「北朝鮮の警備部隊も増強されているでしょうし、そろそろ危なくないですか?」
「もう一度やってみよう、それで打ち止めだ。」
小雨のぱらつく中を、出港する。
途中、エンジンの調子が悪くなった。
「くそ、不純物の混ざった重油だったんだ。」
何とか調整したが、全速では走れない。
どうにか海峡を越え、半島の多島海域に入った。
やたらとハングル語の会話が受信機につながったレシーバーから流れてくる。
「地名や部隊名が記号化されているので、さっぱりわからない。」
「霧で見通しが利かない。戻って、どこかの島の入り江に隠れよう。」
ゆっくり旋回して戻りかけたとき、霧の中から“スッ”と船首が現れた。
「ヌグ!」
どうすべきか迷った瞬間、
“ダッダッダッ”
相手の船から、機関銃の火線が飛び出してきた。
「エンジン停止! 抵抗するな!」
韓国の警備艇だった。
将校と兵が乗り込んできた。
「貴様ラ、密輸業者ダナ!」
「いえ、韓国の友人に頼まれ、密出国の手伝いをしに来たんです。」
「日本人ニ、友人イナイ!貴様ラ、敵ヲ助ケタ反逆罪デ、全員銃殺ダ!」
兵藤らは、船もろ共、プサンに連行され、厳しい取調べを受けた。
取調室の窓から、かすかにズンズンという砲撃音が聞こえる。
2、3日して、留置場内のコンクリートの部屋で、船長が皆を集めた。
「実は、韓国側から取引の話が出た。」
「北朝鮮軍に占領されている地域に工作員を送り込み、逃げ遅れた政府関係者を連れ帰る仕事だ。」
「成功したら、俺たちの罪は問わない、ということだ。」
皆、下を向く。
「政府軍の本来の救出作戦の捨て駒にさせられるんじゃないかね。」
「ここにいても保釈される可能性はない。国では遭難、行方不明として扱われるだろう。」
承諾するしかない。
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