*** june typhoon tokyo ***

HALLCA @渋谷 7thFLOOR

 悲喜こもごもの表情で彩った、メモリアルな4thアニヴァーサリー。

 終盤のMCで「ソロ4年やってきたけど、コロナで活動が止まってしまって上手くいかなかった……」と語り始めるやいなや、図らずも感極まり、涙が零れる瞬間もあった。6月に行なわれたEspeciaの10周年記念ライヴで燃え尽きてしまった自分もいたという胸の内も明かした。それでも眼前にファンがいてくれることへの感謝を伝えながら、「ワクワクするような存在でこれからも……います!」と宣言し、歌を届けていきたいと誓う姿は、やはり“決意の人”だと思わされた。

 “やはり”いうのは、2016年1月17日にEspeciaのツアー〈“Estrella” TOUR 2015 -VIVA FINAL-〉の新木場STUDIO COAST公演にてメンバー3人が卒業を発表し、さまざまな感情がフロアに蠢くなかで、当時グループのリーダーだったHALLCAが目の前を直視しながら「解散するまでEspeciaにいる」「一人になってもEspeciaでいる」と発した時に感じたものが、フラッシュバックしてしまったから。当時とソロとなってからでは、さまざまな部分で違いもあるが、厳しい環境に置かれることを認識しながらも、歌いたいという心の欲望に抗えないという葛藤に悩まされる心境は同じだろう。当時は冨永悠香として、現在はHALLCAとして、やはり歌い続けることを選び、前へ進むことを決めた……その姿はまごうことなき“決意の人”そのものだ。ソロとしての4年を祝うアニヴァーサリーイヴェント〈TIPSY BAR -Summer&4years-〉は、4年間の成長とシンガーとしての覚悟を示したステージとなった。


 本来〈TIPSY BAR〉はファンクラブ限定イヴェントなのだが、ソロ4周年というメモリアルな時期ということもあり、ファンクラブ以外の一般も観賞可能ということで、個人的には初の〈TIPSY BAR〉観賞に。渋谷のO-WESTビルの7階にあるライヴハウス&バー「7th FLOOR」を舞台に、バンド・セットの際にはバンドマスターを務めるほか、映像ほかヴィジュアル面でも関与している盟友ギタリストのクマガイユウヤとのミニマルな構成。ファンとの距離も近しいアットホームなムードもありながら、抜群のコンビネーションと楽曲の伸張性を感じさせるパフォーマンスで、ファンを魅了していた。

 ソロ活動当初は楽曲が4曲しかなくて苦労したという話にも触れ、心が折れそうになったことも吐露。だが、今の足元を見れば、2枚のフル・アルバムをはじめ、多くの楽曲を生み出し、歌うことの喜びも感じているとのこと。紆余曲折あったものの、ファンの前で歌える悦びに没頭すべく、ステージでは笑顔がほころぶ瞬間に溢れていた。それだからか、肩肘張らないリラックスした面持ちがヴォーカルにも効果を生み、余白を持った伸びやかな歌唱を披露していた。気心が知れているクマガイユウヤのサポートも、HALLCAへ精神的影響を与えているのだろう。緊張感がないという訳ではないが、それ以上に純粋に演者が音楽を愉しんでいるという所作に溢れていて、フロアのオーディエンスも感化されているようなムードが生まれていたような気がした。「パーム&ラジオ」でクマガイユウヤが上手くタイミングが掴めずに曲に入れずにやり直しをするなどのご愛敬もあったが、それらもひっくるめてピースフルな空気に満ちたフロアだった。


 トピックスとなるのは、6月に発表した「Eternal Light(Blackstone Village Remix)」やデュオ・スタイルでの2曲に、アンコールで披露した新曲の「Inner Heaven」あたりだろうか。「Eternal Light(Blackstone Village Remix)」はトラックとヴォーカルのバランスに不安定なところも散見され、まだ完全に咀嚼し切れていない感じもするが、抑揚や譜割りの激しさもある難度の高い楽曲ゆえ、これから実践で歌い込みを重ねて行けば、それらも解消されるはずだ。

 デュオ・スタイルのうち1曲は松田聖子の「蒼いフォトグラフ」のカヴァーを。これはHALLCAの父が弾き語りカヴァーチャレンジの曲としてリクエストしたとのこと。その際は上手く弾き語りが出来ずにいたが、相棒のクマガイユウヤに音を任せられるとのことで披露を決めたらしい。同曲は「瞳はダイアモンド」との両A面となった15枚目のシングルで、松本隆と呉田軽穂(松任谷由実)コンビが制作。個人的には石黒賢・二谷友里恵主演のドラマ『青が散る』の主題歌の印象が深く、8枚目のシングル「赤いスイートピー」のカップリングとなった「制服」(これも松本隆&呉田軽穂コンビ)とともに松田聖子のフェイヴァリットとして挙がることが多いイメージだ。オリジナルははにかみと切なさの狭間を行き来するセンチメンタルな作風だが、ここでは明澄なHALLCAのヴォーカルを活かした瑞々しいものに。オリジナルと同じように歌わなければならないということもないから、これはこれでHALLCAらしい清爽なカヴァーといえるか。

