*** june typhoon tokyo ***

HALLCA @六本木Varit.


 バンドとの一体感で魅了した、メモリアルなバースデー“フライト”。

 これまでの貴重な思い出を抱えながら、大きく羽ばたいていきたい……そんな想いもあったのだろうか。コロナ禍に制作した楽曲のうちの一つ「Precious Flight」に因んだタイトルを冠したHALLCAの2ndフルバンド・ワンマンライヴ〈PRECIOUS FLIGHT WITH YOU〉が、27歳を迎える彼女のバースデー“イヴ”となる11月1日に開催。コロナウィルス感染拡大の影響を考慮して、入場人数を制限したなかでの開催とはいえ、チケットはソールドアウト。早く肉眼と肌でHALLCAの音楽を体感したいという期待を胸にしたファンを中心に、開演前の六本木Varit.のフロアには熱気が渦巻いていた。

 フルバンドワンマンライヴは、昨年の誕生日に行なわれた渋谷CHELSEA HOTELでの公演(記事はこちら→「HALLCA @CHELSEA HOTEL」)以来1年ぶり。バンドメンバーは、バンドマスターのクマガイユウヤ以下ほとんど変わらずの勝手知ったる盟友たち。新たにコーラスにゆのが加わった気の置けない布陣での登壇となった。生配信も同時に実施。

 快活なサックスがいざなう、青々とした海や晴わたる空を闊歩するような広がりを感じさせるフュージョンライクなアレンジで構成された冒頭曲「Precious Flight」から、“wonderful days~”からのフックをはじめ軽妙洒脱で伸びやかな明澄を纏う「Twisted Rainbow」、ブラン・ニュー・ヘヴィーズ「ネヴァー・ストップ」あたりのアシッド・ジャズ作風も想起させるアレンジとともにディスコ・フレイヴァを密かに孕ませる「Pink Medicine」までの3曲は、インイヤーモニター(イヤモニ)をつけながらも電源を入れ忘れるというただの“耳栓”状態で歌うというハプニングもあったが、特段乱れることはなく序盤から心地よいグルーヴを醸し出していく。

 中盤には楽曲参加や客演などコラボレーション曲を続けるセクションを配置。「Promise of Summer」は島根・出雲を拠点にヴェイパーウェイヴ以降のポップ・ミュージックを送り出すレーベル〈Local Visions〉所属のシンガー・ソングライター、 Tsudio Studioに客演したナンバー。オリジナルの12インチジャケットは、煌めく海に沈む夕日とピンクに染まった空と高層ビル群に“明日から、最新の私へ。”というキャッチフレーズも書かれている“ザッツ・シティポップ”といえるジャケットが印象的だ。サウンドもそれに違わず、夏の終わりのノスタルジックと爽やかな涼風が同居するシティポップ作風で、ステージでは、颯爽と色香が交互に訪れるサックスにスウィートなキーボードによってサマー・ポップスな世界観を創出していた。

 「Strawberry Moon」はコーラスに参加しているkiarayuiとの楽曲。ピロピロ鳴るシンセ導入と漂流感ある鍵盤をバックに、ハスキーでアンニュイな声色のkiarayuiの憂いに寄り添いながらも、元来持つ華やかな歌唱を削がないHALLCA流メランコリーを披露してみせた。コラボレーション楽曲4曲のうち、個人的に印象が深かったのがこの「Strawberry Moon」で、HALLCAとは感情の表出スタイルが異なるkiarayuiが、楽曲の本質に潜んでいそうなグルーヴ、あるいは淫靡さと言い換えてもいいが、を補完して一体性を高めていたのが好感。この二人は互いを隅々まで熟知している関係性でもあろうから、楽曲が持つ以上の浸透性をライヴにて表現させていたのではないかとも思う。
 ヴォーカル&サンプラーというユニークなスタイルが特色のシンガー・ソングライター/トラックメイカーのAmamiyaMaakoとの共作となる「Floating Trip」は、テンポこそミディアムながら、日常のちょっとしたことにハッピーを見つけ、共有し合うようなガールズらしいキュートなヴァイブスが感じられるポップス。終始希望に満ちたポップネスが続くという作風は、個人的には凡庸に感じてあまり好まないのだが、抑揚激しいメロディラインを組み込んだりと工夫を施している様子。
 「Catch your night」はフューチャーベース・アイドルのlink laze(リンクレイズ)のプロデューサーのyucaとの連名曲。オリジナルは未聴なのでこのバンドアレンジとの差がどのくらいあるのかが分からないが、フューチャーベースではないもののそれらしい“跳ね”感を有していて、ハイハットの推進力とともに高揚していく展開が、大きな“ノリ”を呼びそうな楽曲だ。


