
トランプ関税の影響が日本の貿易収支のデータに波及してきた。財務省が18日に発表した5月貿易統計によると、対米輸出額は前年同月比マイナス11.1%の1兆5140億円となった。特に25%の上乗せ関税が実施された自動車は同マイナス24.7%の3633億円と大幅に落ち込んだ。
ただ、数量ベースは同マイナス3.9%の10万2653台となり、メーカー側が輸出価格を引き下げて輸出台数の確保を図った可能性があり、内部留保の厚いメーカーが関税分を自己負担し、日米関税協議が長期化した場合でも当面は「内部留保の活用」でシェアを確保しようという持久戦が始まった公算が大きい。
<対米輸出、自動車部品やバス・トラック、半導体等電子部品の落ち込み目立つ>
5月の輸出全体は前年同月比マイナス1.7%の8兆1349億円、輸入全体は同マイナス7.7%の8兆7726億円、貿易収支は6376億円の赤字だった。赤字は2カ月連続。
国別の輸出額は米国が同マイナス11.1%の1兆5140億円と大幅に落ち込んだのが目立つ。中国も同マイナス8.8%の1兆4441億円と減少幅が大きかった。
対米輸出で減少幅が大きかったのは、同マイナス24.7%の自動車に加え、同マイナス19.0%の自動車部品、同マイナス49.9%のバス・トラック、同マイナス29.3%の半導体等電子部品、同マイナス9.0%の原動機などが目立つ。
<輸出価格の引き下げ、巨額の内部留保活用で長期化にも対応可能>
6月11日の当欄で指摘したように、内部留保の厚い一部メーカーは関税分を自社で負担するかたちで輸出価格を下げて対応し始めているようだが、5月貿易統計ではその動きが明確に把握できたと言える。
日本企業は636兆円という巨額の利益剰余金を積み上げており、日米関税協議が7月上旬までに合意に達しない場合でも、関税分を自社で負担して日米交渉妥結まで「耐える」という持久戦の備えは十分に出来上がっている。
<輸出価格下げない米欧メーカー、下げた日本勢と20%超の価格差発生も>
輸出価格の引き下げで対応することは、短期的には株安材料とみられる可能性がある。関税分を米政府に吸い上げられる形になるからだ。
だが、米欧の企業はマーケットの批判を恐れて大幅な内部留保の積み上げを回避する政策を取ってきた。したがって一部の日本メーカーのように輸出価格を引き下げてトランプ関税に対応できる「体力」が、どの欧米メーカーにも備わっているわけではない。
もし、欧米の複数の有力メーカーがトランプ関税の税率分をそのまま販売価格に上乗せした場合、輸出価格の引き下げで対応した一部の日本メーカーとの間には、関税上乗せ分(25%)に相当する価格差が生じることになる。
激しい販売競争を展開する米国における自動車販売市場において、20%を超す価格差は市場シェアに大きな変動を生む可能性があると指摘したい。
<すでに明暗、5月のメキシコから米国への輸出でメーカー間で落差>
実際、5月のメキシコからの自動車輸出台数でメーカーごとに明暗が分かれた。トヨタが同プラス29.6%、ホンダが同プラス28.7%、日産が同プラス14.1%、フォードが同プラス7.1%だったのに対し、マツダが同マイナス63.1%、フォルクスワーゲンが同マイナス32.4%、GМが同マイナス18.4%と落ち込んだ。
対米輸出にかかる関税は、米国製部品の使用率を差し引いた割合に関税をかける方式が採用され、米国製部品を使用する割合が多いメーカーの自動車ほど、適用される関税率が低くなる仕組みになっている。
日系メーカーにおける5月の輸出台数の明暗は、米国製部品の使用率によって生じた可能性が高いとみられているが、経営体力のあるメーカーが関税相当分を値下げし、その効果もあってシェアを拡大させた可能性がある。
<日本勢のシェア拡大継続なら、米メーカーからトランプ政権に関税政策修正の要求も>
米自動車関税の影響が統計のデータに影響を与え始めたが、この先の展開がどうなるかは日米関税協議の行方に大きく左右される。
もし、日本勢の価格引き下げ効果が予想を超え、米国の自動車メーカーのシェア低下が鮮明になった場合、米自動車メーカーや自動車関連労組がトランプ大統領と政権チームに対し、自動車関税のあり方について修正を求めることになるのではないか、と筆者は予想する。
トランプ関税が米国勢のシェアを押し上げるのか、それとも別の展開になるのか。今後のデータに市場関係者の注目が集まりそうだ。
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