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中間省略登記について

2007年02月27日 | 民法(物権・担保物権)
 以下の文章は、平成17年に書込みしたものですが、一部、加筆しました。

 中間省略登記とは、例えば、不動産の所有権がA→B→Cと移転したにもかかわらず、登記簿上は中間者Bを省略して直接A→Cの移転登記を行う場合のように、中間の権利変動の登記を省略した登記(『コンサイス法律用語辞典』1100頁(三省堂、2003年12年20日発行))です。

 しかし、平成17年3月7日から新不動産登記法が施行され、中間省略登記ができなくなったと考えるべきだと思います。新法では登記名義人(上記の例でB)を明らかにする「登記識別情報」を登記申請書に添付することが義務づけられたからです。

 旧不動産登記法時においては、中間省略登記は登録免許税等を節約するために行なわれていました。
 最高裁は、A・B・Cの三者が同意していたり(大判大5・9・12民録22輯1702頁)、さらには、Bの同意なしに中間省略登記が行われた場合でも、登記上利害関係を有する第三者が現れた後においては、Bが中間省略登記の抹消を求める正当な利益がないときには中間省略登記の抹消を求めることはできない(最判昭35・4・21民集14巻6号946頁)、と解していました(淡路剛久外三名著『民法Ⅱ-物権(第2版)』83頁 有斐閣Sシリーズ 2002年3月20日発行)。

 しかし、名古屋大学の加藤雅信教授は、「中間省略登記を認めず、債権者代位権(民法423条)を行使すべき」と述べられています(加藤雅信著『新民法体系Ⅱ 物権法(第2版)』160頁、有斐閣、平成17年4月20日発行)。

上記の例でいえば、Cが、B→C間の売買契約のもとづく移転登記請求権を基礎にA→B間の売買契約上BがAに有する移転登記請求権を代位行使するということです。さらには、中間者に訴訟告知(民訴53条)を原告に義務づけるべきだとされています。

 私は、新不動産登記法の施行日(平成17年3月7日)の前後を問わず、中間省略登記を認めずに、債権者代位権を行使して、原告に訴訟告知を義務づけるべきだとする加藤教授の見解を支持します。

 また、次の参考のとおり、東京大学の内田貴教授は「今後は困難になるといわれている。」と疑問を投げかけておられるし、日本司法書士会連合会は認められないという見解を表明されています。

 以上から、最高裁は中間省略登記を認めるべきではないと思います。

 (参考)
1 内田貴著『民法Ⅰ (第3版) 総則・物権総論』438頁 財団法人東京大学出版会  2005年8月2日発行

 「改正不動産登記法は、権利に関する登記の申請の際、登記原因を証明する情報(登記原因証明情報と呼ばれる)の提出を必須とした(不登法61条。これまで必須ではなかった)。たとえば売買の場合なら、売買契約書や、売主が、契約の当事者・日時・対象物件のほか、売買契約の存在と当該売買契約に基づき所有権が移転したことを確認した書面または情報がこれにあたる。

従来は、登記実務は中間省略登記の申請を認めていなかったとはいえ、登記原因証書(旧不登法35条1項2号)の提出は不可欠ではなかったので(旧不登法40条参照)、AとCが移転登記を申請することにより、事実上中間省略登記が可能であった。しかし、今後困難になるといわれている。」


2 『月報司法書士(2005年4月号)』46頁 日本司法書士会連合会発行

「Q4 中間省略登記の可否は?
 A4 そもそも、法律上中間省略登記申請は認められていない。判例では『結果として現時点での真性な権利者に登記されているのであるから、そのなされた登記自体は無効にしない』ということである。したがって、中間省略登記の申請自体を肯定しているわけではない。

新法施行後は、登記原因となる事実または法律行為を証明する情報であって、当該原因に基づく権利変動が確認できる『登記原因証明情報』が必要的添付書類となったため、中間省略を伏せた内容での登記原因証明情報は虚偽の事実記載の情報を提出することとなる。もし『登記原因証明情報』の内容から中間省略であることが判明すればその申請は却下されることになる。

 中間省略との実態を知っての中間省略登記申請は受託すべきではない。」
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消費者契約法10条について

2007年02月25日 | 民法(債権総論、債権各論)
 次に書き込む内容は、あくまでも私自身の考えです。学者・弁護士の方の見解を披露したものでないことを最初にお断りしておきます。

 消費者契約法10条は、次のように規定されています(消費者契約法は、以下「消契法」という。)。
「民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序の関しない規定の適用による場合の比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」

 この条文を要件と効果に分けると、次のようになります。

① 民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序の関しない規定の適用による場合の比し、

② 消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、

③ 民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、

④ 無効とする。

 ①から③までは要件で、④は、その要件がすべて成立すれば発生する法律効果です。消費者契約が無効となるためには、この三つの要件が必要となります。

 ところで、③の民法第1条第2項は、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と規定されています。これを一般に信義則と呼ばれているものです。

