当屋から神社につくとまだ神社は閑散としております。ですが、楽屋の中は役者の若衆が当屋から届けられる唐戸(装束)を待っています。また、一緒に神社に向かっていた王祇様は、神社前の遠藤重左衛門宅で上座の王祇様が7度半の使いを立てて呼びにくるまで待っています。上下両座の王祇様がそろって宮のぼりをするんです。このとき、どちらの王祇様を早く神社の中に入れるかを競争するんです。これが朝尋常という勝負事になります。今日は両座の立会いのためこの朝尋常から4つの勝負事があるんですよ。
両サイドの高くなっているところを王祇様をもって走ってくるんですよ。そして、三番口といわれる小さな窓が両サイドについていて、そこから投げ入れて王祇柱といわれる柱に早く立てかけたほうが勝ちとなります。中で待っている側も、外で王祇様を投げ入れる側も酒も入り最高潮に興奮するひと時です。
お互い邪魔されないように、ガードはしっかりつけます。もめる気は誰もありませんが、もめた方が面白いと誰もがおもっているはずです。やはり勝負事ですのでやるときは相当真剣です。
今年の朝尋常は、上座の勝ちとなりました。王祇様がはいってっくる前の段階で、下座はこけてしまいましたので、もめるような僅差の勝負にはなりませんでした。これがおわると少しの間休憩状態となります。2時間ぐらいは休めます。それから祈祷が始まり神社での演能へと移っていくんですよ。
私が再び神社へ戻ったときはすでに上座の絵馬が始まっていました。遅刻といった感じです。下座の楽屋ではすでに高砂の着付けがはじまっていました。
当屋と違い神社では居る場所がここの楽屋ひとつしかないので、相当狭く感じます。着付けをするにしても、楽屋の4分の1ほどしかスペースが取れないんです。
神社の舞台には、両当屋の王祇守、提灯持、当屋当人が座って見守っています。その境にある王祇柱には2体の王祇様が立てかけられているんですよ。
神社の舞台は、当屋の舞台とは勝手が違います。下座の場合、当屋とは橋掛かりが逆になるんです。黒川は上座と下座が舞台の両側に配置してますので舞台には両側に橋掛かりがあるんですよ。おかげで同じ番組をしても動きが違ってくるんで実はややこしいんです。
出番を待つ大地踏の子です。同級生の子供なんですよ。当屋では大地踏から能は始まりますが、神社では能の後と順番が逆になります。ちなみに大地踏を演ずる子は1年に4人になります。上下両座の当屋と神社でも上下1人づつです。
この子は7歳だそうです。結構長いセリフもあるんですが、1ヶ月よくがんばって練習したというすばらしいできでした。これが終わるといよいよ祭りのクライマックスへ入っていきます。この後、式三番が行われます。
これは三番叟です。これがはじまると盛り上がりも最高潮になってくるんですよ。演能しているにもかかわらず、舞台の後ろで、若衆が声を張り上げ跳ねて踏み鳴らします。これが終わってすぐに棚上がり尋常が行われるのでいやおうにも盛り上がるんですよ。
棚上がり尋常は、舞台上にある棚に両座2人の棚上がり衆を早く上げて、同時に王祇様を上の梁にかけることができるのかを競う尋常になります。棚上がりも朝尋常に続き上座が勝ちました。
残り2つの勝負は同時に行うんです。ひとつは餅きり尋常、もうひとつは布剥ぎです。
餅きりは、写真にある1斗の掛け持ちを落とす勝負です。これがなかなかおちないんです。もうひとつは王祇様に巻かれている布を来年の当屋の王祇守に巻きつける勝負になります。
この残り2つの尋常は、久しぶりに下座の勝利となりました。この落とされたもちは今年の当屋へ持ち帰り、小さく切り分けられ氏子に配られます。また、王祇様からはがされた布は来年の当屋へ帰り、来年の当屋当人の装束になるんですよ。
これが終わるとほんとに今年の祭りが終わったということになります。
36時間の長丁場がやっと終わります。