*** june typhoon tokyo ***

AMAZONS @Bunkamuraオーチャードホール


 コーラス・グループの概念を変えた35年の軌跡を辿る、華麗で享楽な祝宴。
 
 華やかで煌びやか、というのは、この日の夜のステージのことを言うのだろう。大滝裕子、斉藤久美、吉川智子の3名からなる女性コーラス・グループ“AMAZONS”が贈る35周年記念ライヴ〈AMAZONS 35th Anniversary Live~A History Shared With Friends~〉は、彼女たちの盟友ともいうべきスターたちを招いてのゴージャスな祝宴となった。

 AMAZONSは(この日は観客として来場していた)マリーンの1985年の〈Be Pop Live〉ツアーにて出会った3名が、“日本一の踊って歌えるバックコーラス”を目指して結成。松任谷由実、久保田利伸、玉置浩二らのステージに華を添えるバックコーラス・グループとして名を馳せると、87年のシングル「Glorious Glamourous」でアーティスト・デビュー。以来、オリジナル・アーティストとしても多くの作品を発表し、コーラス・グループとオリジナル・アーティストを並行しながら、長きにわたってシーンの第一線で活躍してきた唯一無二の存在として知られている。いまどきの時流のフレーズでいうなら“ヴォーカルの二刀流”とでもいえる存在か。

 その35周年を記念したライヴは、当初4月28日に行なわれるはずだったが、コロナ禍の影響で7月22日に延期したものの、状況が好転しないことから再延期となって、ようやく11月22日の公演実施に漕ぎつけた。個人的には久保田利伸のコーラス・グループとしてその存在を知っていたが、当時80年代後半は久保田利伸のライヴに行けず、その後もメンバーのうちの1人や2人がバックコーラスとして参加しているライヴを観賞した記憶があるが(それでも吉川が林田健司のコーラスとして参加したライヴだから、結構な年月が経っている)、3人揃っての公演を観賞するのは初めて。寧ろ、何故これまでAMAZONSのライヴを観て来なかったのかが自分でも不思議なくらいなのだが、こればかりはタイミングを逃し続けてきた結果というほかない。

 35周年公演をいっそう盛り上げるのは、多彩なゲストたちと名うてのバンドメンバー。柿崎洋一郎や江口信夫、中島オバヲは久保田のバックバンド“MOTHER EARTH”の一員に名を連ねた面々で(中島は久保田のブルーノート東京公演にも参加し、その時久保田と楽器店のバイト仲間だったことが判明)、ベーシストに招いた岡沢章は、“世界のナベサダ”こと渡辺貞夫のグループをはじめ、さだまさしや吉田美奈子のツアーでもお馴染みのレジェンド、宮崎裕介は浜崎あゆみ、スガ シカオ、TUBEをはじめJ-POPシーンの多くのアーティストのツアーやレコーディングで活躍、田中義人はMondo Grossoやスガ シカオら多くのアーティストのツアーや作品、ICEやm-floのライヴでもギターを鳴らしてきたという凄腕たちだから、この上ないサウンドを浴びることが出来た。
 さらに、マリーン、藤井フミヤ、石井竜也、高中正義、松任谷由実がヴィデオ・メッセージを披露してくれるなど、いかにAMAZONSが名だたるビッグアーティストたちを彩り、助けてきたかが分かるというもの。奇しくも石井竜也が「AMAZONSに足を向けて寝られないアーティストはいっぱいいるんじゃないか」とヴィデオで語っていたが、AMAZONSが唯一無二ということを物語るエピソードといえよう。
 ちなみに、ヴィデオ・メッセージで面白かったのは高中正義。「今回のAMAZONSの写真、可愛いネ」から始まり、「フィギュアを作って売ったらいい」「そしてAMAZONから送った方がいい」というフリからAMAZONの箱を開けるとAMAZON“S”になるような細工をしたり、「(バンドをやってるとだいたい喧嘩してやめちゃうけど)ウン十年もよくもつよね」のくだりから、「あと10年したら改名した方がいい」として「僕のアイディアは尼ゾンズ(尼さんズ?)」として尼が3人並んだイラストを掲げてみたり、今回は都合で会場に行けないが「コロナじゃないです。転んだんです」とのダジャレで突然メッセージを終えるなどを朴訥と話して、会場の爆笑を誘っていた。


 さて、ライヴ本編だが、次々とゲストがシームレスに登場するというよりは、AMAZONSとの関係性をナレーションした後にゲストを迎え入れ、それぞれに演奏とトークを展開する形で進行。おおよそ2曲のゲストとのコラボレーションの合間に、自身の楽曲とヴィデオ・メッセージを挟み込むスタイルは、ライヴというよりレヴューやジョイント・リサイタルといった風情か。

