さて、福田麻由子くんや水沢奈子くんたちに、新子や貴伊子の声の芝居をお願いしているのは、中学生の彼女たちだから普段のまま喋れば「子どもらしく」なるだろう、などと思っているからなどでは、もちろんありません。
声質に大人の声優とは違うものを求めているのは確かですが、そういうことでいえば、麻由子くんの張りのある声は声優的といってもよいですし、奈子くんは高めに声質を作ってきています。ましてや、松元環季ちゃんはもはやプロの声優といってもよいふだんの仕事ぶりです。地声のナチュラルさが目的ではないのです。
求めているのは、なんというか、芝居の可動域の大きさです。

体がしなやかに柔らかい人が自由なポーズを作れるように、型にはまらない自由度の高い演技を、柔軟な彼女たちになら期待できると思って、このアフレコに望んでいます。
芝居の自由度が大きければ、より自然に感じられる方向に演技を持っていくことが出来るだろうと、そう踏んでいるわけです。そういう意味合いで麻由子くんには「自然な感じで」と注文しているのであり、彼女もそれを解って、居のままにではなく、演技力で「自然な感じ」を作り出そうとしてきています。
演技の自由度ということでいえば、貴伊子が登場以来、そして、新子も引き込まれてそうなってしまう、細い息のようなピアニッシモの芝居がその典型です。あれは、普通のアニメーションのアフレコではまずあり得ません。ともすれば、ノイズとまぎれてしまいかねない発声を求めることになるのですから。そいう意味では、録音の小原吉夫さんには苦労してもらっています。
しかし、これまで続けてきた貴伊子のピアニッシモ演技は、これから行うウイスキーボンボンの場面を通り抜けることで、また別の次元に移行してゆくはずです。
「本物のウイスキーボンボン、まだあったけ?」
と、たずねたのは、制作の丸山真太郎がフランス土産に買ってきた、洋酒瓶型のウイスキーボンボンのことです。作画の参考するために使って、あとは適当にメインスタッフで分けてしまったのですが、まだ少し残りがあるはずです。

真太郎「いや、まだちょっとはありますけど、あれ、出すんですか?」
監督「本物食べながらやらせたら、どうなるだろうと思ってさ。かーっと、熱くなるとことかさ」
真太郎「いやあ、相手は未成年ですよ。まずくないですか?」
監督「まずいかなあ。さすがに」
とはいえ、原作では不思議な発音で書かれている、ふひ(口)にひょほれーほ(チョコレート)をふくんだままの芝居をしてもらおうために、「ふつうの」チョコレートを買ってきてもらうことにしました。
これからの芝居は、テイクごとにチョコレートを食べながら、ということになります。
「リテイク出して、テイク数増えてったらどうなんだろ。太らせて返した、っていって、彼女らの事務所から怒られるのかな」

味噌っかすの光子が、自己主張して前に出たい感じ。
「おはへがはひってふ」という貴伊子から、急に大笑いはじめる段差感。
酔っ払ってしどろもどろの新子が、母の内緒話をひざをたたきながら話すくだり。
どれも絶妙なところでうまく成立しました。
③諸星すみれちゃん。
すみれちゃんは、光子役のオーディションで発見しました。
彼女も、光子の泣きの芝居は前回で演じてました。
物怖じしないこの感じならば、笑いもいけるだろう、と、千古の双子の妹たちの役を振りました。
物語上の流れでは、すみれちゃんを笑わせるのが、この映画の最終到達目標ということになります。
しかも、双子だから、2回演じなけらばならなかったわけですが。
これも無事クリア。

④まだ酔いが残る貴伊子に、苦いイタドリを食わせる新子。
食べさせられた貴伊子のリアクションは、台本では「う―――」となっています。
監督「そこ、貴伊子のリアクションに『酸っぱ苦い』感じ、何かもらえないでしょうか? イタドリなんか食べたことないお客さんも多いわけだし、どんな味か想像するよすがに、ひとつ」
奈子「酸っぱ苦い?」
監督「酸っぱくって、それでいて昔のホウレンソウみたいな苦い感じ」
うーん、今ここで手元にイタドリがあればなあ。
奈子「やってみます。――うーっ、にっがああぃ」
ああ、そりゃそうだよね、あの尺の中だと「すっぱ!」「にっがああぃ」って二つは入らないものね。端的に、苦い、っていっちゃうしかないよね。そのとおりでした。
はい、オッケーにします。今のでいただきました。
声質に大人の声優とは違うものを求めているのは確かですが、そういうことでいえば、麻由子くんの張りのある声は声優的といってもよいですし、奈子くんは高めに声質を作ってきています。ましてや、松元環季ちゃんはもはやプロの声優といってもよいふだんの仕事ぶりです。地声のナチュラルさが目的ではないのです。
求めているのは、なんというか、芝居の可動域の大きさです。

