身は完成版とほぼ同じですから、多くは申しません。どんなものなのかは映画をご覧になって聞いてください。
 ただ、ちょっと違っているところがありました。

「効果音まで入れてもらってるんですね」
「え?」
「小鳥の声が入ってる」
「あ。それ、うちの小鳥です」

 自宅の、小鳥の鳥かごのある部屋にピアノもあって、録音してたのだ、と。
 三吉里絵子さんがデビューするに当たって「コトリンゴ」という名になったのは、「どんな名前でデビューする?」と聞かれたとき、目の前にマッキントッシュのコンピューターと、飼っている小鳥がいたからだ、というのは有名な話ですが、まさか、その小鳥ちゃんの声をここで聞けようとは。
 声だけじゃないよ、この小鳥、暴れてる。
 興奮してガチャンガチャン、鳥かごを揺すぶってる。

 こんな慌しいスケジュールで曲を、しかも映画にとって幸せなことに実に的確な曲を作っていただけたおかげで、エンディング曲『こどものせかい』は9月16日発売のコトリンゴさんのサード・アルバム『trick & tweet』に、ボーナストラックとして追加していただくことができました。
 そうしたおかげで、今われわれは情趣ゆたかなこの歌をCDで聴くことが出来ます。

 ただ、ひとつ、ときどき個人的に物足らなくなってしまうのは、小鳥の声と、暴れる音が入っていないことだったりします。

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アフレコ第1日目

2009年11月27日 23時36分42秒 | mai-mai-making
 アフレコ本番の初日は、2008年10月31日。この日は金曜日。
 なぜこういうスケジュール取りになっているかというと、翌日からは、土、日、文化の日と三連休になっているわけです。今回はメインどころが学校へ通っている年齢の役者ばかりなので、なるべく学校が休みの日に仕事できるようにと、配慮しなればなりません。

 収録のやり方としては、できるだけ映画トップからの順録り。ただ、いろいろな都合で、一度に全員を集合させるのは無理なので、こんなふうにブロック分けすることにしてみました。

●本線(昭和30年)パート
●平安パート
●山口オーディション組
●長子と初江(本上さんのスケジュールの都合で)
●子どもたちのガヤ

 本編は絵コンテ制作時にA、B、C、D、Eパートの5ブロックに分けて考えられるようにしてありました。Eパートは尺が短いので、実際には4.5ブロックというところでしょうか。この本線分を、金、土、日、月の4日間で録っていきます。
 ということは、初日には本線のAパート(cut#1~233)を丸々消化しなければなりません。内容的には、冒頭から貴伊子の家にたどり着いたところまで、です。起承転結でいえば「起」の部分。
          
 とはいえ、金曜日は学校がお休みではない日なので、14時開始です。一応21時までスタジオは押さえてあるとはいえ、初日からキツいかな? と思いつつ、テレビアニメ一本を半日でアフレコするのを考えればそうでもないかも、とも。まだどういう感じに展開するのかまったくの未知の道のりです。すべてはこの日の出来次第。
 今日収録するのは、「新子」「小太郎」「貴伊子」「光子」「シゲル」「絵のうまい吉岡さん」「立川一平」「江島さん」「吉村さん」という面々。初日に聞いておきたい、作品のベースとして確立してしまっておきたい部分がここにはあります。
 
 富ヶ谷の録音スタジオは、まず縦に奥行きのあるステージ(収録室)があります。一番前方にスクリーン。その手前にマイク3本。後方に椅子が並べてあって、出番待ちの役者がそこに座ります。
 普通のスタジオなら、そのさらにうしろにガラス張りの調整室があるのですが、ここのレイアウトは少し変わっていて、右手壁面がガラス張りになっていて、その向こうがコントロールルーム(調整室)になっています。演じている役者と演出家が横並びに並んでいて、お互いに横顔を見合う関係です。コントロールルームにはやはり前方に映写スクリーンがあります。
 この写真は、監督の席から見てガラスの向こう。演技陣のための空間。待機中の人の顔も全部、ちゃんと見えます。アイコンタクトだってできちゃう。

                  

 アニメーションの仕事は、専門の音響監督を立てるのがほとんどなのですが、今回は監督自ら音響演出も自分で手がけます。「声の質感表現を画面の質感と同じレベルで成立させたい」そういう思いがあります。