 AMAZONS誕生の経緯を伝えるナレーションの後、彼女たちのテーマソングともいえる「Amazons! Amazons! Amazons!」から本編はスタート。田中義人が爪弾くファンキーなギターリフ(ここは後ほど久保田が「あれ良かった!」とトークの際に指摘していた)とともに、ギターを弾く振りをしながらドレスアップした3人がターンしていく光景は、バブル景気で賑わう時代に誕生したAMAZONSならではの華やかさと、ファンキーでダンサブルな楽曲性とともに“Amazons!”と叫ぶ力強さが相まって、なんともゴージャス。この地に足を運んだファンたちは微塵にも思うことはないだろうが、彼女たちを初めて触れた人たちのなかに、コーラス・グループを“単なるサポート”と考えていた人たちが仮にいたとしたら、そんな概念を一瞬で蹴散らす強烈なパンチを喰らわすパフォーマンスとなった。

 この「Amazons! Amazons! Amazons!」を作曲した富樫明生ことm.c.A・Tが最初のゲストで登場。当初はm.c.A・Tではなく“とがやん”として交流していたためか(富樫本人は“とがやん”呼びが実は好きではなかったと暴露…笑)、TVでm.c.A・Tとして観た時には驚いたとのこと。m.c.A・Tは自身のヒット曲「Bomb A Head!」でハイトーンと高速ラップをかますと、AMAZONSも息の合ったハーモニーで呼応。35周年ライヴの火付け役としてはこれ以上ない飛び道具=「Bomb A Head!」で、いきなり会場のヴォルテージを高めていく。
 「多くのヒット曲があるけど、恋愛の曲とかもある?」というトークから、“とがやん”の好きなタイプへと質問が移行。m.c.A・Tが「髪が長くて、顔が丸っぽくて、名前に“久しい”とか“美しい”が入っていて……」と答えるやいなや、斉藤久美が「やだー、それじゃお客さんにバレちゃうじゃない」と甘い声を出し、大滝裕子と吉川智子が「この2人、怪しくなーい?」と怪訝な顔を見せて「Funky Boogie Sisters」へ突入するといった寸劇風のくだりも、エンタメ性の高い彼女たちならでは。歌うだけでも、踊るだけでもなく、しっかりと楽しませることにも注力したステージングで、観客の心を鷲掴みにしていった。



 エンターテインメントといえば、次に登場したBro.KORN。ナレーションに続き、「WON'T BE LONG」のイントロで威勢よく登場するも、バンドに演奏のストップを要求。「35周年だぞ、ちょっと足りなくないか」と観客に盛り上がり不足だと喝を入れ、再びステージの袖へ戻ってやり直しに。「頼むぞ」「わかってんだろうな」とドスを利かせた声で告げると観客からは大拍手。1階の客席が一気にスタンディングモードへと切り替わり、圧倒的なパーティ・モードへ。一旦演奏を止めさせてから盛り上げるという着想は特段珍しい訳ではないが、アニヴァーサリー・ステージのゲストでもそれをやってのけてしまうところがBro.KORNらしさか。

 業界での“ゾンズ”という呼び名の名付け親となったBro.KORN。「最近はどう?」「ゾンズとはいろんな思い出があって……」とトークを始めておいて、「あんまり(喋って)時間とってると、オレの次の曲歌えなくなっちゃうから、早く行かないと」と言いながらも、「でも、やっぱりすぐイクのは嫌でしょ、すぐイクのは」「それではすぐにイカない歌……あ、すぐイッた方がいいか。じゃ、いきましょう〈早漏マン〉! いや違った〈Soul Man〉!」というベタな下ネタトークでサム&デイヴの名曲へ突入するのも、らしさ全開だ。

 その後、すんなりと自身の楽曲も繰り出すのだが、ハーモニーワークはもちろん、楽曲の良さに、あらためてオリジナル・アーティストとしての質の高さを確認。「夢で逢いましょう」に続く「嘘泣きでCheek」では、観客に振りとクラップで“共演”を要求。フロア内に響き渡るクラップを受けてゴキゲンに歌うAMAZONSに、ステージに立つ喜びの表情も感じられた。



