新古今和歌集の部屋

読癖入伊勢物語 百十六〜百二十五

百廿五段 つひにゆく道

 

いふ所にて酒のませてよめる。

古今
おきのゐて身をやくよりも悲しきはみやこ嶋べわかれなりけり

百十六
昔男、すゞろにみちの国までまどひいにけり。京に思ふ人にいひやる

拾遺
波間よりみゆる小嶋の濱びさし久しくなりぬ君にあひみで

何事もみなよくなりにけりとなんいひやりける。

百十七
むかしみかどすみよしに行幸し給ひけり。

古今
われ見ても久しくなりぬ住吉の岸の姫松いく代へぬらん

御神げぎやうし給ひて、

新古今
むつまじと君はしら波みづがきの久しき代よりいはひ初てき

百十八
昔男、久しく音もせでわするゝ心もなく、まいりこんといへりければ

古今
玉かづらはふ木あまたに成ぬればたへぬ心のうれしげもなし

百十九
昔女のあだなる男のかた見とて、おきたり物共をみて

古今
形見こそ今はあだなれ是なくはわするゝ時もあらまし物を


新古今和歌集巻第十九 神祇歌

むつまじと君はしらなみ瑞垣の久しき世より祝ひ初めてき
  伊勢物語に住吉に行幸の時御神現形し給ひてと記せり

よみ:むつまじときみはしらなみみづがきのひさしきよよりいわいそめてき 隠

備考:伊勢物語。白波と知らないの掛詞。瑞垣は水の縁語。瑞垣のは久しきを導く枕詞。

 

百二十
むかし男、女のまだ世へずとおぼへたるが、人の御もとにしのび

て物きこゑてのちほどへて

近江なるつくまの祭とくせなんつれなき人のなべの数みん

百廿一
昔男、梅つぼより雨にぬれて、人のまかり出るをみて、

鶯の花をぬふてふ笠もがなぬるめる人にさせてかへさん

かへし

うぐひすの花をぬふてふ笠はいな思ひを付よほしてかへさん

百廿二
むかし男、ちぎれる事あやまれる人に

新古今
山しろの井手の玉水手にむすび頼しかひもなき世なりけり

といひやれどいらへもせず。

百廿三
昔男有けり。ふか草に住ける女を、やう/\あきがたにや思ひけんかゝる
                           哥を読けり。

古今
年をへて住こし里を出ていなばいとゞ深草野とや成なん


野とならば鶉となりて鳴をらんかりにだにやは君はこざらん

と読りけるにめでゝ、ゆかんとおもふ心なくなりにけり。


新古今和歌集巻第十五 恋歌五

 題しらず       よみ人知らず
山城の井手の玉水手に汲みてたのみしかひもなき世なりけり

よみ:やましろのいでのたまみずてにくみてたのみしかひもなきよなりけり

備考:井手は京都府綴喜郡井手町で歌枕で山吹とかはづが有名。井手の玉水は、井手町を流れる玉川の水として、伊勢物語により男女間の頼りなさを意味する。手飲みと頼みの掛詞。初、二、三句はたのみまでの序詞。

百廿四
むかし男いかなりける事を思ひけるおりにかよめる

思ふ事いはでぞたゞにやみぬべきわれとひとしき人しなければ

百廿五
むかし男わづらひて、心ちしぬべくおぼへけれは、

古今
つゐにゆく道とはかねて聞しかどきのふけふとは思はざりしを

 

(了)

西洞院時直筆

筆者不明

葉室保李筆

中院通茂筆

高辻長純筆

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