 ここで、強調したいことは、民法の信義則が適用される範囲は、「民法、商法その他の法律」という制定法に限定されません。

 信義則は、「権利義務関係の当事者が社会共同生活の一員として、互いに相手の信頼を裏切らないように誠意をもって行動することが要請されることを宣明(され)、

(中略)

民法典は権利本位の法律思想の所産であるため、これを実生活に適用するに当たって、人間関係尊重の見地から形式的な権利義務の背後に信義の原則のあることが強調されてきた。

それが行動原理として民法典に取り入れられた。したがって、さらに遡っては、当事者間にどのような内容の権利義務関係が生ずるかを決定するに当たっても、この原則を標準とすべきものと解されている(最判昭和27・4・25民集6巻4号451頁)。

つまり信義則は契約の解釈の基準にもなる(最判昭和32・7・5民集11巻7号1193頁)。」(我妻栄外著『民法1 総則・物権法(第五版)』(一粒社、2000年4月25日発行)、現在は、出版社が勁草書房から第二版が刊行されています。)ものです。
http://www.populus.est.co.jp/asp/booksearch/detail.asp?isbn=ISBN4-326-45073-8

 上記のような信義則の理解からすれば、信義則と消契法10条との適用範囲については、信義則で効力を有しなかったり、または権利の一部を制限できる範囲よりも、10条の文言が想定している範囲は狭いという解釈は可能だと思うのです。条文の文言を素直に読めば、そのように理解することが可能だと考えます。

 そうすると、10条は不必要で無駄な規定となるのでしょうか?

 そのことを検討する前に、まず立法担当者の見解をご紹介したいと思います。

「 法文上『民法第1条第2項に規定する基本原則に反し』と明記していることから、本条に該当し無効とされる条項は、民法のもとにおいても民法第1条第2項の基本原則に反するものとして当該条項に基づく権利の主張が認められないものであり、現在、民法第1条第2項に反しないものは本条によっても無効にならない。」(内閣府国民生活局消費者企画課編『逐条解説 消費者契約法(補訂版)』177頁、商事法務、2003年3月18日発行)。
http://www.shojihomu.co.jp/newbooks/1041.html

 立法担当者の見解は、民法1条2項の信義則が適用される範囲と消契法10条が適用される範囲を同じだとしています。消契法は、民法1条2項の信義則では救済されない消費者の利益を擁護するために制定されたものではなったのでしょうか。

 また、立法担当者は、①消費者から解除・解約の権利を制限する条項、②事業者からの解除・解約の要件を緩和する条項等を無効としています(同書178~179頁)。

 立法担当者の見解は、法律を解釈する場合に尊重されるべきものだ(伊藤滋夫教授)と思います。しかし、一度、法律として制定されると、法律は立法担当者の手から離れて、“一人歩き”するものだと思います。

 以上から、私は、上記のような立法担当者の見解を支持することはできません。

 そこで、まず、一般に法律解釈をする場合には、無駄な法律や条文はできる限り存在しないという判断(法解釈の前提)が、多くの法解釈学者や裁判官の賛同を得られるのではないでしょうか。

 もしそうであるならば、消契法は、同法1条で「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並び交渉力の格差にかんがみ」という制定目的が規定されているので、これを手係りにすべきではないでしょうか?

 つまり、

 ①民法や商法その他の法律に規定された任意規定で、
 ②信義則違反とまでは言えないが、それに準じた消費者の利益を侵害する事業者の法律行為を、
 ③無効とする。全部無効を原則としながらも、一部無効の場合もあり得る(加藤雅信教授)、

 と考えればどうでしょうか?

 民法1条2項で信義則違反を問える部分を中核とし、その周辺に消契法10条が適用される射程範囲を想定するのです。

 この解釈は、消契法10条の「民法第1条第2項の基本原則に反して」という文言からは、ややかけ離れた解釈ですが、消契法が期待しているところは、この辺りにあるのではないでしょうか? 

 このように理解することによって、まさしく消契法10条は、民法1条2項という一般条項に対して、“ミニ一般条項”の位置に立つもの(松本恒雄教授)だと言えるでしょう。

 そして、この消契法10条の射程範囲は、今後の判例の積重ねによって、具体的な基準が形成されることになると思います。国会が裁判官に解釈を付託したものだと理解するのです。

 過去に民法1条2項が制定時から、「どんな行為が、信義則違反と言えるのか?」という検討がなされてきたと思いますが、今回、消契法10条はそれと同じ営みを裁判官に付託したものだと考えます。

 それでは次に、上記の解釈を前提とすると、消契法10条の要件に該当するが、同法10条違反にならない場合があるのでしょうか?

 私は、事業者が消費者の不利益になる契約について、

 ①事業者が第三者的な立場で、十分に消費者に説明し、

 ②かつ、消費者がそのことを理解して納得した内容であれば、言い代えれば、「情報の質及び量並びに交渉力の格差」が解消された場合で、

 ③たとえ消費者に不利益な内容を含んでいたとしても、合法と解釈すべきではないでしょうか?
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