 「アイシテル」「Swing&Groove」の2曲で共演したChageは、持ち前の明るさでフロアに温かい一体感を作り出す。2020年のChageのミニ・アルバム『Boot up!!』収録のスウィングジャズ歌謡「Swing&Groove」のアレンジした島田昌典を驚かせたという、3人が代わり替わり位置を替えながらマイク1本でレコーディングするAMAZONSの凄さや、楽屋でもリハーサルスタジオでも賑やかで、歌っているより話している時間が長いという逸話も披露。Chageは3人の衣装に合わせて、胸ポケットにシャンパンゴールドのハンカチ、ズボンの裾をめくってピンクの靴下を「あんまりめくるとすね毛が見えちゃう」といいながら見せるなど、粋な演出と笑いを提供してくれた。

 AMAZONSの3人がそのスキルと甘い声に感動したというスガ シカオは、「今日はブラック・ミュージック界の大先輩方が揃っていて……」と一番年下で弟扱いなんでと恐縮しつつ、「最初は黒のスーツでカッコよく決めて来ようと思ったんですが、(アニヴァーサリーだし赤と黒のラインが入った)1着だけ持っている一番派手なジャケットを着てきたんですけど、みんな凄いじゃないですか……」と派手な“先輩方”の衣装に圧倒された様子。それでもAMAZONSに振り付けを覚えてきてもらったという「午後のパレード」ではグルーヴィでダンサブルな演奏で魅了。AMAZONSに振りに合わせて自然発生的に観客も振りとクラップで応え、フロアに心地よいグルーヴが満ち溢れることとなった。

 石井竜也、高中正義のヴィデオ・メッセージの後は、再びAMAZONSコーナーへ。米米CLUBのホーン・セクションとして、その後もセッションアーティストとしても長きにわたり活躍した、金子隆博(米米CLUB当時は“フラッシュ金子)率いるBIG HORNS BEEが登場。金子は上白石萌音がヒロイン役として出演しているNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の音楽を担当しているが、AMAZONSのコーラスが入った楽曲が同ドラマにも来年2022年に登場するという嬉しいお知らせも。
 金子はキーボードとして後ろに控えるが、AMAZONSとバンドメンバーの間に挟まれる形でBIG HORNS BEEが加わると、やはり圧倒的にゴージャス感が増強。結成30周年を記念して完成させたセルフ・プロデュース・アルバムのタイトル曲「Fantastic 30」に始まり、麗しいハーモニーとスウィートなメロディラインが白眉の「YOU!」を経て、AMAZONSの新曲となる「にがい涙」へ。同曲は、スリー・ディグリーズが全米1位の「ソウル・トレインのテーマ」、同2位の「天使のささやき」以降に楽曲が発表されないことに業を煮やした日本のディレクターたちが日本独自で制作した、安井かずみ作詞、筒美京平作曲のポップ・チューンのカヴァーで、彼女たちのシングルのうち日本のチャートの最高位となった人気曲。哀愁と野暮ったさも感じる昭和ポップス歌謡の薫りが漂う曲だが、BIG HORNS BEEのホーンがその野暮ったさをクセになるテンションへと昇華させ、AMAZONSの艶やかなステージにさらに“照り”をプラスしていた。



 ゲストの“トリ”は、異論なしの久保田利伸。久保田のライヴ同様にフリースタイルで「おめでとう」などの感謝を伝えながらステージインし、早速圧倒的な歌唱を披露して喝采をもらうと、シームレスに「TIMEシャワーに射たれて」へ。当時久保田の〈KEEP ON DANCING TOUR〉に行けず、“久保田利伸 & MOTHER EARTH WITH AMAZONS”が未体験だった自分にとっては、まずはこのアクトを期待していただけに、感慨もひとしお。盟友・柿崎洋一郎は当然だが、久保田のバンド“MOTHER EARTH”の初期メンバーでもあった江口信夫に「あ、江口くんだー」とチャチャを入れるなどコミュニケーションをとりながらのステージングで、この日最高潮ともいえるヴォルテージへ。AMAZONSとの相性の良さも言わずもがなで、迸るほどのファンクネスとグルーヴがフロアへ降り注いでいく。

 久保田は持ち前の茶目っ気あるコミカルなトークと発想で、ただでさえ腰を揺らせるステージをさらに突き抜けたものに。「You were mine」では、現在の英語のコーラス・パートと、AMAZONS時代の英語コーラスがなかった“でたらめ英語”でコーラスしていたものを比較させ、「今日はでたらめ英語ヴァージョンでいきます!」として、このライヴならではの演出へ。スティーヴィー・ワンダー「アナザー・スター」のフレーズ導入も久保田のライヴではお馴染みだが、AMAZONSのコーラスが加わると、通常の久保田とのライヴとはまた彩りが異なる、言わずとも感じる阿吽のヴォーカルの絡み合いが見て取れるようで、微笑ましさと身震いが同時に心身を過ぎるような感覚が支配していく興奮が訪れていた。

