日本・フランス・アメリカ 3つの国をくらべてみたら

アメリカでの生活を中心に、6年半暮らしたフランスや母国日本との違いに触れながら、気の向くままに書いていきます。

フランスの医療 ー その2

2016-04-30 16:17:09 | 生活
さて、フランスでは医者にかかるのが難しい(時間が掛かる)という事を、フランスの医療 ー その1
お話ししたが、これには複雑な医師不足の事情があるらしい。まず、フランスの医者の25%は
外国で医師免許を取得した人だということ。外国で免許を取得しようが、医師本人が外国人だろうが、
その技術が問題なのだろうが、EU加盟国でEU圏内の外国人医師が自由に出入りできることや、
植民地時代にフランスの支配下に置かれた北アフリカの国々からの移住者やら、その背景には
複雑な問題が絡んでいるらしい。平らに言ってしまえば、これらの国々でフランスよりも生活
環境の優れない国の医師たちが、より良い環境を求めてフランスにやって来る。医師や弁護士は
フランスでもステータスの高い職業だから、これらの職業をそう簡単に外国人に占領されたくない
という複雑な感情が入り混じっているのではないかと、私は推測している。
現に、私が語学学校に行っていたときに若いロシア人医師の同級生が居たのだが、彼女も
とても苦労している。と言うより、最近は諦めてしまっている。ロシアはEU加盟国ではないので、
フランスで医師として働くには試験を受けなければならないのだが、この試験というのが曲者。
日本の医師国家試験の仕組みを知らないのだが、フランスのこの試験では、合格人数が最初から
決まっているのだ。しかも、何千人という受験者がいるにも関わらず、合格人数は数十人という
難関。先程言ったように、医師が足りているなら、目的は分からないが医師の人数を制限する
ために合格人数を制限するのもわかる。しかし、フランスでは何ヶ月も予約待ちをしなければ
ならないほど、医師不足と言われているのだ。ならば、試験は人数制限ではなく、レベル制限を
するべきなのではないだろうか?つまり、合格ラインを決めて、そのラインを超えた人は全員
医師として働く事が出来ても良いのではないだろうか?
私の同級生はこの狭き門にも挑戦したのだが、秀才の集まる外国人医師集団の中で数十人という
枠に入る事は難しく、他の手段に訴えることにした。これは、フランスの大学でもう一度医師
としての勉強をやり直すというもの。フランスの大学の医学部では外国人枠のある所もあるらしい。
彼女が外国人枠だったかどうかは分からないのだが、これも1年の勉強の後、2年生に進学できるのは
ごく限られた一部の学生だけという、先程のフランスで医師として働くための試験と同じ事だった
そう。結局彼女は留年しても意味がないと判断して大学を辞めてしまった。
こうなると、フランスは外国人医師が増えるのを嫌がっているとしか思えない。もっとはっきり
言ってしまえば、フランス人のやりたくないような低収入で肉体的に大変な仕事をしてくれる分には
移民も歓迎だが、ステータスも高くフランスの中でも高水準の生活をさせるために移民を受け入れる
つもりは無いのではないだろうか?まあ、フランス人に聞いても医師になるのはとても難しいという
事なので、単にフランスで医師になるのは難しいという事なのかもしれないが、実際の医療の
需要と供給のバランスを考えると、医師の数が足りているとは思えず、真相は闇の中だ。

また、フランスでは実際の医療の現場での効率にも問題があると思われる。「その1」で書いたように
診療所には受付も無ければ看護師も居ないので、医師は自分で患者を診察室に招き入れ、パソコンで
患者のカルテを探し、体重、身長まで医師自らが測定し、処方箋などを書いた後は自ら診療費を
受取り患者を送り出す。受付の人が居れば、カルテを準備したり、治療費を受け取ったりできる
だろうし、看護婦が居れば、診察の中でもかなり沢山の作業を分担できるのではないかと思うのだが、
フランスではこういった考えはないらしい。
もっとも非効率的だと思うのは歯医者。日本では一つの医院に複数の診察台があって、時間の掛かる
治療は並行に行って、治療以外の細々した事は歯科助手の人達が行っているが、フランスでは先程の
一般医療と同じ方式。診察台は一つしかなく麻酔が効くまでの待ち時間や、歯型をとるための待ち時間は
医者も一緒に待っているだけ。歯医者の場合には次回の予約を入れる事も多いが、これも医師がパソコンを
見ながら行っている事が多い。何ヶ月も治療を待っている人が沢山いるのに、改善策がちっとも
立てられていないということが信じられない。
中でも、予約の取りにくいのが眼科で6ヶ月待ちが当たり前なのだが、私の知人は一度眼科に
行った後は、現状特に問題がなくても6が月後になる次の予約を入れておくそう。こうする事で
実際に問題が起きたときにはゼロから予約を取って6ヶ月丸々待たされる事を防いでいるそう。

