Sea side memory (1)

2006-09-24 | 自作小説:Sea side memory
 流れる景色を眺めながら、想い出すのは、あの日のことばかりだった。
あれほど、輝いていた太陽も今は、その明るさを失っていた。
開け放した電車の窓から吹き込む風の中から、かすかに潮の香りがする。
 -ああ、きれいな海
電車の走行音にかき消されないように、僕の耳元で、囁いた。
しかし、今は、僕の隣には君はいない。
重苦しい雲が空をよぎった。しかし、太陽の光を遮るまでにはいたらなかった。
まるで僕のようだ。輝くものには、まるで無意味だ。
あふれそうになる涙を抑え、遠くの水平線を見た。
僕は、静かに瞳を閉じ、心のスクリーンに、君を映し出そうとした。

 -どうして、海に行きたいの?
 -泳ぎに行くのさ
 -えっ、まだ、寒くない?
 -冗談だよ
 -水着、どうしようかと思ったじゃない

君は、いつでも僕の話を真剣に聞いてくれた。
そんな人は、いままでいなかった。
話をしていても、何を考えているのか、わからない奴。
ひどい時は、チンプンカンプンの相槌をうつ奴までいた。
そのためか、僕自身も上辺だけのことしか話をしなくなった。
たぶん、君もそうだった、と思う。
だからこそ、大切にしたかった。

                     つづく

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