 このスタジオに14時入りしたのは、福田麻由子、水沢奈子、野田圭一、松元環季、中嶋和也、喜多村静枝。水沢奈子くんは、例によって名古屋から荷物を引っ張ってきていています。
 スタジオ外のロビーに少しずつ人が集まるのを待ち、マネージャーの方や、環季ちゃんや中嶋君にはそれぞれのおかあさんが付き添って来てますから、挨拶し、じゃあそろそろお時間です、ということになると、ステージへ通じるドアへ向かいます。音響制作の今西君が、重いドアを開けてくれます。おお、艦長になったみたい。
 ドアの向こうには、一同が腰掛けて待っている。
 ここで、監督としてみんなの前に立って何か挨拶したのですが、なんだかよく覚えてません。たぶん、自然な子どもらしさでお願いします、とかそんなことだったはず。

①冒頭から虹を見上げるまでの新子と小太郎のやり取り。福田くんの新子が心躍らせている。弾んだ声がいい感じ。すでに出来上がっている。一方、小太郎のためには、もっと演技にゆとりを持たせられる画の尺にしておくべきだったと反省しました。

②新子が麦畑に飛び込み、空想し、麦畑から走り出てくるまで。福田麻由子くんの独り舞台です。彼女の芝居如何でこの映画の演技のベースが作られてゆくことになるのですが、26日の顔合わせのときにはじっと頑ななまでに台本に見入っていた少女の口から飛び出してきたのは、今日は、陽気でゆとりを感じさせる新子そのもの声でした。声の表情や質感にも幅もある。

③ワンワン泣く光子。これもいきなり、美少女・松元環季が遠慮なく全開で泣いてくれたので、楽勝。


④少し飛ばして、朝ご飯の小太郎、新子、光子。新子は学校へ駈けてゆく。

 ここまで録って、休憩。

⑤休憩後は、声優初挑戦という水沢奈子くんが初めて挑む演技、貴伊子の登場シーン。といっても、貴伊子の父(別日収録)への返事の「うん」。それから、息のようなリアクションがいくつか。ひとりで台詞をまくし立てる新子と対極的に、最小限の意思表現しかしない貴伊子の声は、声というよりウィスパー(息)の域で出てきてほしい。奈子くんの演技は程よく沈んでかすれた質感になっていて、無事クリア。

⑥教室のシーン。ここでは、まず、子どもの役をひとりだけ大人が演じる喜多村さんの「吉岡さん」。子ども役に大人の声優を使うか全部子役でいくか、まだ決めきってなかった時期のオーディションで、喜多村さんに演じてもらった吉岡さんの落ち着いた感じがよかったもので、この配役になっています。ご本人は「あのオーディションの吉岡さんは何も考えずに喋っただけなんですが」というのですが、やはり、そうした自然体がこの作品にはいいようです。

 
 さらに、この場面ではシゲルが登場し、貴伊子の声が大きくなります。シゲルの中嶋君は、ちょっと方言でひっかかりつつも成功。よくよく考えると、自分たちスタッフにとっても、貴伊子の声をはっきり聞くのはこの時が最初です。奈子くんは地声よりも少し高めに出しています。「新子は少し低めに来るから、貴伊子はその反対であって欲しい」と、オーディションのときに注文したのを、たぶん繰り返し反芻して、ソプラノ・パートにセットした声の役作りをしてきてあります。色々な音程がいい感じで交錯して鳴るオーケストラのコンダクターになった気分。


 これは、調整室側のスクリーン。
 プロの声優でない人たちは、口パクのタイミング合わせが大変かな? と、あえて、ちゃんと完成している画面(いわゆるタイミング撮りではない)に、台詞のボールド表示を入れてきたのですが、不要でした。みんな、口パクの合わせもほぼぴったりです。シゲルのcut#165が、はじめ少しずれたけど、これは口のよく見えないロングだし、しかたないところでした。

⑦大人の男性二人が到着したので、江島さんと吉村さん。

⑧いよいよ、新子と貴伊子のやり取りが始まる。二人並んでマイクの前に立った。
 貴伊子のテンションの低さが、新子に影響してゆく。新子も気恥ずかしくなってしまい、メゾフォルテを維持できなくなってピアニッシモに下がってゆく。ふたりの少女の魔法合戦で、最初に魔法をかけるのは貴伊子のほうなのです。新子はまさしく魔法にかけられ、今までの演技とは違う質感の世界に入ってゆきます。この段差の表現も十分。

 というところまで。
 この日の収録は楽々終えて、しかも、「いい感じ」「いい感じ」の連続で、「してやったり」、の気分。明日はずっと長丁場、8時間労働の予定。明日はみんなでお弁当食べることにもなりそうです。
 腹減った。

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