 これらのコラボレーション楽曲は、HALLCAにはない要素、あるいは持ち得たとしてもこれまであまり自らは触れてこなかった要素に触れることで、HALLCAの懐や引き出しを拡げるという意味では有効だが、今回のステージでの歌唱や全体のイメージ像としては、やや楽曲に引っ張られるというかなぞるようなところも感じられた。それはもちろんこのコロナ禍の状況に置いて、なかなか深く歌い込むことが出来なかったという部分は否めないし、完成度が期待したより高くないからといってHALLCAの楽曲として合わないということもない。また、バックバンドのアレンジメントに助けられたという部分も十分にある。新たな邂逅は自分の殻や世界を拡げるのに刺激的な衝動の一つではあるが、大切なのはその刺激を自身の資質や才とで相乗効果を生み出せるかどうか。自身がコロナ禍で制作したもう一つの楽曲「Sweet Pain」との歌い口とを比べると、まだ自身の“モノ”にし切れていないというところもあるだろうし、単にモノにし切れていないというだけであれば、それらのコラボレーションはHALLCAの新たな武器として見出せる楽曲群ともなり得るはず。「Diamond」「guilty pleasure」から、ブンブンと褐色のボトムを響かせるカワサキ亮のベースと楽曲に軽快なグルーヴをもたらすクマガイユウヤのギターとの掛け合いが興奮を高める「WANNA DANCE!」ときて「コンプレックス・シティー」とクライマックスへ向かうにつれて、伸びやかで見るからに音と共に“遊べている”歌唱を見ると、余計にそう感じてしまうのは正直なところだ。
 
 とはいえ、「guilty pleasure」以下、後半に配された楽曲はクライマックスに適したアッパーなテイストの楽曲ゆえ、前述のコラボレーション楽曲群と単に比べるのはどうかという意見もあろう。ただ、個人的に気になるのは、アッパーかローかというテイストの問題ではなくて、いかにHALLCAが持つ他者にないグルーヴに乗せられるかということ。たとえば、この日は披露されなかったが、文字通り深い海や闇のような濃淡を帯びたクールなミディアム・スロー「burning in blue」などはテイストは気怠さも感じられながら、しっかりとグルーヴをもって歌い込めている楽曲だったりもする。安易なコラボレーションは論外として、やはり相手に触発されながら、その世界観をどのように咀嚼して自らのグルーヴを描出させていくかというのは肝要で、それがあって初めて、自らにはなかった要素との融合が予想以上の化学反応を生み出す……というのが、コラボレーションの良さでもある。

 バンドのアレンジメントもこれらの楽曲は苦心したところもあるように感じた。それは、やはりHALLCAの歌唱イメージとは異なる要素が入って来たときに、オリジナルの楽曲として捉えるか、ヴォーカルに寄せて捉えるかというアプローチの仕方の差もあるだろう。楽曲を再構築して面白いものを作ってもそこにHALLCAの没個性を誘発してしまっては意味がないし、HALLCAの歌唱に合わせることに執着すれば、オリジナルの独創性を削ぐ面白みのないものになる可能性もある。逆に言えば、これらの楽曲をしっかりと取り込んで歌いこなせれば、想像以上のキラー・トラックと進化することもあろう。
 その最たるものが、メンバー紹介も含んで披露され、裏で的確にコントロールをしながら加速を刻む竹内大貴のドラムをはじめリズム隊のビートが滑走するなかで、艶やかなうねりをもたらす石田愼のサックスと泥臭さを浄化させて洗練性高める田谷紘夢のキーボードが映えるキラー・チューン「guilty pleasure」だ。HALLCAの初フィジカルとなったEP『Aperitif e.p』収録時には周囲の反応を思い返すと「Diamond」「Dreamer」らのPellyColo楽曲の陰に隠れた感じも窺えたが、奇しくも1年前のワンマンライヴで序盤に配され、フロアの熱量を一気に高めた加速ギア的な楽曲アレンジとして強く印象に残った。今回のライヴでは同じギア役としても終盤のクライマックスへムードを高める位置に配されていることからも、存在価値と重要性が高まった楽曲の一つだといえる。そのような楽曲が一つでも多く増えることが、HALLCAのステージのステータスをより高いところへと押し上げることにもなるはずだ。

