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最近はフィギュアスケートと歌舞伎鑑賞記録が主流でござります

NODA・MAP 「ロープ」

2007年01月17日 | 舞台・コンサート
野田地図公演見てきました。野田さんをコクーンの客席でお見かけしたことはあるけど、舞台に立つ野田さんを観るのは今回が初めてです。
主演の竜也君を始め、新選組!キャストも野田さん、宇梶さん、三宅さん、そして1話のみ登場だった橋本じゅんさんや中村まことさんなど含めると6名も。更に宮沢りえさんや渡辺えりこさんなど、いろんなカラーの役者で舞台が溢れかえってました。キャストの名前だけでもすでに期待が膨らんじゃいます。

タイトルの「ロープ」と聞くと、なんとなく上から垂れ下がっている上っていくための綱をイメージしそうですが、これはプロレスの四角いリングに張られている「ロープ」を指していて、プロレスを取り巻く人達の話なんです。そして、なんと竜也君はプロレスラーの役!でも細くて白くて、とてもプロレスラーには見えなかった(笑)しかかもこのレスラー「ヘラクレス・ノブナガ」はプロレスの世界が八百長であることを認めたくなくて、リングサイドの部屋に引き篭もってしまいます。そこに彼の仲間のレスラーやレフェリー、はたまたケーブルTVの取材クルーがノブナガを引っ張り出して試合をさせようとしているところから物語が始まります。

前半はとにかく笑いの連続。野田さんの芝居は言葉遊びが巧みで、実に巧妙に台詞ができているな~と感心しまくりでした。竜也君のノブナガがリングに登場するところでは(竜也君じゃなくタッグ組んでる橋本じゅんさんが替え玉として登場なんだけど)「俺はキラじゃねぇ~!」とデスノネタも出てきたりして爆笑。渡辺えりこさんが野田さんをど突いたり水吹きかけたりキスしたり、とにかく面白くて、舞台の4分の3が過ぎるあたりまでは完全にコメディ演劇なのだと、そう信じきっていました。

しか~し、約2時間の芝居が終わったあとはとにかく気分が重くてしょうがなかった(苦笑)面白かった、楽しかった、爆笑の連続だったハズなのに…さんざん笑わせておいて油断させて、最後にすっ転ばされてド~ンと鈍器で殴られたような感じでした。そういえば野田さんの舞台ってこうだったかも…。私はこれまで野田歌舞伎でしか野田作品は知らないんですけど、歌舞伎の時も「鼠小僧」や「研辰の討たれ」はさんざん笑わせておいて、最後にずーんとシリアスになって終わってたんだよね。「ロープ」はそれらをさらに上回る重さでしたけど(^^;

今回のタイトル「ロープ」の意味するものは、現実と虚構の境界線なんですね。プロレスはお客を楽しませるために、そのロープの張られたリングの中ではいくらでも虚構を演じてみせるわけです。八百長というと聞えが悪いけど、プロレスはガチンコ対決よりもショー的な要素が強く(もちろんガチンコ試合もありますけど)、例えばクラッシュギャルズVS極悪同盟みたいに、主役と悪役がきっちり分けられています。私も小学生の時に髪切りデスマッチとか観て、クラッシュが負けた時は泣いたなあ(笑)極悪同盟は椅子投げとか凶器攻撃、あげくにレフェリーぶっ飛ばしたりと何でも有りだったから、見ていて本当にムカついたし、その中で正義役であるクラッシュギャルズが勝つとめちゃめちゃ嬉しかった。ちょっと前によく深夜でやってたアメリカWWEのスマックダウンとかもエンターテインメント演出に徹底してましたね。あれ大好きだったなー。
と、格闘技好きの話はさておき(^^;ゞ、そのロープの中で起きることは虚構であり演出であり、そこで流れる血は偽物で、痛そうに見えても視聴者にとってはなんら苦痛を催すことではなく、むしろもっとやれ!となるわけです。たとえそこでレスラーが半殺しの目に合わされても、ロープの中では罪には問われない。そりゃいちいち傷害罪で訴えられてたらレスラーはやっていけないですもんね。確かに冷静に考えたら怖いかも。人が殴りあい、時に流血する姿を見て喜んでるんだから。
そして、視聴者とTVを制作する人間達の欲求はどんどん高まって、遂にはロープという境界線の中で戦争が実況中継されます。レスラーが対戦相手を傷つけても訴えられないように、軍人は人を殺しても罪にはならない。顔の見えない覆面レスラーを倒すように、顔の見えないベトナムの村民を次々と殺していくアメリカ兵の姿が、まるでプロレスの実況中継のように血を流しても無感情に淡々と伝えられていくのです。
もうね、そのムゴさに耳を塞ぎたくなりましたね。台詞がこんなに酷いものだと思えたのは初めてかも。殺していく様を演じて描写しているわけではなく、ただ言葉だけで実況されてるだけなのに、本当にきつかったー。
プロレスの世界が突然、ベトナム戦争の惨劇に変わるというこの繋がりには驚きました。さっきまでプロレスをしていたはずのレスラー達が、銃を持ち、「これは演出だろ?」「社長の指示だよな?」と疑問に思いながら、自分たちが正義であると信じて村民を殺していく。そしてそれを見ている視聴者(観客)がいる。
でもこれはショーでもなければ虚構でもない。舞台は野田さんが創ったものだけど、あの実況中継の一言一言は実際に起きた出来事を語ったもの。戦争は現実なんです。
あったことを無かったことに、見たことを見なかったことにしてはいけない。
それは戦争に限らず、広く社会的な問題の中でも言えることですね…。

