感泣亭

愛の詩人 小山正孝を紹介すると共に、感泣亭に集う方々についての情報を提供するブログです。

詩 外套のえりを立てて

2010年07月21日 | 

暑さの盛りですが、こういう詩も涼しくてよいでしょう。

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外套のえりを立てて

 

外套のえりを立てて私たちは歩いたことがあつた

ショーウインドの中からは金の指環や春の花が

私たち二人の姿をうつすらと映した向ふ側からこちらを見てゐた

私たちはウインドのガラスの上で目と日を交したものだつた


立ちどまつてゐるうしろを通る道行く人々をおそれながら

ひくい声で 私たちは真珠の首かざりを指さして

お前の首にかざられた時の一つ一つの重みについて話しあひ

貧しい二人はあきらめのはかないほほゑみを交したものだつた


冬の空に急に雷鳴がやつて来るなんて

大つぷの雨が 乱れた雲の合ひ間から降りはじめ

あわただしい戦争の中で私がお前を失ふなんて


お前は誰か見知らない男を愛するやうになり

愛したことを私に知らせないままに別れを告げてよこし あの時

道行く人々が二人の間にわり込んだやうに別れ別れになるなんて


詩集「逃げ水」より