*** june typhoon tokyo ***

HALLCA@中目黒 楽屋


 期待と不安の葛藤が駆け巡った“HALLCA”のステージ初観賞。
 
 2017年3月のグループ解散から約1年4ヵ月を経てカムバックした元Especiaのリーダー、冨永悠香が“HALLCA”という新たな命を得て再び動き出してから3ヵ月。既に復活のステージには立っていたものの、個人的にタイミングが合わず駆け付けることが出来ないままでいたが、ようやくライヴを体感する瞬間を迎えることとなった。中目黒にあるダイニングバー&ライヴスペース「楽屋」(らくや)でのイヴェント〈SPIRIT ROOM〉には、HALLCA以外に“めぐたろう feat.吉本章紘,ナミヒラアユコ”、堀江美帆、KEIの全4組が出演。HALLCAは堀江に続いての二番手で19時40分からの約30分。左にグランドピアノ、中央にHALLCAとキーボード、右にサポートの永嶋玲とキーボードという出演者二人に鍵盤が三つ並ぶという(HALLCA本人いわく)「贅沢な構成」でのステージ。まだHALLCAを知らない観客が多く見られるややアウェイな雰囲気がするものの、イントロダクションに合わせて観客にクラップを促すと、思ったよりも温かさを感じる空気が漂うなか、彼女の初EP『Aperitif』(同作のCDレビューはこちら→「HALLCA『Aperitif e.p』」)のなかの唯一のRillsoul制作曲「guilty pleasure」へと音を進めた。

 『Aperitif e.p』ではフェードアウトで終えるこの「guilty pleasure」だが、ここでもフェードアウトしながら次の曲を重ねていくような“繋ぎ”の演出から「Dreamer」へと移行。それまではやや鍵盤の音が小さく聴こえづらく“鍵盤弾き語り”という独自のスタイルを活かしきれていなかったのだが、「Dreamer」の間奏やブリッジ部分においてホーン風の音色で単独鍵盤演奏に入るとその心配も杞憂に。
 サポートの永嶋はコーラスも担当。HALLCAより前面に出ないことを意識してか声圧を高める重唱とまでには至らなかったが、常時組んでいる訳でもなく、即興に近いコンビだろうから、そこはご愛敬といったところ。致し方ない部分もある。

 MCを挟みつつ、永嶋が左手のグランドピアノへ移ると、彼の清らかなピアノ伴奏に合わせて、HALLCA流“乙姫と彦星”の物語をしっとりと綴った「Milky Way」へ。“dear my sweet love 何度も願うよ”のフックでのたおやかな表情が印象的だ。続いては、これも永嶋のピアノの演奏で「Moisture Milk」(モイスチャー・ミルク)へ。まだ“仮歌”程度の段階とのことだが、この日披露したのはシンシアリー(誠実さ)の伝わるバラード「Milky Way」よりも少しだけミディアム・ポップに寄せたアレンジ。まだ彩りが施されていないというラフな、骨格に近いアレンジゆえ、それをそのまま判断することは出来ないが、一つ言うならば、こういったミドル・テンポのしっとりとしたメロディを歌う時には比較的安心しているのか、表情も和らいでいると感じるのは気のせいだろうか。

 ラストは復帰の突破口を開いた思い入れが強いだろう「Diamond」でエンディング。永嶋が右手のキーボードへと戻り、当初のスタイルでの演奏に。「guilty pleasure」「Dreamer」同様のHALLCAの鍵盤弾き語りだが、こちらは最初に作り上げた曲ということで、練習数も一番多かったのだろう。前者以上に手慣れた姿も醸し出していた。