 「Inner Heaven」は、HALLCAがPellyColoへ簡素にメロディを提示したところ、意外性の高い楽曲となって返ってきたという新境地の楽曲。クマガイユウヤはこれを聴き「組曲みたい」と曲展開ならびにアレンジの凄さに感嘆しており、実際にHALLCAが歌唱している横で聴いている時には快哉を叫ぶかのように笑い、思わず“体育座り”で耳を澄ませていた珍行動も。仄かにドナルド・フェイゲン「I.G.Y.」あたりのシンセ・コードを想起させるフュージョン・アプローチにオルタナティヴなエレクトロを融合させたといえばいいのか、マイナーな浮遊感とアシッドなエレメントが揺れ動くようなトラックだ。HALLCAは「何度も聴かないとたぶんわからない」「“スルメ曲”っていうんかな」とこの曲を評していたが、確かにサビに当たるフックなどキャッチーなフレーズはない。小難しさが先に立つ作風ではあるので、いかにヴォーカルとのバランスがとれるかが、“スルメ曲”へと成長するカギとなるのかもしれない。


 そんなチャレンジングなこともありながら、このパフォーマンスを質の高いものにしていたのは、クマガイユウヤのギターが大いに寄与していたことは間違いない。「Dreamer」でのロッキンなギターに始まり、「WANNA DANCE!」での軽快なカッティング、「コンプレックス・シティー」でのヘヴィなディストーション、デュオ・スタイルでのテンダーな爪弾きなど、さまざまなギター・アレンジで楽曲に新たな解釈を与えるのみならず、HALLCAに楽しませながら歌わせるという効果ももたらしていた。HALLCAが全幅の信頼を置く存在だからこそ、前述したように、HALLCAの伸びやかな歌唱への相乗効果も生み出しているのだろう。

 もう4年、まだ4年……と捉え方はさまざま。ただ、大切なのは、今何を伝えたいかということ。そして、自身が愉しめる心境で届けられるかということだろう。迷いや苦悩、葛藤はなくなるものではないが、信念を持って歩みを進めれば、きっと良い境遇への途が開かれるはずだ。2ndアルバムに『PARADISE GATE』と冠して歩み始めた扉の先は果たして何が描かれるのか。それは現時点では分からないし、シンガーとして分岐点となる1年となるかもしれない。ただ、原点といえる歌う悦びを忘れずに、他に惑わされずに邁進してもらいたい……そんな想いを胸に秘めながら、4年を祝う笑みや声に包まれたフロアを一足早く後にしたのだった。



◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION~Diamond Yohji Igarashi remix
01 Diamond
02 Dreamer
03 WANNA DANCE!
04 Show the Night
05 guilty pleasure
06 Eternal Light(Blackstone Village Remix)
07 パーム&ラジオ(Original by waiai feat. HALLCA)
08 コンプレックス・シティー
09 Promise of Summer(duo style version)(Original by Tsudio Studio feat. HALLCA)
10 蒼いフォトグラフ(duo style version)(Original by Seiko Matsuda)
11 Precious Flight
12 Paradise Gate
13 Milky Way
≪ENCORE≫
14 Inner Heaven(New Song)
15 Twisted Rainbow


<MEMBER>
HALLCA(vo,key)
Yuya Kumagai / クマガイユウヤ(g)

◇◇◇

【HALLCAに関する記事】
2018/08/04 HALLCA『Aperitif e.p』
2018/11/26 HALLCA@中目黒 楽屋
2019/08/30 HALLCA @Jicoo THE FLOATING BAR
2019/11/02 HALLCA @CHELSEA HOTEL
2020/01/19 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2020/01/25 〈FRESH!!〉 @六本木 VARIT.
2020/11/01 HALLCA @六本木Varit.
2020/12/13 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2021/05/31 〈HOME~Thank You “Daikanyama LOOP” Last Day~〉@ 代官山LOOP
2021/07/25 HALLCA @GARRET udagawa
2021/09/19 HALLCA @代々木LODGE
2021/11/24 HALLCA @TOWER RECORDS渋谷【In-store Live】
2022/01/11 HALLCA『PARADISE GATE』
2022/01/26 〈生存戦略〉@高円寺HIGH 【HALLCA / 仮谷せいら / hy4_4yh】
2022/02/23 HALLCA @GARRET udagawa
2022/07/27 HALLCA @渋谷 7thFLOOR(本記事)



ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事