 ラストは彼女たちの関係をなぞらえるような、もう一つのテーマ・ソングともいえるキャロル・キングのカヴァー「君の友だち」。これまで多くのアーティストにカヴァーされる世界的に愛される名曲で、辛い時や上手くいかない時は、冬や春でも夏でも秋だろうと、私を呼べばすぐに駆け付けるわ、君の友達なんだからという詞は、多分に洩れず親友という関係性を築いている多くの人たちにとって共感するものではあるが、なかなか日本にオリジナル・アーティストとしてのコーラス・グループが育たない環境にありながら、歩みを止めることなく活動を続けている3人を見ると、よりこの曲とAMAZONSとの親和性を感じたのだった。


 エンディングはゲスト全員を呼び込んでのメンバー紹介で、さながらミュージカルなどのグランド・フィナーレの様相。それぞれがステージアウトするなか、Bro.KORNがちょろっとステージに戻りかけて笑いをとるなど、最後まで歓喜に溢れるライヴとなったのも、AMAZONSがこれまでに築き上げてきた交遊の賜物といえるだろう。

 アンコールのクラップがなり始めるやいなや場内が暗転。スクリーンにAMAZONSのメッセージが映画のエンドロールのように映し出された後には、再び大きな拍手が。会場に響き渡る、満足の気持ちとまだ終わってほしくないという感情がないまぜになった万雷の拍手が、このライヴの濃度を物語っていたようにも思えた。個人的にはゲストたちとの共演をこれまでリアルタイムで観て来られなかったことに悔しさもありながら、当時の輝きを曇らせることなくシーンに確固たる存在として躍動している“今のAMAZONS”の姿を生で体感出来たことは、他では味わえない得難い時間となった。終演後にオーチャードホールを出て、いささか心持ちが軽いような気がしたのは、これからも飛躍する彼女たちが期待が持てるとの確信を抱いたから……そんな思いが過ぎりながら、雨の渋谷の街から帰途へ向かったのだった。



◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Amazons! Amazons! Amazons!
02 Bomb A Head!(guest with m.c.A・T)(Original by m.c.A・T)
03 Funky Boogie Sisters(guest with m.c.A・T)
04 WON'T BE LONG(guest with Bro.KORN)(Original by THE BUBBLEGUM BROTHERS)
05 Soul Man(guest with Bro.KORN)(Original by Sam & Dave)
~ VIDEO MESSAGE from Marlene ~
06 夢で逢いましょう(including Introduction of Band Members)
07 嘘泣きでCheek 
08 アイシテル(guest with Chage)(Original by Chage)
09 Swing&Groove(guest with Chage)(Original by Chage)
~ VIDEO MESSAGE from 藤井フミヤ ~
10 ホームにて(guest with スガ シカオ)(Original by スガ シカオ)
11 午後のパレード(guest with スガ シカオ)(Original by スガ シカオ)
~ VIDEO MESSAGE from 石井竜也 ~
~ VIDEO MESSAGE from 高中正義 ~
12 Fantastic 30(guest with BIG HORNS BEE)
13 YOU!(guest with BIG HORNS BEE)(Original by AMAZONS with BIG HORNS BEE)
14 にがい涙(guest with BIG HORNS BEE)(Original by THE THREE DEGREES)
~ VIDEO MESSAGE from 松任谷由実 ~
15 TIMEシャワーに射たれて(guest with 久保田利伸)(Original by 久保田利伸)
16 You were mine(guest with 久保田利伸)(Original by 久保田利伸)(including phrase of “Another Star” by Stevie Wonder)
17 You've Got A Friend(with 柿崎洋一郎)(Original by Carole King)
18 OUTRO ~ ENDING VIDEO MESSAGE~


<MEMBER>
AMAZONS are:
大滝裕子(vo)
斉藤久美(vo)
吉川智子(vo)

Band Members are:
江口信夫(ds)
岡沢章(b)
田中義人(g)
柿崎洋一郎(key / Music Director)
宮崎裕介(key)
中島オバヲ(perc)

Guest friends are:
富樫明生 a.k.a. m.c.A・T(vo) 
久保田利伸(vo)
スガ シカオ(vo,g)
Chage(vo,g)
Bro.KORN(vo)
BIG HORNS BEE:
 金子隆博(key) 
 織田浩司(as)
 石川周之介(ts)
 河合わかば(tb)
 佐々木史郎(tp)
 鈴木敦史(tp)

◇◇◇



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