板の庵(いたのいおり)

エッセイと時事・川柳を綴ったブログ : 月3~4回投稿を予定

エッセイ:「長崎に奇跡を呼んだ男(11)」2018.06

2018-06-06 10:29:01 | エッセイ
エッセイ:「長崎に奇跡を呼んだ男(11)」2018.06


最近はヤマト運輸,佐川急便など運転手不足により宅急便の配達問題がクローズアップされている。
2006年、ホリエモンこと堀江貴文氏がライブドアファイナンス社の証券取引法違反(粉飾決算)の容疑で東京地検に逮捕された。
当時はM&A(企業合併・買収)が盛んな時で、東大中退の若い起業家ホリエモンは時代の脚光を浴びていた。このホリエモンが「インターネットが進むと広告掲載が増えそれに伴う通販事業が活発になる時代が来る-------」と容疑を否認する会見で手八丁、口八丁のしゃべりをしていたのを覚えている。

今や地方都市の商店街は、シャッター通りへと変遷。一方通販による販売は増え続け、宅急便の配荷個数は年間40億個、なんと国民一人当たり年間40個も通販で商品を購入していることになる。 
 宅急便業者がパンクしそうなくらいの勢いで伸びておりホリエモンの予測した通りになっている。
 
通販業者は今ではアマゾンや楽天、他など夥(おびただ)しい数になっている。その中でも特異な存在に「ジャパネット・たかた(高田)」がある。テレビやラジオから聞こえてくる独特の甲高い男性の声によるコマーシャルだが、よくある10秒や20秒の短いものではない。2~3分で長い商品特徴を丁寧に説明するものである。 高田明社長自らが出身地長崎の平戸弁(?)のトークでコマーシャルに登場していたのであるから驚きであった。そのトークと共に人柄のせいか女性層には人気だとか。

父親の経営する平戸市や諫早市でカメラ販売、フイルム即日現像・手渡しで業績拡大し、その後ビデオやカラオケセットを販売。依頼された地元長崎放送のラジオ番組の通信販売トークで大成功をおさめたのを機に通販に進出。全国ラジオネットワークを達成後さらにテレビショッピングへと拡大する。
2013年に売上高千数百億円、営業利益が150億円に達したことから、2015年に社長を息子の旭人氏(東大理Ⅱ卒、野村證券)に交代し、自身経営の一線から引いた。

ところで、私はJリーグにはあまり興味がなく、日本代表が出場するWカップや他国との親善試合をみる程度である。しかしながら、日大アメフト事件他スポーツの不祥事や指導者の在り方について、元ジャパネット社長高田明氏の話を聞きJ1昇格と彼の気概に敬服した。
少し長くなるが以下にしたためた次第である。

ジャパネット社長を退任した高田氏は地元長崎になにか恩返しができることがないかと思案していた。
2017年にJ2リーグ、「V.ファーレン長崎」の債務超過や所属選手への給与未払いなどが相次いで発覚したことで存続の危機や3部への降格が危ぶまれたのを受けて、ジャパネット・ホールディングスは運営会社の完全子会社化へ踏み切る。代表取締役社長に就任した高田はクラブの所属選手を取り巻く環境を大幅に改善。
2012年から5年間J2リーグにとどまっていたチームも、昨年11月のホーム最終戦での勝利によって、高田の目の前でクラブ史上初のJ1リーグ昇格を決め「長崎の奇跡」と言われている。
 
以下は高田氏の言葉である。
「スポーツとビジネスの共通の目的は、人々を元気で幸せにするということです。今の社会にはいろいろな問題がありますが、スポーツを観ている間、人はすごくハッピーな気分になれますよね」
「私が考えていたのは、経営を安定させるのはもちろん、どうすれば監督と選手の気持ちを鼓舞し、J1昇格を目指してもらえるかということでした」

クラブがJ1リーグ昇格を決めた試合で、本拠地のトランスコスモススタジアム長崎(諫早市)には、今季最多となる2万2407人もの観客が詰めかけていた。何がきっかけで、ここまで大勢のファンが足を運ぶようになったのだろうか。

「チームが試合に負けなくなって話題に上がってくれば当然、スタジアムまで応援に行ってみようかとファンも増えてきますよね。あとはサッカーを観るだけではなく、お客さんが試合前・試合中・試合後と丸一日楽しめる空間作りをするにはどうしたらいいのか、あちらこちらを視察して勉強しました」

「たとえば、試合前においしいスタグル(=スタジアムグルメ)を味わえるようフードコーナーを活発にしてみたり、グッズの売り場を広げてみたり、子どもが遊べるような企画をしてみたり。試合のハーフタイムには花火をあげることもありましたし、J2としては珍しくスタジアムにLED看板を設け、臨場感を出しているというのもあります。そういった工夫を、コツコツと積み重ねてきたのです」

スタジアムまでは駅から徒歩で30分、これをバス輸送すれば簡単だがそれでは商店街は潤わない。ファンを飽きさせないでウオーキングを楽しいものにするために商店街に工夫をさせる。会社としてのバックアップ体制は順次強化しているという。

「V・ファーレンは元陸上選手の為末大さんに走り方の指導をしていただいており、メンタル面ではスポーツドクターの辻秀一先生を講師に招いています。また、タニタ食堂と契約して食事指導に乗り出したり、良質な睡眠の確保のため『エアウィーヴ』のマットを選手たちに使ってもらったりもしています。そういう環境づくりに投資をし、選手のコンディションを整えていけば、今後より一層の力を発揮してくれることでしょう」(

 これら以外にも、高田氏は自宅にて選手たちとの食事会を開いたり、今冬にはJ1昇格を祝して選手たちをハワイ旅行に招待する予定だったりと、その太っ腹な対応には世間から好意的な声が多い。そこにはいったい、どんな意図があるのか。

「自宅での食事会については取り立てていうほどのことでもないのですが、私もジャパネットを30年近く経営してきましたから、選手みんなの思いがひとつにならなければミッションを果たせないということはわかっているつもりです。モチベーションを上げるという意味では、食事会のようなコミュニケーションの機会はすごく有効です」

 「ハワイ旅行は、選手との食事会の席で私が酔った勢いで『J1に上がったら海外に一緒に行くぞ』と、つい言ってしまったのが最初でした。勢いで言ってしまいましたが、約束は約束として私財を投げ打ってでも個人的に連れて行こうと思います。シーズンオフの期間でも選手はみんな忙しいのですが、なんとか日程を調整したいと思っています」

 最後に、V・ファーレンにまつわる将来の展望は「『1年先、2年先にはどうなりたい』というより、一日一日をどのように改善・改革していくかを意識しながら、日々精進していこうと考えています。それを実行できたからこそ、今季はJ1昇格を決められたのだと思いますし、人間は常に自己を更新していくことが大事でしょう。“今”を一生懸命にがんばっていたら、目標には自ずと近づいていけるはずです。

 「それに、監督も選手もスタッフも特別ではなく、みんな同じ立ち位置にあります。スポーツから礼儀や挨拶を学び人間性を磨くということも、V・ファーレンのようなプロチームの課題ではないでしょうか」

 「ジャパネット以外のスポンサーや行政、ファンのみなさんの知恵を借りながら、これからもっともっとV・ファーレンを県民の誇れるクラブにしていきたいですね。そのための力がだんだん湧いてきていることを、私も実感しています」

 ジャパネット時代とはまた違った“名物社長”として、新たなキャリアを歩み始めたばかりの高田氏。長崎のみならず、日本中を大いに盛り上げてくれそうだ。(文=森井隆二郎/A4studio)