 中盤以降はステージにも慣れてきたのか、時折フェイクなども繰り出すなどHALLCAらしい感情を声色に乗せるアクションも垣間見えたが、まだ不安や弱気が過ぎるような佇まいが見受けられるのが残念といえば残念。グループ時代には皆無だった鍵盤弾き語りというスタイルを確立しきれていない不安はあるだろう。ただ、個人的には伴奏を間違わないようにと慎重になり過ぎるがゆえ、極端に言ってしまえば定規をなぞるように線を引く“正確性”が意識過多な歌唱よりも、多少崩れてもいいから自らの感情を鍵盤とともに打ち響かせる“心情”重視の歌唱であったら、彼女らしい晴れやかで彩色鮮やか、表情豊かな歌唱が活きたのではないかと感じた。特に前半の2曲「guilty pleasure」「Dreamer」は胸の内を去来する“冷静と情熱のあいだ”に揺れ動く内なる炎を露見させたかのような感情のグルーヴが肝になる楽曲だが、それがライヴではその熱がパフォーマンスしきれていないのかと感じるのは、場数が少ないということももちろんあるが、どこか周囲を窺うような気配りを張り過ぎているきらいが見て取れたからか。これらはあくまでも自分の身勝手な推測でしか過ぎないが、以前の伸びやかなパフォーマンスを知るからこそ(少女から大人になった成長から変化してくものとはまた別の部分で)自らに無意識に制御する何かに囚われているのかもしれないと感じてしまったのが正直なところだ。
 歌唱への余力と安心を考えれば、伴奏サポートやオケでの歌唱は“ぎこちなさ”という部分を改善してくれる特効薬かもしれない。だが、鍵盤弾き語りスタイルという新しい“らしさ”を貫くことはそれ以上の新たな発見や引き出しを生み出してくれる。HALLCAにはそれに挑んでもらいたい。



 これらは楽曲についてもそうで、新曲はまだラフなヴァージョンゆえ最終的にどのように装飾されるかは分からないが、アクのないピアノの伴奏によるミディアムなメロディラインを聴く限りは、彼女が元来持つ華やかで時に目まぐるしく表情が変貌するカラフルな歌唱とその描出力が影に潜んでしまうような、どこか単色の可憐で清楚な花束ほどで終わってしまいそうな気配が脳裏をかすめてしまった。いや、シンプルにピュアネスに歌うことが間違いだというのではない。しかしながら、持ち得ているクセやトゲを全てマイナスにしてしまうのは、非常にもったいないと思うことも事実。そのクセやトゲ、言うならば“えぐみ”の部分も上手に配分して残しながら、彼女らしいユニークなアクセントと味覚を新たに創り上げていくことで“食前酒(アペリティフ)”からオードブル、メインディッシュへと脈する飛躍に連なるのではないか。だが、そう思うのは、聴き手の身勝手な言い分なのだろう。

 EP『Aperitif』のレヴューにおいて、「ジャケットのアートワークを借りて言えば、ブレは“迷い”を、肌を露出させた画像は“飾らない裸の心”(=紛れもない真実の自分)とが混在した今の心情を表わしているのではないか」と記した一方で、「「Milky Way」は(中略)その他の3曲が築いたアダルトなアンビアンスをやや崩すような歌唱で、個人的にはやや首を傾げるところも。とはいえ、それも含めて彼女の自我を放出したという意味ではかけがえない経験であり、まだ“原石”と歌う彼女であれば、近い未来にソロ・アーティストとしての自我を確立していく上での通過儀礼とも言える」とも記した。何が正解かが分かりづらい世界で、何をすべきなのか。その答えへの楽な道筋や模範解答の“当て”はない。
 ただ言えるのは、まだチャレンジは始まったばかりだということ。失敗を恐れず、怯えることを忘れて、もっと自身のエゴと嗜好を発露させてもいいのではないかと。その才知はこれまでの経験も含めて十分に帯びているはずだ。音楽を吸収する力や多角的な音楽的嗜好を有する彼女の良い意味での雑食性を、楽曲制作や表現方法にも活かすことが出来たなら、よりソロ・アーティスト“HALLCA”としての奥行きや懐も増すはずなのだから。

 ともあれ、僅か30分のミニ・ライヴともいうべきステージで不毛にも思える駄文を書き殴るのは、一言に凝縮してみれば、ひとえに彼女の人間味の溢れる表現力を活かせる作品を生み出すか、それに巡り合って欲しいという願いでしかない。さらに、一見一聴だけでは分からない音楽性のギャップ(遊び心)があればなおさらだ。
 この日は、考えてみれば、まだ復帰後半年も経たない初期段階のステージ。自分が少し気持ちを、期待を重く強くかけ過ぎて観ていたようだ。12月にも彼女のライヴを観賞する機会もありそうだから、次はもう少しフラットな気持ちで観てみたいと思う。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 guilty pleasure
02 Dreamer
03 Milky Way(acoustic piano ver.)
04 Moisture Milk(rough mix / acoustic piano ver.)(New Song)
05 Diamond

<MEMBER>
HALLCA(vo,key)

永嶋玲(key)




◇◇◇


HALLCA『Aperitif』(2018/7/25)

01 Diamond
02 Dreamer
03 guilty pleasure
04 Milky Way

◇◇◇
















にほんブログ村 音楽ブログへブログランキング・にほんブログ村へ

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事