ビジネスと法律

ビジネス、法律、経済、政治、暮らしの話題についての情報を紹介しています。

相続回復請求権と取得時効について

2005年10月30日 | 民法(親族、相続)
 1意義
 相続回復請求権とは、真正の相続人が表見相続人に対し、相続権の確認を求め、併せて相続財産の返還など相続権の侵害を排除して相続権の回復を求める権利(民法884条)です。
 ここで、表見相続人とは、法律上相続人としての資格がないのに、あたかも真正な相続人であるかのように事実上相続財産を保有している者です(真正な共同相続人が、他の真正な相続人の相続権を侵害している場合を含みます。この場合の事例がほとんどでしょう)。

 (参考)
 民法884条 (相続財産回復請求権)
「相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。」

 民法162条 (所有権の取得時効)
「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者はその所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」

 2要点
 私は以前には、上記の両条から単純に所有の意思があれば,20年間の占有によって、相続財産を民法162条で時効取得できると考えていました。

 しかし、そう簡単なことではありませんでした。民法884条を文言どおりに解釈するのではなく、表見相続人が他の真正相続人の相続人の請求権を排斥するためには、最高裁は、5年・20年という期間と伴に、真正相続人の相続財産を侵害したことにつき、「善意または合理的事由」を要求しているのです。

(参考)
最判平11・7・19民集5-3-6-1138(『模範六法(平成17年三省堂発行 1072頁)
 「相続回復請求の消滅時効を援用しようとする者は、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、右の相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつこれを知らなかったことに合理的事由があったことを主張立証しなければならない」
http://www.bk1.co.jp/product/02493301/?partnerid=adw820011

 ここで、判例は「他に相続人がいることを知らず、かつこれを知らなかったことに合理的事由」としており、「善意・無過失」を要求しているのではありません。民法学者の中には、教科書で「善意・無過失」と記述されている方がおられますが、それは誤りです。善意・無過失のうち、善意とは、「ある事情を知らないこと」、無過失とは、「普通になすべき注意を怠っていない」ことを意味します。ただ、両者はほとんど変わらないと思いますが、判例の方が、表見相続人側に若干ですが有利ではないか考えます。

 以上から、表見相続人が、時効取得をするのは極めてまれな場合です。例えば、亡なった父親に認知していなかった隠し子があったり、生まれてすぐに他家の実子として育てられたりして、表見相続人が、そのような事情を一切知らなかったような場合しか、相続人は884条の時効を援用することはできません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする