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イ キ カ タ ノ チ ガ ウ イ ノ チ ノ ツ ナ ガ リ

2012-02-27 | Weblog




私は女性として自分を見つめる事が残念ながら少ないのですが、
茨木のり子さんの文章を読む時だけは、いつも女性として姿勢を正す時間を貰います。
その中の好きな二つの文章をご紹介。



「汲む」

大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃

立居振舞の美しい発音の正確な
素敵な女の人と会いました

その人は私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの 
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね
堕ちてゆくのを隠そうとしても
隠せなくなった人を何人も見ました

私はどきんとし そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子どもの悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな

あらゆる仕事、すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと...

わたくしもかつてのあの人と
同じぐらいの年になりました

たちかえり今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです



「自分の感受性くらい」

 
ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい
自分で守れ ばかものよ





茨木のりこさんは享年79歳。

本人の意向で葬儀等は一切しなかったそうですが、
亡くなった数日後、茨木のり子さん本人から
自分が亡くなった旨を伝える手紙が知人達へ届き、皆驚いたそうです。

郵送は親族に頼んでいたのでしょうが、本当に粋な人。
「私、この間この世を離れたんだよ~」なんて手紙が友人から来たら、
「本当にかなわないな」と尊敬の意を込め笑ってしまうかもしれません。

“凛と老いる”という事を感じさせてくれる格好良い女性です。