 そのためにも、HALLCAが楽曲をどれだけ歌い込めるか、一心同体となれるかが極めて大切だ。ここではピッチの不安定さやら、圧倒的な声量だとか、フェイクのスキルだとかいうことは関係ない。良いに越したことはないが、何よりも意識したいのは、HALLCAの特色を最大限に導き出せるかどうか。
 Especia時代からそう感じていたが、彼女の良さは歌唱の表現力の多彩さ。グループ時は多彩ながらもピッチの不安定さもあったりと出たとこ勝負なところもあったが、ソロになってそのコントロールも出来るようになってきた。そして、一聴すると声色は華やかだから、ムーディな楽曲は合わないのかといえばそんなことも全くないのがいい。明澄な歌い口、もっと言えば屈託のないそれは、癖や淀みがなくて聴きやすいがゆえ、凡庸になってしまうところも少なくないのだが、彼女の場合は華やかさや明るさのなかにしっかりとグルーヴを携えているゆえ、実は晴れやかな声ながらも楽曲のムードによって濃淡を変えられる資質があり、それが細やかに表情を彩る才にも繋がっている。そのポテンシャルを音源においても、ライヴにおいても最大限に活かせるかがカギになってきそうだ。

 ところで、MCにてコロナ禍において制作した曲のうち、「Precious Flight」の制作秘話として「『みんなのことを想って書いた』と言ったが、実は当初は〈リッチマン〉というタイトルで、お金持ちになりたいという曲だった」と思いがけない告白をして、HALLCAが自分たちのことを考えて作ってくれたと純粋に感じていただろうファンの心を折りにかかっていたが(笑)、個人的にはそういったクセというかアクの強い楽曲を演じることも面白いのではと感じている。楽曲の世界においては、清廉潔白、純粋無垢にいる必要性は全くないし、寧ろ心根にある葛藤や煮え切らない情念のようなものを吐き出すような楽曲があっても、それは彼女の味として有効なトッピングになりえる気もする。詞世界に綴った感情を歌唱にも憑依させるくらいになれば、表現力の幅も格段に広がろうというもの。無論“リッチマン”路線の軽薄なものだけでなく、深い情愛についてであったり、社会を憂うようなものや、理解されない感情を爆発させるものもあっていい。ただし、どのような詞世界であれ、しっかりと咀嚼して、HALLCAの特色を活かすヴォーカルワークであることが条件ではあるが。

 開催が不安視されたバースデーイヴの2ndフルバンドワンマンも、個人的にはあれこれと些細なことに言及しているが、終わりを告げるとともに周囲を見渡せば、快哉の祝宴。新たなテイストの楽曲やさまざまなコラボレーションを展開するなかで、このバンドとのステージの一体感は特筆に値するものといえよう。来年のバースデーにもまた、との言葉で終わらせず、定期的に開催を求めたい想いがフロアに集うファンたちにはあったはずだ。さらに精度を高めた成長の跡こそが溢れ出す快哉への道のりではあるが、それはまだ伸びしろが存分にあるHALLCAへの期待の表われでもある。コロナ禍の制限が明けた際には、フロア全体に喝采が渦巻くようなステージの日々が積み重なるに違いない。その瞬間を待ちわびながら、進行形のHALLCAを楽しみたい……そう思えたステージだった。


◇◇◇

<SET LIST>
00 Member Entrance ~ BGM “FLY HIGH” by BLU-SWING
01 INTRODUCTION ~ “Diamond(Youji Igarashi Remix)”(Airplane “takeoff” sound arranges)
02 Precious Flight
03 Twisted Rainbow
04 Pink Medicine
05 Promise of Summer(Original by Tsudio Studio feat. HALLCA)
06 Strawberry Moon(Original by kiarayui feat. HALLCA)
07 Floating Trip(Original by HALLCA & AmamiyaMaako)
08 Catch your night(Original by HALLCA & yuca)
09 Sweet Pain
10 Diamond
11 guilty pleasure(include Band Member's Introduce)
12 WANNA DANCE!
13 コンプレックス・シティー
≪ENCORE≫
14 Dreamer
15 Milky Way
16 OUTRO ~ BGM “くるかな(aero wao edit)” by Especia(Airplane “landing” sound arranges)

<MEMBER>
HALLCA(vo,key)

クマガイユウヤ(熊谷勇哉)(g/Bandmaster)
田谷紘夢(key)
竹内大貴(ds)
カワサキ亮(b)
石田愼(sax,fl,syn)
kiarayui(cho)
ゆの(cho)


◇◇◇

【HALLCAに関する記事】
2018/08/04 HALLCA『Aperitif e.p』
2018/11/26 HALLCA@中目黒 楽屋
2019/08/30 HALLCA @Jicoo THE FLOATING BAR
2019/11/02 HALLCA @CHELSEA HOTEL
2020/01/19 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
2020/01/25 〈FRESH!!〉 @六本木 VARIT.
2020/11/01 HALLCA @六本木Varit.(本記事)

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