
訴求性の高さを実感した実力派姉妹とHALLCAが生み出したジョイフルなステージ。
初ワンマンとなった昨年11月の渋谷・CHELSEA HOTEL公演(記事はこちら→「HALLCA @CHELSEA HOTEL」)での好アクトも記憶に新しいなか、HALLCAの2020年初ステージは、WAY WAVEの定期公演〈うぇいうぇい部 第25回部員集会〉でのゲスト・パフォーマンスとなった。日曜11時開演というライヴにしてはやや早い時間、やや眠気の残る目をこすりながら、渋谷にあるRUIDO K2に馳せ参じた。
公演を主催するWAY WAVEは“SOUL&FUNK”を掲げてライヴハウスで研鑽を積んできた、杏奈と優奈の小池姉妹によるデュオ。姉の杏奈が22歳、妹の優奈が成人式を迎えたばかりと初々しさが残るが、小学生ではキッズダンスチーム“ダンスナッツ”として、中学からはトリオ編成の“ANNA☆S”のメンバーとして、高校以降にストリートやライヴハウスを経て本格始動と、幼さの残る風貌とは異なり芸歴は長い。個人的には、2019年に加納エミリとの期間限定ユニット“江ノ島爆走ギャルズ”としての活動で彼女たちの存在を知ったクチで、実際にはほとんど楽曲を聴いてなかったのだが、曲がりなりにも“SOUL&FUNK”を標榜していることもあり、HALLCAのパフォーマンスともども仄かに期待を持って開演の時を待った。
WAY WAVEにとっては定期公演〈うぇいうぇい部 部員集会〉が25回を数えると同時に2周年記念ライヴとのこと。登場時からのハイテンションは2周年だからなのか、いつも通りなのかは分からなかったが、まずは“お品書き”とでも言おうか、ライヴの見どころを早口でまくし立てながらアナウンス。ゲストのHALLCAのステージではコラボレーションも披露することも伝えられた。ライヴではどんな展開でクライマックスへ向かうのかと想像するのも楽しみの一つだったりもするが、当定期公演では式次第のように順次発表していくスタイルらしい。ただ、かえってそれが公演のタイトルに冠している〈部員集会〉らしさなのか。ステージ両脇奥に“WAY WAVE”と書かれた幟、正面に“うぇいうぇい部”の(“部”の文字を大きくあしらった)ロゴが目を惹くステージを見て、そう感じたりしていた。
そうしているうちにWAY WAVEのステージが開幕。アッパーなセンチメンタル・ソウル歌謡「あいたいのあいたいのとんでいけ」、イントロにSMAP「peace!」っぽさも覚えたモータウン・マナーのブギー・ファンク「始まりの予感」から吉田美奈子と山下達郎のコンビが提供したアン・ルイス「恋のブギ・ウギ・トレイン」のカヴァーなどを聴いていると、現行のソウルやファンクというよりも、60年代~70年代のソウル・ミュージック、またそれを模した日本のソウル・ポップス歌謡をベースにしているようだ。続く「Liar」こそコンテンポラリーな2000年代以降のビート・トラックを用いているようだったが、ザ・ダヴェルズによるホットなドゥー・ワップ「ユー・キャント・シット・ダウン」のカヴァーで再びヴィンテージなスタンスに戻ったかと思えば、プリンス「キス」やジェイムス・ブラウン風のビートをモチーフにしながら“絡まってんBABY”とパンチのあるコーラスを繰り出す「みつばちパンティーライン」、土ぼこりを漂わせるサウスなブルース「振られたのにかっこよく振ったつもりでいる男のブルース」など、古き良きソウル/ブルースあたりを奏でる意図は感じるものの、楽曲性としてはややとっ散らかっている印象もあった。
その思いは次に披露されたアコースティック・コーナーでの「成人式の帰り道」や新曲「流されていこう」への展開でも顕著に。「成人式の帰り道」は妹・優奈の成人式に絡めてのある意味の記念ソングゆえ、この日ならではのスペシャルな楽曲としてシンプルなアコースティック・ポップな曲調なのも分かるが、「流されていこう」ではラップ調のヴァースからギターをかき鳴らすロッキンなフックへと向かう、今で言えばあいみょん、少し前ならYuiあたりのギター女子系の楽曲で、ソウル&ファンク感はあまり覚えず。ソウル&ファンク路線はプロデューサーやブレーンの着想だろうから、自ら手掛けたこれらの楽曲は、無意識のうちに今の時流の好奇心あるものを採り入れた結果なのかもしれない。
とはいえ、歌唱力においては、いくつもの場数を踏んできたであろう経験の賜物か、伸びやかでパンチのあるヴォーカルワークで見事に“歌える”実力派の域。それぞれが明らかに異なるというほどの声色の差が瞬時に感じられる訳ではないが、時折唸るようなフェイクも挟んだパンチある歌唱と可憐な色もチラつく高音とのギャップも魅力の杏奈と、外連味のない芯の強さと伸びやかな、特に中低音の安定感が出色の優奈というそれぞれの個性も活きた歌唱は、ヴォーカル・ユニットとして高い次元で整っているといえる。実の姉妹ならではのコンビネーションの良さも相まって、訴求力も高い。また、妹を溺愛する甘えん坊タイプの“アホ”キャラという姉・杏奈と、小松菜奈と水川あさみを足したような顔で勝気な部分も見せる妹・優奈というそれぞれのキャラクターも立っていて、非常にチャーミングなユニットとして目に映った。
