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群馬司法書士会事件について

2007年03月02日 | 民法(総則)
 みなさん、こんばんは。

 今日は、私が以前から書込みをしたいと考えていた「群馬司法書士会事件」についてです。

 群馬司法書士会事件の事実の概要は、次のとおりです(古野豊明執筆「司法書士会の総会決議と思想・信条」(『ジュリスト 平成14年度重要判例解説』有斐閣、2003年6月10日発行))。
http://www.yuhikaku.co.jp/bookhtml/012/012016.html

 「群馬司法書士Y(被告・控訴人・被上告人)は、阪神・淡路大震災により被災した兵庫県司法書士会に3000万円の復興支援拠出金を寄付するとして、その資金の一部を会員から登記申請事件1件あたり50円の復興支援特別負担金の徴収による収入をもって充てる旨の総会決議を行った。
 
 これに対して、会員のXら(原告・披控訴人・上告人)は、この決議が会員の思想・信条等を侵害し、公序良俗に反し無効であるとして、債務不存在の確認を前橋地方裁判所に求めた。

 1審の前橋地方裁判所は、Xらの主張を認めた(前橋地判平成8・12・3判時1625号80頁)が、2審の東京高等裁判所は、拠出金の寄付は本件司法書士会の目的の範囲内であるとするYの主張を認めた(東京高判平成11・3・10判時1677号22頁)。そこで、Xらが、最高裁判所に上告した。」

 そして、最高裁は上告を棄却しました。

 1審の前橋地裁と東京高裁・最高裁との結論が異なった理由は、群馬司法書士会が、兵庫県司法書士会への拠出金の寄付金として、所属会員に対して強制的に寄付を求めることが「目的の範囲内」かどうかという権利能力の有無の判断です。前橋地裁は、目的の範囲外の行為だと判断しましたが、東京高裁や最高裁は範囲内の行為だと判断しました。

 私は、群馬司法書士会は、群馬県内の登記申請手続きに対して適切な対応がなされることを法(司法書士法)により期待されているのであって、兵庫県内のそれについてまでは期待されていないと思います。ですから、拠出金の寄付は「目的の範囲外」だと考えます。

 しかしながら、法人(群馬司法書士会)は現実に実在している訳ですから、様々な団体や個人との接触は不可避でしょう。言い換えれば、その法人の設立目的から考えて、政界、官界、経済界等の各種団体や個人との一定の“お付き合い”を否定することはできないと思います。この“お付き合い”は、法人自身に内在する権利能力だと考えるのです。

 このことから考えれば、最高裁は、原審(東京高裁)の判決を破棄して、

① 群馬司法書士会は、
② 未曾有の大震災を蒙った兵庫県司法書士会に対して、
③ 他に、強制的に徴収している金員があるのかどうかを判断に含めつつ、
④ “お付き合い”から考えて、
⑤ どの程度の金額までならば、所属会員に対して拠出金としての寄付金を強制的に徴収することができるかを、

 原審に差し戻して(民事訴訟法308条1項)、審理をやり直しさせるべきでだったと思います。 

 (参考)
 1 内田貴著『民法Ⅰ 第3版 総則・物権総論』240頁(財団法人東京大学出版会、2005年8月2日)
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-032333-8.html

 「阪神大震災復興支援

  では、同じ論理[南九州税理士会における会員の政治献金納入義務を否定したこと(最判平成8年3月19日民集50-3-615)・・・筆者注]は, 政治献金に限らず, 災害被災者への寄付についても妥当するだろうか。

やはり強制加入団体である群馬司法書士会が, 阪神淡路大震災で被災した兵庫県司法書士会に対する復興支援のための特別負担金の徴収を決議したところ, 会員の司法書士から本件寄付が目的の範囲を超えるとの訴えが提起された事件で, 最高裁は, 司法書士会の「目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で, 他の司法書士会との業務その他について提携, 協力, 援助等をすることもその活動の範囲に含まれる」との理由で目的の範囲内であるとした(最判平成14年4月25日判時1785-31)。

しかし, 金額が高額に過ぎることなどを理由とする反対意見が付され, 判決は3対2のきわどいものだった。強制加入団体における目的の範囲の判断の難しさが示されている。」

 2 河内宏執筆『民法ー総則(第三版)』76頁(有斐閣Sシリーズ、2005年4月25日発行)
http://www.yuhikaku.co.jp/bookhtml/012/012471.html

「群馬司法書士会が阪神・淡路大震災の復興支援のために会員から寄付を徴収することが司法書士会の目的の範囲内の行為といえるかが問題となり、最高裁はこれを目的の範囲内の行為であるとした(最判平14・4・25判タ1091号215頁)。

しかし、災害があったときに寄付をするか否かは、法人の目的達成とは関係がない事柄であるから、そのような事柄について法人が決議しても、構成員は決議に拘束されないと考えるべきではあるまいか。最高裁判決は3対2の多数決で目的の範囲内としたのであるが、目的の範囲外とする少数意見にも十分根拠があると考える。」

