近くで売っていない欲しいものがありアマゾンをパラパラしていたところ、綺麗な表紙の画集を見つけました。版画は好きなので、川瀬巴水という名前自体は聞いたことがありますが、それほど関心のある作家ではありませんでした。夜の田園風景の手前に大きく描かれた松の向こうに月がでており、少し離れた藁葺き農家に小さな明かりが見えます。版画のイメージから外れたように見える画面構成に惹かれて、目的物と一緒にポチッとしてしまいました。ちなみに欲しいものとは小バエ取りシートで、作品集の方がずっと高かったのですが。
さて、届いたので、早速頁を繰っていくうちに引き込まれました。殆どが風景画なのですが、まずは綺麗であること。表紙にもあったように、夕暮れから夜に至る僅かの時間、日が沈んだ後完全に空が暗くなる前、黄昏時の情景が特に秀逸。雪や雨の風景も綺麗です。チラチラと降る粉雪、風景がかすむような暴風雪、僅かな小雨や驟雨、しっとりとした雨、辺りが暗くなるような横殴りの雨まで、その描き分けも見事です。雨と言えば広重の 「大はしあたけの夕立」が有名ですが、これに匹敵するんじゃないかな。
作品集の解説を読んで知ったのですが、川瀬巴水は、その広重などの江戸期の木版画が明治になって衰退の一途を辿っていた時代があり、大正から昭和に掛けてその復興を担う代表者だったそうです。広重などに比べると、確かに西洋画の遠近法などの影響は見られますが、木版画の風合いはよく感じられ、日本画のような感触があります。江戸期に比べて色数(版数)も多く、平均で30色ぐらいを費やしています。作品集には、その摺りの課程を1色ずつ載せた頁もあり、これほどの手間を掛けて摺られていることに感動します。
最後の頁まで見終わって、実物を是非見てみたいと思いました。関西に展覧会が来てくれないかなぁ。