大物代議士・板倉の乗った車が事故に遭い、警察病院に運ばれたが手術中に亡くなった。
担当医の白石良子(岡まゆみ)から連絡を受けたドック(神田正輝)は、
板倉が麻薬中毒者だと聞かされ衝撃を受けながらも、麻薬ルート解明のため、
しばらくは極秘にするよう良子に頼む。
この年の1月に、学生時代以来の再会を果たしたドックと白石先生。
仕事に対する不安や悩みでそれぞれに揺れていましたが、
12月のこのエピソードでは、お互い成長し、充実感や自信が内面からにじみ出て頼もしさを感じます。
そんな若くてキラキラした主役のふたりと対極にいる中年の看護師・守口光江(斉藤美和)が、
もうひとりの主役だったように思います。
光江と同年代(たぶん)の現在はもちろん、放送当時中学生だったにも関わらず、
私は光江に共感してしまいました。正確には共感ではないかもしれないけど、彼女の言っていることが大人になったら身につまされそうな気がしていたのです。
30年、看護師として、おそらく一人で息子を育てながら頑張ってきた。
実直で仕事ぶりも真面目。白石先生からも人柄をふくめ信頼されているようす。
そんな彼女が、板倉の秘書・木村(剣持伴紀)からマンションの譲渡と引き換えに
麻酔薬の細工と白石医師の医療ミスだという嘘の証言を頼まれ引き受けてしまう。
本来なら、そんなことに応じる人ではなかったはず。
でも、ふと自分に残された職業人生を思った時、息子にまとまったものを遺してやる最後のチャンスだと感じて受けてしまった。
若い時ならそれは“欲”かもしれないけれど、私には光江の“疲れ”に見えました。
口封じのため車に撥ねられ、意識が戻ったときに記憶喪失を装った光江。
しかし、仮病と察しながらも記憶喪失のままならこれ以上命を狙われることはないからと、
「もう何も聞かない」と見舞ったドックと、事件後に自分を「良い人」と評してくれた白石医師に、光江の気持ちは揺れる。
匿名でかかってきた電話に、光江が真実を明かしてくれる気になったのでは…と
マンションを訪ねるドック。
「迷いました。ずっと迷ってました……今でも迷ってます」
たとえ息子を息子と呼べなくなっても(マンションを)手放さないと決意していたのに、
証拠不十分で釈放された白石先生がドックと楽しそうに笑い合う姿を見て、
一生嘘をつき続けなければいけない自分がたまらなく惨めになったと泣き崩れる光江。
光江が見かけた光景がこちら。
ボスからおこづかいをもらったので食事に行こうとキャッキャするふたりw
光江の心を動かしたのは、傷ついた不幸な顔ではなく、若いふたりの信じきった明るい顔だった…。
事件以来ドックの質問に後ろめたさからほとんど目を逸らして答えていた光江が、
流れる涙を拭うこともせず、まっすぐ目を見て告白したこの場面が強く印象に残っています。
寄り添いながら語りかけるドックの声がやわらかく、一世一代の告白をしてやっと解き放たれ
生来の正直さをとりもどせた光江を癒しているようです。ドックセラピー。
自分の思いもよらないところで、誰かに影響を与えることがある。
若さ、明るさ、熱意…ドックと良子が無意識だからこそ、光江の心に響かせたもの。
年を重ねるうちにいつのまにか失うものもあるけれど、正直に生きていれば誇りは失わずに済む。
ズルしたり、ちょっとしたごまかしをしたり、そうして少しずづ溜まってしまう澱のようなものを洗い流すために、信じるべき指針のようなものを、あの頃も今も、私は『太陽にほえろ!』から得ています。