
トランプ米大統領が2日(日本時間3日未明)に発表する「相互関税」の内容次第では、世界貿易に大きな打撃となるとの懸念からマーケットは強い危機感を持って見守っている。中国や欧州連合(EU)の巨大な貿易相手国や隣国のカナダなどが「報復関税」の発動に動けば、金融・資本市場はグローバルにリスクオフ一色となり、マネーは株式などのリスク資産からキャッシュや米国債などの安全資産にシフトするだろう。
トランプ関税の賦課による日本株の脆弱さは広く海外勢に認識されており、直近の5週間で海外勢は約5兆円の日本株を売り越している。自動車産業の輸出に依存した日本経済の歪んだ構造を国内勢よりも海外勢が正確に把握していた証拠ともいえ、この先にリスクオフ心理が沈静化しても日本株にマネーが戻ってくるのか不透明感が高い。日本株は出遅れたままでしばらく放置される可能性も出てきた。
<相互関税は発表後に即時発効>
ホワイトハウスのレビット報道官は1日の記者会見で、相互関税は2日に予定されているトランプ大統領の発表後に即時発効し、輸入車に対する25%の関税も予定通り3日に発動されるとの見解を示した。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、米通商代表部(USTR)が一部の国に対する一律の関税案を準備し、20%の関税を下回る公算が大きいと報じた。ただ、ロイターによると、ホワイトハウス当局者は、2日のイベントに先立ついかなる報道も「単なる憶測」と述べた。
<中国やEUなどの報復関税も、世界貿易は大打撃必至>
複数の市場関係者によると、トランプ大統領による相互関税の内容は事前にはっきりしないものの、中国やEU、カナダなどが報復関税の実行を明らかにすれば、短期的にも中長期的にも世界の貿易量に多大な打撃を与え、市場のリスクオフ心理が一気に強まるという。主要市場の株価は軒並み下落し、マネーは安全資産とされる米国債やキャッシュに流れ込みそうだ。
短期の安全資産とされる米マネーマーケットファンド(ММF)には昨年末の段階で7.2兆ドルの資金が流入しているが、2日のトランプ大統領の相互関税発表後は一段と流入が加速されるとみられている。
<関税収入が6000ー7000億ドルという米政権の目論見>
ただ、鉄鋼・アルミや自動車など個別の品目を対象にした25%の関税賦課が公表されて以降、すでに大量のマネーが米国債やММFなどに流れており、待機資金の規模がさらに膨らんだうえに長期間にわたって低リスクの商品にとどまることに懐疑的な見方もあるようだ。
しかし、今回のトランプ大統領による個別品目や相互関税の適用は、既存の貿易システムによる大きな恩恵を受けているはずの米国による「破壊行為」ともいえ、これまでに経験したことのないインパクトが世界経済に波及する可能性があると筆者は指摘したい。
2024年の米貿易収支における輸入総額は3兆2955億ドルだった。米有力メディアなどの試算によれば、いわゆる「トランプ関税」によって6000億ドルから7000億ドルの新たな収入を得て、トランプ減税の恒久化や上乗せ、その他の税還付などに充てる財源とする計画だという。
<世界のGDPが0.6%減少の試算、企業や個人の心理悪化で負のスパイラルも>
だが、米国民が税還付を受け取る前の段階で世界経済が大混乱に陥り、パニック的な心理がグローバルに拡散すれば、米国が受ける「返り血」も多くなり、トランプ政権の支持基盤が動揺する可能性もある。
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の試算によると、相互関税と中国に対する20%の追加関税に加え、全世界から米国への自動車産業の輸入について25%の関税が課された場合、2027年の米国の国内総生産(GDP)は2.5%減少する。そのケースでは世界のGDPも0.6%減少することになる。
その前にマーケットは先取りして経済の悪化を織り込んでいくので、世界の主要市場における株価が急落し、そのことで個人や企業経営者の心理を悪化させ、個人消費と設備投資を落ち込ませるだろう。上記の試算にその部分が加わると筆者は考えるので、負のスパイラルはかなりの規模に拡大すると予想する。
<香港・ドイツ市場で株価上昇、下落の日本株に自動車依存の構造的欠陥>
今年1月20日のトランプ氏の大統領就任から足元までの期間で主要国の株価を見ると、中国の人工知能(AI)開発企業、ディープシークが開発した低コストで高性能なAIの登場でハイテク分野での「米1強」が崩壊するとの思惑も加わって、ナスダックが約12%の下落となった。日経平均株価も8%を超える下落となり、大幅に上昇した香港やドイツの株式と好対照となっている。
この背景には、3月31日の当欄で指摘したように日本の自動車産業の対米輸出に過剰に依存した日本経済の歪みを海外勢が客観的に見ていたということだろう。実際、2月16日から3月22日までの5週間に海外勢はネットで4兆9975億円の日本株を売り越していた。
世界的に待機資金の規模が膨張し、トランプ関税の全容が判明して現在よりも不透明感が相対的に低下すれば、マネーが新たな投資先を求めて動き出す時が来ると予想する。その際に日本株が選好されるのかどうか──。筆者はかなり懐疑的だ。
というのも、対米黒字に依存した日本経済はトランプ関税による打撃を最も受けやす経済構造となっており、自動車産業に代わる稼げる主力産業がない、という厳しい現実があるからだ。
<4月2日は「ちゃぶ台返しの日」になるのか>
光明があるとすれば、それは先に言及したジェトロの試算が現実化したケースだ。その試算では確かに自動車産業は日本のGDPベースで0.8%縮小するが、電子・電機産業の分野でプラス1.7%となり、GDP全体ではプラス0.2%ということになる。
対照的に中国のGDPは食品加工やその他製造業の落ち込みが大きく、GDP全体ではマイナス0.9%となる。
2日(日本時間3日未明)から始まる大激変をトランプ大統領は「解放の日」と呼んでいるが、世界貿易全体から見れば既存システムを破壊する「ちゃぶ台返しの日」となるかもしれない。
しかし、パニックにならずに事態を静観し、米国民がトランプ関税のマイナス面に気付いて修正の力を発揮する日が来ると信じて耐えることが必要ではないか。
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