舞台のセットのホリゾント幕に、ずっと人の名前らしきものがずらーっとたくさん並んでたんですが、後で他のブログなどで見たら、それはそのベトナム戦争時に米兵に襲撃された人達の名前と年齢が記されてたようです。それがずーっと舞台のバックに使われてたんですね…。
セットといえば、野田さんは歌舞伎の時も回り舞台を使うのが上手いなと思いましたが、今回もそれが生かされてました。プロレスだからリングが置いてあるんですけど、そのリングは手前側に高く傾斜してたんですね。最初、なんで斜めのリングになってるのかな~と疑問だったんですが、まあリングサイドの下からリングを見ているアングルなのかなと。序盤、リング外でのストーリー展開中はずっとその状態でしたし。でもそれが実際にリングを使って試合の場面などやる時には、そのリングがぐるりと回って手前が低くなり、それがリングをちょっと上から眺めてる視点に変わるので、さもTV中継とかで見ているようなアングルになるんですね。あー斜めにしたのはこういうことか!となんか感激してしまいました。でも斜めの舞台でプロレス技をやるのは大変そうでしたけどね(笑)


舞台で見る野田さんは失礼ながら本当に小さくてびっくりしました。前に見かけた時も、私自身が長身な故、とても小さい方だなと思いましたが、舞台だともうちょっと大きく見えるかなと思ってたので…。でも、小さいけど目がいくんですよ。その動きに惹きつけられましたね。見ていて面白い。野田さんと常に一緒に出てくるのが渡辺さんと三宅さんなので、もう個性が強くてそれぞれ凄いんですけど、でもやっぱり野田さんの存在感は良かった。役柄は奥さんに尻に引かれて(ほとんどつぶされて)る気の小さい男なんだけど、それなのに目が行ってしまうんですよね。凄いわ。

宇梶さんは悪役レスラーの役なんだけど、カッコイイ!身体が筋肉で引き締まっていて、かなりトキメキました(笑)長身だからスタイルもいいし。悪役レスラーの恐さ、強さを出しながら、でも実はファンに愛されたくて、自分の恐い顔を隠すために覆面を被って新たなレスラーになるという設定は、彼を主役にして新しい別の物語が作れそうだと思いました。

宮沢りえさんは最初出てきた時にすぐにわからなかったぐらい、予想していたキャラと違っててビックリしました。昔こそ「ぶっ飛び~!」とか言ってはっちゃけてたけど、最近は伊右衛門のCMとかみたいに落ち着いたイメージだったから。それにちょっと喉が潰れてたのかな?声がハスキーで全然違う声だったんですよね(^^; だからなんか最後まで違う人を見ているような感覚でした。

竜也君は竜也君っぽいなーと思うような古典芝居の台詞まわしなんかが時々あって、どこかこう現代人っぽくない部分も若干あったかな。でもあえて、皆がとてもリアリストな中で、ただ一人(途中までは)プロレスはガチンコであることを求めてるキャラだったからその浮いた感じが狙いだったのかも。でも、オレステスとかだと、芝居をしている藤原竜也を観たぞ!という感じがあったんですが、今回は藤原竜也の芝居を観たという感じはあまりなかったんですよね。他の人もそうだけど、この人のこういう芝居が良かったとかそういう印象はあまりなくて、皆が野田ワールドの中に徹してた気がします。それだけ野田ワールドを体感したぞ!という印象のほうが濃かったですね。

内容が内容なだけに、見終ったあとはいろいろ考えさせられましたが、一度観ただけではなかなか理解するのは難しいなと思いました。上手く自分の中で整理がつかない感じ。だったらこんな長々と感想書くなという感じですが(苦笑)早くWOWOWあたりでやらないかな。最後のあの実況を聞くのはちょっと辛いですけどね(^^; あ、戯曲本出てるんでしたっけ。
でもいろいろ考えたくなる芝居を観るのは楽しいです。三谷さんがよく自分の作品について「観終わった後に何も残らない」と言っていて、確かに野田作品のように真剣に深く内容について考えてしまう作品ではないのかもしれないけど(笑)でも三谷作品を観た後は「あー面白かった!よし、明日からも頑張ろう」というような元気というか、楽しい充実感が貰えますからね。
本当に何も残らない作品というのは、観た後に何の感想も出てこなくて「金と時間返せ」と後悔する作品ですね。なかなかそこまで思う作品は無いけど、そういうのに当ってしまった場合は、本当に腹立ちますもん(笑)

私はいつも芝居のパンフレットは必ず買うんですけど、今回は1000円と他の芝居と比べても安い上に、さらに野田さんと勘三郎さんの対談が載ってたんですよ!それがすごく面白くて♪♪なんとお得なパンフだと思いましたね。
二人とも同い年でぶっちゃけ話がいろいろできるせいなのか、お互いストレートに言葉が飛び交って凄かった。吉右衛門さんの話とか、野田さんそんな直球に言っていいの?とか思ったし(^^; 勘三郎さんも「早くしないと遊民社が永眠社になっちゃう」とかズバズバ言うし(笑)
でもその中で、今回のロープの内容に絡んで、勘三郎さんが「うちの長男は今でもプロレスが本当だと信じている」と語ってたのが可笑しかったー。勘ちゃん、なんて純粋な子!(笑)そんな純粋さを舞台では竜也君が演じてるんだから、総司と平助のコンビが好きだった私にはなんか嬉しい♪

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