アコースティック・コーナーを終えると、HALLCAセクションへと移行。鍵盤を駆使しながら「Show the Night」「Diamond」「Dreamer」と曲を進めていくが、冒頭の昨年11月の盛況を収めた初ワンマンで自信を得たのか、それとなくリラックスした雰囲気も感じられるいい表情に。もちろん緊張感がない訳ではないだろうが、鍵盤を凝視するような瞬間も感じられた以前のパフォーマンスと比べるとその佇まいは雲泥の差で、何より歌うこと、演じることへの喜びや愉しさが伝わる晴れやかな面持ちが楽曲のグルーヴと相まって、魅惑的なムードを創り上げていたことに好感。「Diamond」「Dreamer」といった初期曲は演奏回数も多いだろうが、ようやく楽曲が持つエレガントなエレクトロ・ネオソウル感とともにHALLCAらしい華やかさとフレキシビリティが備わってきたのかもしれない。
ここでWAY WAVEの二人がステージイン。HALLCAの曲をソラで歌えるように覚えてきたという気合の入れようで「コンプレックス・シティー」「burning in blue」をコラボレーション。「コンプレックス・シティー」ではHALLCAをセンターに両隣りにWAY WAVEという並びで歌ったのだが、小池姉妹のHALLCA曲への思いが強すぎてか歌唱パートも多く、HALLCA with WAY WAVEというよりもWAY WAVE with HALLCAといったスタイルに。ハモリのほか、HALLCAのライヴでは見られない振り付けも3人で披露してくれたが、何より小池姉妹のヴォーカルワークの強度が高く、HALLCAがややバックコーラス気味に思えるほど。それでも、パワフル&ストレートなWAY WAVEと華やかなグルーヴを有したHALLCAとのヴォーカルの組み合わせの妙を垣間見せ、続くノスタルジックでクールなバラード「burning in blue」では杏奈がギター、優奈がカフォン、HALLCAが鍵盤とそれぞれに楽器を奏でながら、“暗闇に潜む揺るぎを止めない熱情”が渦巻くクールな世界観を構築。ここではHALLCAも熱の籠った歌唱を見せ、物憂げな面影を映し出していく。
HALLCAがステージアウトし、小池姉妹が「アンコールの拍手が出たら次なる(3曲目の)コラボレーションも披露する」と促した後、WAY WAVEによるソウル・カヴァー・メドレーに突入。フランク・シナトラの歌唱で知られるスタンダード「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン(イン・アザー・ワーズ)」でジャジィな彩りのなかで大人びたヴォーカルを聴かせた後は、一転してスプリームス「恋はあせらず」(ユー・キャント・ハリー・ラヴ)、エモーションズ「ベスト・オブ・マイ・ラヴ」、チャカ・カーン「アイム・エヴリ・ウーマン」とディスコ路線へ。ミニ・リパートン「ラヴィン・ユー」ではさすがにホイッスルヴォイスを繰り出すことはなかったが、むしろ等身大の解釈による伸びやかなハイトーンが背伸び過ぎない相応の色香を醸し出す好解釈のカヴァーとなっていた。
一連のメドレーを見るにつけ、プロデューサーやブレーンは、古き良きソウル・ポップスの現代の伝承者としての位置づけをWAY WAVEに託しているのかもしれない。たとえば、ホーランド=ドジャー=ホーランド産のソウル・ポップス、スプリームスやマーサ&ザ・ヴァンデラスあたりの作風を踏襲するような……と思っていた矢先、本編ラスト4曲からはまた別の毛色の楽曲が登場。挑発的なリズムに乗って“最高、最高……”とラップ調に歌う「最高の彼氏」、ノスタルジーを漂わせたグルーヴィ・ポップ「Hello New Wave」、どこかPUFFYっぽさも感じるカントリー・ポップ風「焼酎Night」を経て、ジャクソン5「ABC」を明確に意識したファンキー・ソウル「Looking For Woman」で70'sソウルへ帰着。単なる古き良きソウル・ポップスの伝承に限らない間口の広さを示してはくれた。
アンコールは2曲。まずは、WAY WAVEがDJを務めていたDJありんことともにHALLCAを呼び込んで、この日3曲目のコラボレーションとなったHALLCAのナンバーから「WANNA DANCE」を。HALLCA楽曲のなかでも随一の“アゲ”曲ということもあって、フロアのヴォルテージも一段ギアを上げたモードに。3人のヴォーカルには無理な仕掛けもない合唱スタイルで、フロアの一体感を重視。コール&レスポンスも決まったジョイフルな共演となった。オーラスはリズミカルな“ズズン ランラン ズズン ラン”のスキャットと明るさが身上のズクナシによるファンキー・ソウル歌謡「おどれないけどおどりたいの」へ。途中で挟まれる掛け合い(杏奈が「今日もとってもかわいい優奈ちゃん」、優奈が「今日もアホアホな杏奈」と掛け合う)があり、どうやら彼女らのライヴでの定番曲のようだ。ハッピーなヴァイブスをフロアに放って、定期公演2周年ライヴは微笑ましい空気を纏いながら幕を閉じた。