隠れた“強行規定”について

2005年12月14日 | 民法(総則)
 法律の条文には、当事者の意思が不明確な場合にそなえて、紛争解決の拠りどころとなる規定(任意規定)と、公の秩序に関し、当事者の意思に左右されない規定(強行法規)という二種類の規定があります。

 民法の賃貸借について、某MLで議論していたのですが、そこで私は、条文には規定されていない強行規定の存在を知りました。それは、青空駐車場の賃貸借契約をしている者が、第三者に自己の契約スペースに車を置かれた場合、賃貸人に対して車の除去とマイカーを駐車できなかった損害を賠償できるか? という問題に関連してです。

 この問題では賃貸人に請求できないのですが、仮に青空駐車場内の私道の場合ではどうでしょうか? 私は私道の場合でしたら、賃貸人がその不法行為車を除去する義務があると思います。なぜなら、私道は賃借人にとっては占有権限がないからです。占有権限を持つ賃貸人の責任だと考えます。

 つまり、このことは、賃貸借契約という法的性質から生じる“強行規定”ではないかと考えたのです。条文の規定に現れていない隠れた強行規定というものが存在するのではないでしょうか。

意思表示とは何か?

2005年11月04日 | 民法(総則)
 意思表示とは、「一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に対して表示する行為。例えば、売るという法律効果を発生させようと欲し、売主がその意思を口頭や文書で表示すること。これが買主の買おうという意思表示と合致すれば売買が成立し{民555}、ここから各種の法律効果が発生することになる。」(『法律学小事典(第3版)』有斐閣、1999年2月20日発行)と理解されています。ここでいう「口頭や文書で表示する」行為を法律行為といいます。この法律行為には、意思表示は不可欠なものです。

 そして、法律効果を要素としていない意思表示は、準法律行為とみなされています。例えば、法律効果の発生を目的としない意思の表明(例えば、催告(民法19条』))は、「意思の通知」と呼ばれています。また、一定の事実の通知であって、意思の発表という要素を含まないもの(例えば、時効中断事由としての債務の承認(同法147条3号))は、「観念の通知」と呼ばれています。

 以上によって、「準法律行為は性質の許すかぎり意思表示の規定が類推されると解されている(通説)が、当該準法律行為の性質、当該意思表示の規定の趣旨を慎重に検討し決すべきである。」(『基本法コメンタール 民法総則(第五版)』日本評論社、2004年1月28日発行)と理解されているのです。

 しかし、私見では、意思表示を要素とする法律行為とか、意思表示を要素としない準法律行為という区分は不必要だと考えます。民法の条文に「意思の通知」や「観念の通知」という文言はありません。あくまでも“解釈”によって導びかれたものです。

 そしてまず、意思表示の定義ですが、一般人である私たちが通常使用する言葉としての「意思表示」の意義は、簡単に「意思の表示」です。法律の解釈もそれに倣うべきではないでしょうか。ですから、意思の通知とか観念の通知という区分は不必要だと考えます。

 つまり、その意思表示から、どの法律が適用されるのか?、撤回は許されるのか?条件を付けることができるのか?を個別に検討すればいいだけだと思うのです。私が、このように考えるようになったのは、「法の支配」を考え、「法律の解釈はいかにあるべきか?」を検討した結果です。
 
 それでは、次回は、「法律解釈の方法について」を書いてみたいと思います。

時効期間満了前の時効の援用は?

2005年11月03日 | 民法(総則)
 時効期間満了前に、債務者が債権者に対して、誤って債務の時効を援用(民法145条)したことは、“債務の承認”(同法147条3号)になるのでしょうか?
 
 ここで、時効とは、「一定期間継続し平穏に成立している事実状態を維持するために、その事実状態に即した権利関係を確定させる制度」(『コンサイス法律用語辞典』三省堂、2003年12月20日発行)です。
 また、時効の援用とは、「時効によって利益を受ける者が、時効の利益を受ける意思を表示すること」(同書)です。

 私見は、まず、時効の援用としては無効です。なぜなら、時効の援用という法律効果を生じさせるには、まず、第一に、時効を援用したこと。第二に、時効期間が経過したことの二つの要件が必要です。ここでは、時効期間が経過していませんので、時効の援用としては、無効です。

 次に債務の承認にもなりません。なぜなら、債務者には、まず第一に、債務を承認する意思がなく、第二には、その行為によって債権者は、債務者が債務を支払ってもらえると理解するようなことはないからです。

 ただし、債権者に債務を承認する意思の表示ではありませんが、債権者に債権の存在を気づかせ、債務者に対して債権を“請求”(同法147条1号)するきっかけを与えることになりますから、あまり実益のない議論です。
 ただ、次回に書きます「意思表示とは何か?」を考えるにはあたって、おもしろい題材だと思うのです。