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第5話(1)

僕にとっての終戦(1)

 韓国の特務機関の工作員の男が、兵士を2人連れ、船に乗り込んできた。
工作員は、やたら命令口調のイヤな野郎だ。

 夕方、プサンを出港する。
黒雲が立ち込め、今にも雨が降りそうだ。
2時間ほど行った、マサン付近が前線だ。
遠雷のような砲声が聞こえ、陸地が砲撃の爆発で明るくなっている。

 朝鮮海峡に出て、前線を越える。
小雨が降ってきた。侵入にはもってこいの天気だ。

 チンジュ付近の海岸に接近した。
ゴムボートに工作員と兵士1人、兵藤ら4人の乗務員が乗り込む。
オールで静かにこぐ。
陸地は真っ暗闇だ。

 岩場にたどり着き、崖を這い登る。
すぐに道路に出た。
真っ暗闇の中、ライトを1つだけつけた北朝鮮軍のトラックが通り過ぎる。
工作員が乗務員2人に命令する。
「通過スル車両ノ台数ト、徒歩部隊ノ兵士ノ数ヲ記録シロ!」
兵士には、「2人ヲ見張ッテイロ!」

 工作員に急き立てられ、道路を越えて進む。
しばらく行くと、町外れに出た。
戦闘があったらしく、砲弾の爆裂孔がそこここにある。
建物は焼け落ち、瓦礫の山だ。

 半ば崩れかけたレンガ建2階屋に行き当たった。
「アノ建物ニ民間人ガイルハズダ。オ前ラ様子ヲ見テコイ!」
工作員が拳銃で急かす。
兵藤と相棒の加藤が、辺りを伺いながら建物に近づく。

 半ばまで来たとき、銃火が閃く。
“タン、タタン”
加藤がゆっくりと崩れ落ちた。
兵藤は瓦礫の中に飛び込む。
銃弾が頭上の空気を切り裂く。

 銃撃が息をついたとき、レンガを反対側に放り投げた。
脱兎のごとく、飛び出す。
“タンタン”
銃弾が背後から襲い掛かる。

 兵藤が、やっとの思いでゴムボートにたどり着いたとき、工作員らは沖に漕ぎ出す寸前だった。

          
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