初見だったWAY WAVEは予想以上に歌えるシスターズで、ポテンシャルの高さを実感。一方で60・70年代ソウル/ファンク歌謡をなぞらえるだけとなると、集客やファン層の拡大という意味では少々勿体なくも感じたり。その作風をベースにすることはいいのだが、何か2020年代を生きるWAY WAVEらしさを加味することで、新たな個性が生まれるのではないかという気もする。とはいえ、楽曲としてはさまざまな要素(ジャンル)のものにもトライして、音楽的振幅の拡大や多様な音楽性の吸収を追求しているとは思うが、その基軸となる“ソウル&ファンク”と新たな刺激(=WAY WAVEとしての個性)とのバランスをいかにとっていくかが、難しいところでもある。観客の盛り上がり(というより“ノリ”か)がやや足りないかと思えたのは、そこそこ落ち着いた年齢層がファンの中心だからなのか、そういった世代がリアルで体感していた楽曲群(ジャンル)にフォーカスしているから盛り上がりがいま一つになってしまうのか、具体的には答えとなるものは分からないが、もう少し若い世代や女性にも届くようなアプローチを楽曲性においても考慮してもいいのではないかとも思った(せっかく女性、子供エリアを設置するくらいなのだから)。
HALLCAはゲスト参加ということが奏功し、全体的に楽しむことに重心を置けたのが好パフォーマンスに繋がったか。歌唱ではWAY WAVEに“喰われ”てしまう場面もあったが、元来がパワフルで押してくるタイプでもないゆえ気にすることはない。いかにグルーヴを生み出し、そこで華やかさやカラフルなヴォーカルを投影させていけるかどうかを、自身の持ち味として咀嚼出来るかに注力することが肝要だ。
WAY WAVEはしっかりとアルバム作品を聴き込んだ訳ではなかったが、歌でしっかりとノラせる術は手にしていて、ほぼ楽曲未聴の自分でも(カヴァーもあったとはいえ)身体を揺らすことが出来た。これを機に作品を聴き、またライヴに足を運んでみたいと思う。
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<SET LIST>
≪WAY WAVE SECTION≫
00 INTRODUCTION
01 あいたいのあいたいのとんでいけ
02 始まりの予感
03 恋のブギ・ウギ・トレイン(Original by Ann Lewis)
04 Liar
05 You Can't Sit Down(as known for singing by The Dovells)
06 みつばちパンティーライン
07 スルメボーイ(Original by 江ノ島爆走ギャルズ)
08 振られたのにかっこよく振ったつもりでいる男のブルース
09 成人式の帰り道(Acoustic Guitar Version)
10 流されていこう(Acoustic Guitar Version)(New Song)
≪HALLCA SECTION≫
11 INTRODUCTION~Diamond(Yohji Igarashi Remix)
12 Show the Night
13 Diamond
14 Dreamer
15 コンプレックス・シティー(with WAY WAVE)
16 burning in blue(with WAY WAVE)
≪WAY WAVE SECTION≫
17 Fly Me To The Moon(In Other Words)(as known for singing by Frank Sinatra)
18 You Can't Hurry Love(Original by The Supremes)
19 Best Of My Love(Original by The Emotions)
20 I'm Every Woman(Original by Chaka Khan)
21 Lovin' you(Original by Minnie Riperton)
22 最高の彼氏
23 Hello New Wave
24 焼酎Night
25 Looking For Woman
≪ENCORE≫
26 WANNA DANCE(WAY WAVE with HALLCA, DJありんこ)
27 おどれないけどおどりたいの(Original by ズクナシ)
<MEMBER>
WAY WAVE are:
小池杏奈(vo,g)
小池優奈(vo,g,cajon)
DJありんこ(DJ)
HALLCA(vo,key)
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【HALLCAに関する記事】
2018/08/04 HALLCA『Aperitif e.p』
2018/11/26 HALLCA@中目黒 楽屋
2019/08/30 HALLCA @Jicoo THE FLOATING BAR
2019/11/02 HALLCA @CHELSEA HOTEL
2020/01/19 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2(本記事)