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『犯罪』 フェルディナント・フォン・シーラッハ(著), 酒寄進一(翻訳)

2017年12月01日 19時55分00秒 | ■読書
ドイツの作家「フェルディナント・フォン・シーラッハ」の短篇集『犯罪(原題:Verbrechen)』を読みました。


ドイツの作家の作品は… 「エーリヒ・マリア・レマルク」の長篇戦争小説『西部戦線異状なし』や、幼い頃に読んだり、聞かせてもらった「グリム兄弟」の童話『ヘンゼルとグレーテル』『赤ずきん』『ブレーメンの音楽隊』『白雪姫』くらいしか手に取った記憶がないですね。

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【本屋大賞翻訳小説部門第1位】
グリム兄弟
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。
兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。
エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗 ──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。
弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。
2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作!
解説=「松山巖」
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2009年(平成21年)に刊行された短篇集で、以下の11篇が収録されています… 1作品が20ページ前後なので、とても読みやすかったですね、、、

東西ミステリーベスト100で海外篇の52位として紹介されていた作品です。

 ■序
 ■フェーナー氏(原題:Fahner)
 ■タナタ氏の茶碗(原題:Tanatas Teeschale)
 ■チェロ(原題:Das Cello)
 ■ハリネズミ(原題:Der Igel)
 ■幸運(原題:Gluck)
 ■サマータイム(原題:Summertime)
 ■正当防衛(原題:Notwehr)
 ■緑(原題:Grun)
 ■棘(原題:Der Dorn)
 ■愛情(原題:Liebe)
 ■エチオピアの男(原題:Der Athiopier)
 ■解説 松山巖


「フェルディナント・フォン・シーラッハ」は現役の弁護士… 刑事事件を専門にする高名な弁護士らしく実際に経験した事件を元に、小説を書いたようですね、、、

ということで、本書に収録されている物語の語り手はすべて「私」という弁護士で、彼が関わった刑事事件を扱っているという設定になっています… 以下は11篇のサマリーです。


『フェーナー氏』は、地域社会で高名な医師として信頼されていた「フリートヘルム・フェナー」と、若かりし頃に性的な魅力に惹かれて結婚し、長年連れ添った妻「イングリット」との愛憎絡み合った凄惨な事件の顛末を描いた物語、、、

「フェナー氏」の人生には「イングリット」との件を除けば特筆すべきことはなかった… 彼女は悪妻だったけど、「フェナー氏」は耐え続け、彼女との誓いを守り通したんですよねぇ、そして、あることをきっかけに犯行に至ります。

罪には間違いないですが… 「フェナー氏」を批難する気持ちにはなれないですね、、、

不思議な魅力のある人物… そして、独特な余韻が残る作品でした、


『タナタ氏の茶碗』は、「サミール」「マノリス」「オズジャン」の3人により、家宝の茶碗や現金等を盗まれた日本人富豪「タナタ氏」が裏社会の手荒な手段で報復する物語、、、

「サミール」たちの犯行を知り、茶碗を奪った街のならず者で極悪非道な男「ポコル」は、拷問を受けて惨殺される… 軽い気持ちで空き巣に入った「サミール」たちは、「ポコル」の死に怯え、弁護士を通じて茶碗を「タナタ氏」に返却し事無きを得るが、盗みを手引きした掃除婦は2年後にバカンス先のトルコ・アンタルヤの海水浴場で水死します。

うーーーん、日本人って怖いよ… って作品でしたね。


『チェロ』は、母親を早くに亡くし、建設会社を経営する富豪の父親「タックラー」からは愛情を注がれずに育った「テレーザ」「レオンハルト」の姉弟は父を嫌い「テレーザ」の音楽大学への進学を契機に実家を出るが、不運続きの果てに迎える悲劇を描いた哀しい物語、、、

「テレーザ」はチェロの才能に恵まれ、二人は演奏旅行をしながら生活を営むが、シチリア島でベスパに乗っていて事故を起こし、「レオンハルト」は障害を負ってしまう… 「テレーザ」は懸命に看病を続けるが、「レオンハルト」は身体中に壊疽を起こし四肢を切断せざるを得なったうえに記憶を失い、さらに新たに覚えたことも3~4分後には忘れてしまう症状に陥り、「レオンハルト」は次第に「テレーザ」に性的欲望を抱くようになる。

