国民民主党が主張してきたいわゆる「103万円の壁」を178万円に引き上げる主張は、自民党と公明党の与党が拒否し、国民民主党は2025年度予算案に反対することになった。税の増収分などを除き明確な財源を示さなかった国民民主の主張には「赤字財政の拡大」に歯止めがかからなくなるという懸念が浮上したが、細かな所得制限を付けた与党案が広く国民の支持を得るのか、筆者は大いに疑問がある。
足元で消費者物価指数(CPI)の総合は4.0%まで上昇し、「頻繁に購入する品目」は6.2%まで上がり、物価高の実感はコア(生鮮食品を除く総合)の3.2%を大きく上回っている。このまま物価高を放置すれば、石破茂政権への信任は大きく動揺し、今年7月の参院選で与党が敗北する可能性もある。主要7カ国(G7)の多くで与党が敗北している背景にあるのは、総じて「物価高」への反感だ。物価高への国民の反感を軽視すれば、参院選敗北による石破首相の退陣というシナリオの可能性が高まると予測する。
<非課税枠の引き上げ、減収は1.2兆円 財政悪化と折り合い>
与党案では、年収200万円以下を対象に所得税の非課税枠を160万円まで引き上げる。それ以上の所得階層については、200万円超ー475万円以下、475万円超ー665万円以下、665万円超ー850万円以下の3つに分け、それぞれ非課税枠を153万円、133万円、128万円に設定し、25-26年の特例措置とする、となっている。
減収規模は1.2兆円と国民民主の主張する178万円への引き上げに必要な7-8兆円に比べて「エコノミー」な規模となり、財政赤字の膨張阻止との折り合いをつけた結果と言える。
<所得制限で迷路に>
だが、この与党案の内容を「そらんじて言える」与党議員は、税制調査会のメンバーぐらいではないか。あまりに複雑過ぎて、税制になじみのない一般の国民には理解が難しいと思われる。
税は、簡素、公平、中立が大原則だが、迷路みたいな新しい仕組みは国民の共感を呼ばないだけでなく、今後のインフレ進行に伴う非課税枠のスライドというシステムも導入されず、筆者には「改悪」に映る。
<手取り増が参院選の争点なら、与党苦戦も>
今回の与党と国民民主の協議決裂には、国民民主側にも一定の責任があると指摘したい。立憲民主党が25年度予算案の修正要求の一環として、積み過ぎた基金を削減して別の歳出に振り向けると提案したが、このような具体的な財源確保のためのアプローチがあれば、事態は別の方向に動いたかもしれない。
今年7月の参院選で、国民民主の玉木雄一郎代表(役職停止中)が目論む「手取りを増やす政策」とそれに反対の政党という「対立構図」がもし、出来上がるなら与党は大苦戦を強いられる可能性が高まる。
<国民民主とれいわが支持率上昇>
すでにその前兆は、各種の世論調査で見え隠れしている。国民民主が野党で最も高い支持率となっている世論調査が多く、中でも産経新聞が22-23日に実施した世論調査は注目を集めた。国民民主が9.8%と野党トップになっただけでなく、18-29歳では国民民主が18.9%と自民の11.8%を上回った。さらに30代で国民民主が15.9%、れいわ新選組が14.4%となり、自民は3位の11.2%にとどまった。
注目されるのは、消費税の廃止を強く主張するれいわの伸長ぶりだ。消費税の廃止は、赤字財政をさらに悪化させることにつながると多くの識者が指摘し、少し前の世論調査では消費税廃止に賛成する声は少数派だった。ところが、ここにきて大幅な税収減が予想される国民民主の「手取り増」や消費税廃止を訴えるれいわに若い世代の支持が集まりつつある。この現象をどのように捉えるべきか──。
<日常生活に近い物価、1月に6.2%上昇 エンゲル係数も43年ぶり高水準>
筆者は、様々に存在する多様な要因の中から、物価高による生活へ悪影響を指摘したい。総務省は全国CPIの発表時に購入頻度別の物価の状況を公表しているが、1月CPIでは年間15回以上購入する「頻繁に購入する品目」が前年比プラス6.2%という大幅な上昇になった。
582のモノ・サービスのうち、食パン、豚肉、牛乳、卵、キャベツ、レタスなどにガソリンや診療代など44品目が対象になっている。このような購入回数の多い商品やサービスの価格が、総合やコアなどを大きく上回っている実態は、生活面での圧迫をより感じさせることになる。
2024年の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.3%と43年ぶりの高水準となった。G7の中では最も高くなっており、食料品を中心とした生活に密着した品目の値上がりは、政権や与党への反発を生みやすい。
<物価上振れリスク軽視なら、石破政権に「無策」の批判も>
今年7月に予定されている参院選では、半数の124議席に東京選挙区の欠員1を加えた125議席を争うことになる。非改選の多い自民は公明と合わせて現有の66議席を下回る51議席を確保すれば、参院の過半数を維持できる。
過半数が維持できれば、石破首相の政権続投が固まるとみられるが、足元における物価高への反発は、野党に支持が向きやすい地合いを作りつつある。先にも触れたように、国民民主やれいわのような財政支出の膨張に傾きやすい政党に支持が集まるようなら、前回の衆院選のように公示前に「予想外」と見られていた与党の過半数割れの可能性もゼロではないかもしれない。
物価高への反発は、主要先進国で与党敗北の連鎖を生んでいる。その典型は米国でのトランプ大統領の再選だろう。
物価高は、消費を抑制することで国内景気の停滞にもつながる。このまま、食料品価格の上昇を放置していけば、石破政権に対して「無策」という批判が噴出するかもしれない。物価の上振れリスクは政権のリスクでもあると指摘したい。