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一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

「内田プット」投入されず、長期金利上昇のけん制もなし 3月会合は「ライブ」

2025-03-05 15:30:54 | 経済

 日銀の内田眞一副総裁は5日、静岡県金融経済懇談会で講演し、日銀の経済・物価見通しが実現していけば引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくとの方針をあらためて示した。前日までに日経平均株価の大幅下落や148円台へのドル安・円高進行で、株価のサポートや円高方向の流れを止める内田副総裁の発言(内田プット)を期待した一部の市場関係者の思惑は空振りに終わり、長期金利の上昇をけん制する発言もなかった。

 同日午後の会見では、金融政策の判断は毎会合ごとに経済や物価の情勢を見て決めると述べ、あえて3月会合での政策維持の可能性を示唆することもしなかった。マーケットの3月会合での利上げ織り込みはゼロ%だが、会合の結論がどうなるのか断定できないという意味で「ライブ会合」と言えるのではないか。

 

 <株安・円高防止の援護射撃なし>

 この日の東京市場では、3万7000円台に沈んでいる日経平均株価やトランプ米大統領の円安批判で一時、148円台まで円高が進展した市場情勢を受け、日銀の内田副総裁が「利上げ検討を急いでいない」という趣旨の発言を行って、株安と円高を止める方向での援護射撃的な対応があると期待する声がかなりあった。

 保有株式の損失を限定するプット・オプション(売る権利)と同じような役割を内田副総裁の発言に期待するという意味で「内田プット」が投入されるとの予想は、5日朝の段階で一定の広がりを持っていた。

 だが、内田副総裁はこれまでの日銀のスタンスを繰り返すかたちで、来年度後半から26年度中までの1年半の間に現実の物価と基調的な物価がともに2%程度になるとし、経済・物価見通しが実現していけば「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していく」と述べたものの、より慎重に検討していくとの発言はなかった。

 また、5日の市場で長期金利(10年最長期国債利回り)は一時、1.450%まで上昇したが、内田副総裁は、市場で形成されるプライスは市場機能として重要であると指摘。それに対して、低い、高い、おかしいと日銀が言うことは避けるべきとの見解を示し、けん制するような発言はなかった。

 

 <頻繁に購入する品目の物価上昇に言及>

 こうした点を踏まえ、筆者が注目したのは、購入頻度の高いモノの価格に内田副総裁が言及した点だ。「物価予想に与えうる影響については、十分に注視すべき」と述べた。1月全国消費者物価指数(CPI)では、年間15回以上購入する「頻繁に購入する品目」が前年比プラス6.2%という大幅な上昇になっており、日銀として物価情勢を判断する上で無視できない要素になっていることをうかがわせた。

 この日の講演や会見で、物価上振れに関する直接的なコメントはなかったが、「頻繁に購入する品目」やCPI総合がこの先、一段と上昇するリスクが高まるようなら様々な分野に及ぼす影響度合いが強くなり、日銀の政策判断に影響を与える可能性が高まってくると予想する。

 また、金融政策の基本的なスタンスとはいえ、金融政策の判断について「毎回の会合で経済と物価の状況を見て判断する」と述べ、3月会合での現状維持のニュアンスを強めることはしなかった。

 

 <UAゼンセン10組合、集中回答日前に満額回答 6.71%の賃上げ率>

 日銀が重視する春闘での賃上げは、3月12日が集中回答日となっている。日本経済新聞によると、流通や外食、繊維などの労働組合が加盟するUAゼンセンに加盟するイオングループ労連やアシックスユニオンなど10組合は、集中回答日を前に満額回答を得て妥結。早期に妥結した組合の正社員の賃上げ率は平均で6.71%(2万0015円)、パートは6.97%(時給83.5円)だった。

 パートの賃上げ率が高くなっている背景には、深刻な人手不足の下での優秀な人材の囲い込みという傾向があり、集中回答日における賃上げ率が昨年並みの5%台を維持し、さらに上回る可能性があると予想されている有力な根拠となっている。

 3月18-19日の日銀金融政策決定会合では、こうした賃上げをめぐる最新の情報を入手しつつ、金融政策を判断していくことになる。マーケットの利上げ予想はゼロ%ながら、賃上げ率の動向や物価上振れに関するリスク度合いの高まりがあれば、3月会合における議論が「政策維持」ありきで進められると決めつけるにはリスクがあると考える。

 その意味で3月会合も「ライブ会合」であり、会合直前までの日銀首脳陣の国会での情報発信や政府関係者からの発言に細心の注意を払うべきだと指摘したい。

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