そんな状況の中で「テレーザ」は弟を殺害し、自らも命を絶つことを決意する… 悲しみで彩られた作品でした。


『ハリネズミ』は、窃盗、強盗、詐欺、脅迫、偽証等の犯罪者一家「アブ・ファタリス家」の9人兄弟の末弟で唯一人真面目で利口な息子「カリム」が、強盗事件で検挙された兄「ワリド」を救おうと裁判で策略を巡らせる痛快な物語、、、

「カリム」は、兄たち同様に馬鹿扱いされていたが、実は類稀な知性を備えていた… そんなことはおくびにも出さず、彼は兄たちとは距離を保ち、密かにFXや株投資で資産を築いており、「ワリド」の裁判においても、愚か者を装いながらも、自らの資産を使って強奪された金を返し、兄弟が非常に似通っていることを逆手にとり、他の兄「イマド」が真犯人だと証言し、検挙された「ワリド」を釈放させた。

警察は「カリム」が犯人として名指しした「イマド」を検挙しようとするが、「イマド」には完全なアリバイがあり、「カリム」は兄を救うことに成功、、、

犯罪は赦されるべきではないですが、末弟「カリム」の成功に拍手喝采してしまいました… 気持ちヨイ幕引きの作品でした。


『幸運』は、戦争で故郷を追われベルリンに流れ着き娼婦となった女性「イリーナ」の客が突然死してしまい、同棲していた青年「カレ」に殺害、死体遺棄の容疑がかかるというトラブルに巻き込まれる物語、、、

客の死体を目の前にした「イリーナ」は途方に暮れて外出… 外出先から戻った「カレ」は死体を発見し、「イリーナ」が客を殺してしまったと思い込み、死体を解体して公園に埋めてしまう。

「カレ」は殺害者として逮捕され、「イリーナ」を守ろうとして証言を拒否… しかし、「イリーナ」が事情を説明することにより「愛のための死体損壊」として情状酌量を認められ、囚われるのではなく、イリーナとともに国外退去処分となる、、、

死体を解体するシーンでは、おぞましい描写がありましたが… 愛し合う二人が幸運をものにしたラブストーリーして読める作品でした。


『サマータイム』は、お金を稼ぐことを目的に実業家「ボーハイム」と性的関係を持っていた「シュテファニー」がホテルの一室で惨殺されて発見された事件の真相を追う物語、、、

カジノに嵌り借金を抱えた「アッバス」は、返済が滞り命の危険に晒されていた… 恋人「シュテファニー」は、彼のために恋人募集欄に広告を出し、「ボーハイム」と出会い、お金での割り切った関係で密会を続けていた。

その「ボーハイム」との何回目かの密会後、「シュテファニー」は殺害され、容疑は「ボーハイム」に向けられる… ホテル駐車場の監視カメラに残った映像が証拠となると思われたが、カメラの時間が冬時間に設定されており、記録された時間は、実際の時間よりも1時間遅い時間だったことから、「ボーハイム」の容疑は晴れ、逆に「アッバス」が容疑者として浮上する、、、

その後、「ボーハイム」が離婚したことは納得かな… イチバン、ミステリーっぽさが強い作品で愉しめましたね。


『正当防衛』は、駅のホームでネオナチの「レンツベルガー」「ベック」に絡まれたサラリーマン風の男が、金属バットとナイフで脅された後に反撃し、逆に二人を殺害してしまった物語の顛末を描いた物語、、、

男の行動が正当防衛にあたるかどうかが焦点になるのですが、男は何も喋らず、指紋は登録されておらず、身分証明書も不所持、そして、奇妙なことに靴下や下着に至るまで衣服にメーカー表示がない… 刑事は、男の身元を証明するものが皆無であることと、近辺で発生した明らかなプロの仕業による殺人事件との関連性が疑われることから過剰防衛を主張する。