また、フランスも当然病院には「緊急」窓口があるのだが、これがまたヒドイ。急に体調が悪く
なって、救急にお世話になる事は誰にもある事だが、救急車を呼ぶほどでもなければ自分で病院に
行く事も多いのではないだろうか。こんな時、フランスでは7、8時間待たされる事も珍しくない。
我が家では一度、下の娘が「風疹」かもしれないとホームドクターに診断され、学校を休ませた
事がある。検査の結果が出る頃には症状は治まってしまうだろうという事で、正式な検査は受けな
かったのだが、1週間の自宅待機が終わって、発疹や熱などの症状も治まった頃、また急な発熱が
あった。こうなると検査もしてくれないようなホームドクターに舞い戻るよりも、一度病院に
連れて行こうという事になり、初の急患にお世話になった。病院について受付を済ませ、小児科の
待合室に行くと、まだ電気も点いておらず、どうやら一番乗りのもよう。これなら早く診て
もらえると思ったが、一度看護師にどんな症状かと聞かれた後は待てど暮らせど呼ばれない。
途中、トランポリンで足を痛めたという子供が泣き叫びながら運び込まれた時はすぐに診察室に
通されたようだが、他は誰も呼ばれないままに3時間が過ぎた。いくらなんでも忘れられている
のではないかと、看護師さんに声をかけてみようと思い始めた頃、3時間半経ってようやく
ウチの娘の番がやってきた。後にこの話をフランス人の友人達に話したところ、「それは
早かったね。ウチは8時間待たされたよ」、「ウチは6時間しか待たされなかった」と、皆んな
具合の悪い家族と一緒に何時間も待たされた経験があった。
また、日本から遊びに来た友人が鎖骨を骨折して急患に行った事もあった。この友人はダンナの
ハンググライダー仲間でランディングに失敗して鎖骨を骨折。その時はすぐに救急車で病院に
運ばれ診察を受けたのだが、ハンググライダーのエリア自体が家から離れた場所だったので
担ぎ込まれた病院も家から遠かった。「もしかしたらできるだけ早く手術をする必要があるかも」
と救急担当の医師に言われ、明日にでも地元の病院に行くようにと勧められた。こんな時は、
直接病院に行っても良いのかとフランス人の友人に電話で聞いてみたが、皆んな口を揃えて、
「ホームドクターに行くか、病院の急患に行くか」と言う。下の娘を急患に連れて行った経験から
先ず、ホームドクターに連れて行こうと思ったがのだが、よりによって村にある2つの診療所は
2つとも揃ってバカンスのために1週間以上休診だった。じゃあ、病院の急患に行くしか無いと
いう事になったが、こっちは一度救急車で病院に運び込まれ、骨折しているという証拠の
レントゲン写真も持っている。もしかしたら予約が取れるかもと一縷の望みに賭けてダンナに
電話してもらったが、散々事情を説明しても「急患にどうぞ」という事だった。それでも、今
骨が折れている状態で治療を必要としていると電話で説明してあるのだからと、急患の窓口で
「先程電話した〇〇ですが、骨折していて診て欲しいのですが」とレントゲン写真を見せながら
説明しても、「お待ちください」といつも通りの対応だった。
結局、骨折して治療を受けなければいけないということを考慮してくれたのか、単に形成外科の
患者が少なかったのか、2時間ほどして診察を受ける事ができた。フランスでは”とても迅速に”
対応してもらえたと言えるのかもしれない。

数え上げたら次から次へと不満も出てくるが、外国人としてフランスで生活しているので、
「そんなに日本の医療の方が優れているなら、日本にかえればいいじゃないか」と言われて
しまったらぐうの音も出ない。また、日本でも「医者を遠ざける事が健康に繋がる」という
考え方もある位だから、小さな事をいちいち気にかけて医者に行く必要も無いのかもしれない。
実際、長寿国として世界的に有名な日本とフランスの寿命も2歳くらいしか違わず、フランスの
医療のあり方に問題があるとは思えないが、何らかの変調を訴えて医者に行くのに何ヶ月も
待たされるというのは、いざという時の事を考えるとちょっと不安なのも確かだ。


↓さすがフランシュ・コンテ。今日行った園芸&ペット用品店には牛の哺乳瓶や鼻輪も売られていた





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4 コメント

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service (ポピパパ)
2016-05-01 09:24:34
サービスとは、神に奉仕する、あるいは奴隷が主人に仕えることからきたもの。
だから、公務員も医師も、国民や患者はサービスの対象ではないのではないか。

日本では、絶対神は存在しないが、海もに山にも、動物や草木にも神が宿ると考える。心の底に、農業も漁業も林業も、神様に感謝し捧げるという考えがある。
そこに、「サービス」の違いがあるのではないか。
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Re:service (kanaemon)
2016-05-01 22:14:20
神様がいるかどうかはわかりませんが、フランスと日本のサービスに対する考え方には大きな違いがあると思います。前に住んでいたろころで、ボランティアとして村の図書館で仕事をさせてもらっていたのですが、バカンスの間に図書館を開館するかどうか、という話になった時の事。司書や他のボランティアの人たちもなかなか都合がつかないという話になり、「図書館はサービスでやっているのだから、無理して開く必要はない」という意見が出て驚いていると、他の人たちも「そうだ、そうだ」と口々に同意し、結局バカンスの間は図書館を休みにしてしまいました。この図書館で給料をもらって働いているのは司書1人で、あとの人はボランティアという事もあったけれど、公共のサービスも個人のバカンスに合わせて休みにしてしまうという事に日本との違いを感じました
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蟻が10匹 (birdup)
2016-05-14 11:37:05
どうもです。
その節は大変お世話になりました。
現地の救急車でかいわりには狭かったなぁ。
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Re:蟻が10匹 (kanaemon)
2016-05-16 05:15:19
怪我が治った今となっては笑い話ですが、あの時は本当にどうしようかと思いましたね。一度はフランスで手術をしようとまで決断したあの日の事が思い出されます
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