体がしなやかに柔らかい人が自由なポーズを作れるように、型にはまらない自由度の高い演技を、柔軟な彼女たちになら期待できると思って、このアフレコに望んでいます。
芝居の自由度が大きければ、より自然に感じられる方向に演技を持っていくことが出来るだろうと、そう踏んでいるわけです。そういう意味合いで麻由子くんには「自然な感じで」と注文しているのであり、彼女もそれを解って、居のままにではなく、演技力で「自然な感じ」を作り出そうとしてきています。
演技の自由度ということでいえば、貴伊子が登場以来、そして、新子も引き込まれてそうなってしまう、細い息のようなピアニッシモの芝居がその典型です。あれは、普通のアニメーションのアフレコではまずあり得ません。ともすれば、ノイズとまぎれてしまいかねない発声を求めることになるのですから。そいう意味では、録音の小原吉夫さんには苦労してもらっています。
しかし、これまで続けてきた貴伊子のピアニッシモ演技は、これから行うウイスキーボンボンの場面を通り抜けることで、また別の次元に移行してゆくはずです。
「本物のウイスキーボンボン、まだあったけ?」
と、たずねたのは、制作の丸山真太郎がフランス土産に買ってきた、洋酒瓶型のウイスキーボンボンのことです。作画の参考するために使って、あとは適当にメインスタッフで分けてしまったのですが、まだ少し残りがあるはずです。

真太郎「いや、まだちょっとはありますけど、あれ、出すんですか?」
監督「本物食べながらやらせたら、どうなるだろうと思ってさ。かーっと、熱くなるとことかさ」
真太郎「いやあ、相手は未成年ですよ。まずくないですか?」
監督「まずいかなあ。さすがに」
とはいえ、原作では不思議な発音で書かれている、ふひ(口)にひょほれーほ(チョコレート)をふくんだままの芝居をしてもらおうために、「ふつうの」チョコレートを買ってきてもらうことにしました。
これからの芝居は、テイクごとにチョコレートを食べながら、ということになります。
「リテイク出して、テイク数増えてったらどうなんだろ。太らせて返した、っていって、彼女らの事務所から怒られるのかな」

味噌っかすの光子が、自己主張して前に出たい感じ。
「おはへがはひってふ」という貴伊子から、急に大笑いはじめる段差感。
酔っ払ってしどろもどろの新子が、母の内緒話をひざをたたきながら話すくだり。
どれも絶妙なところでうまく成立しました。
③諸星すみれちゃん。
すみれちゃんは、光子役のオーディションで発見しました。
彼女も、光子の泣きの芝居は前回で演じてました。
物怖じしないこの感じならば、笑いもいけるだろう、と、千古の双子の妹たちの役を振りました。
物語上の流れでは、すみれちゃんを笑わせるのが、この映画の最終到達目標ということになります。
しかも、双子だから、2回演じなけらばならなかったわけですが。
これも無事クリア。

④まだ酔いが残る貴伊子に、苦いイタドリを食わせる新子。
食べさせられた貴伊子のリアクションは、台本では「う―――」となっています。
監督「そこ、貴伊子のリアクションに『酸っぱ苦い』感じ、何かもらえないでしょうか? イタドリなんか食べたことないお客さんも多いわけだし、どんな味か想像するよすがに、ひとつ」
奈子「酸っぱ苦い?」
監督「酸っぱくって、それでいて昔のホウレンソウみたいな苦い感じ」
うーん、今ここで手元にイタドリがあればなあ。
奈子「やってみます。――うーっ、にっがああぃ」
ああ、そりゃそうだよね、あの尺の中だと「すっぱ!」「にっがああぃ」って二つは入らないものね。端的に、苦い、っていっちゃうしかないよね。そのとおりでした。
はい、オッケーにします。今のでいただきました。