しかし、男の正体は掴めず、結局は正当防衛が認められる、、、

ネオナチの二人の運命は仕方ないとは思いますが… 不気味さの残る作品でした。


『緑』は、羊の眼球をくり抜く異常な犯罪を執拗に続ける「ノルトエック伯爵家」の息子「フィリップ」が心に抱える病を描いた物語、、、

16歳の少女「ザビーネ」が行方不明となり、彼女が行方不明となる前に一緒に行動していた「フィリップ」に容疑が向けられる… 警察が屋敷を調べたところ「ザビーネ」の写真が見つかり、その写真の眼の部分には穴が開いていた。

「フィリップ」は身柄を拘束されるが、明らかな証拠や遺体は見つからない… 近所の人々から、明らかに犯人扱いされ、「ノルトエック伯爵」にも批判が集中する、、、

「フィリップ」が真犯人だと思い込んでしまう心理状態、精神を病んだ人への偏見や疑惑の眼… 身近でもありそうなことだと思いながら読んだ作品でした。


『棘』は、ちょっとした手違いで配置転換もないままにずっと同じ場所を警備することになった市立古代博物館の警備員「フェルトマイヤー」が徐々に精神を病んで行く姿を描いた物語、、、

同じ場所で警備をしているうちに彫像「棘を抜く少年」に狂おしいほどの興味を持ち続けた「フェルトマイヤー」は、来る日も来る日も、彫像のことを考え続けるうちに精神に変調をきたし、靴に画鋲を入れるいたずらをすることによって、不安感を解消するようになる… やがて、数十年が経ち、定年間近になった「フェルトマイヤー」は、彫像を破壊してしまう。

博物館側は、器物損壊で「フェルトマイヤー」を告訴する予定だったが、人事異動が行われていない事実(手違い)を踏まえ、起訴しないことを決定する… 同じ場所で、長期間単調なことを繰り返すと、自分だって、こうなってしまうのかもなぁ、と感じましたね。


『愛情』は、女性への愛が異常な欲望を生み出し遂に凶事を招いた青年「パトリック」の哀しい心の闇を描いた物語、、、

「パトリック」は、恋人「ニコル」を愛していたが、愛するあまり彼女の背中をナイフで切ってしまう… 「パトリック」は事故と証言するが、実は「愛しすぎているが故に、傷つけてしまう」という衝動に取り憑かれていた。

弁護士はカウンセリングを受けることを勧めたが、「パトリック」は拒否… 弁護士を解任してしまう、、、

そして、数年後、「パトリック」は付き合っていたウェイトレスを殺害してしまう… 「佐川一政」が具体例として出てきましたね。

こういう気持ち、心理状態は理解できないなぁ… 倒錯した異常な愛情表現ですね。


『エチオピアの男』は、ドイツでの不幸な境遇から偶然エチオピアの寒村で幸せを掴んだ男「ミハルカ」の波瀾万丈な人生を描いた物語、、、

「ミハルカ」は、親にも捨てられ、周囲からも阻害されて育ち、酒に溺れるような生活の中で銀行強盗を犯し、エチオピアへと逃亡… そこで、貧しい村に住む人々が、コーヒー農園で収益を上げられるようにし、子供たちに教育を施し、医療を受けられるようにしたことで、村に溶け込み、慕われる存在となり、そして、結婚、子供も授かり、幸せを掴んだかに思われたが、彼の存在を訝しんだ外部の人間により、密入国者と明かされてしまい、銀行強盗を起こしていたことが露呈してドイツへ強制送還される。

彼は数年の刑期を受けることになり、その間も、妻や子供のことをずっと考え、過ごしていた… 仮出所中、彼はすぐにエチオピアの家族のもとに向かいたかったが、渡航費がなく、仕方なく、彼は再び銀行強盗を起こしてしまう、、、

しかし、彼には、逃亡する気力・体力が残っておらず、銀行の前の公園で呆然としているところを逮捕される… だが、彼のエチオピアでの行動が判明したことにより、情状酌量による刑期の短縮が行われ、数年後、「ミハルカ」は同情した周囲の支えにより、エチオピアに永住することができた。

罪って、その人がどう生きてきたかで違ってくるんだろうなぁ… と感じました、、、

人間の善意を改めて信じ直させてくれる物語で、イチバン印象に残る作品でした。


一篇、一篇に味わいがあり、一つひとつの事件には、それぞれ異なる込み入った事情があるんだなぁ… と感じさせる一冊でしたね、、、

他の作品も読んでみたくなりました。



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