▼甘い牢獄。映画「ゴーンガール」
「インターステラー」(169分)、「6才のボクが、大人になるまで。」(165分)
「フューリー」(135分)、「0.5ミリ」(196分)・・・
どうしたことか、今年の映画賞に絡んくる作品は洋邦問わずに長い。
2時間オーバーは当たり前、安藤桃子の「0.5ミリ」に至っては3時間オーバー。
潰瘍性大腸炎を患っている私にはハードルの高い作品ばかりだ。
(映画で中座したくない派なので)
今週末より公開される作品も「ホビット 決戦のゆくえ」(144分)があり
今回紹介する「ゴーンガール」も149分。どうしたんだ映画界。
なるべく2時間にまとめてくれ。
というわけで「ゴーンガール」に話を戻そう。
ギリアン・フリンの同名ベストセラーを映画化したのは
「ゾディアック」「ソーシャル・ネットワーク」デヴィッド・フィンチャー。
主演は「アルゴ」のベン・アフレック、共演は「アウトロー」のロザムンド・パイク。
結婚して今年で5年目を迎えるニックとエイミーは誰もが羨む理想のカップル。
しかし、ニックの親を介護するためミズーリ州の田舎町に引っ越した時から歯車が狂い始める。
5年目の結婚記念日の朝、突然エイミーが姿を消してしまったのだ。
部屋には争った痕跡があり、キッチンからルミノール反応が認められたことから
警察は失踪と他殺の両面で捜査を開始する。
田舎町に不釣り合いなセンセーショナルな事件は瞬く間に話題沸騰となり
全米中からマスコミが殺到する。
最初のうちは愛する妻を奪われた不憫な夫と見られていたニックだったが
捜査が進むうちに不可解な言動や証拠が次々と発見される。
憐れみの視線はやがて疑惑に変わり、ニックは窮地に立たされる。
果たしてエイミーはどこに行ってしまったのか。
地道な捜査活動と、少しずつ明らかになる裏の顔。
起伏の少ない、しかしリズミカルに進む展開の上手さは
さすが「ソーシャル・ネットワーク」や「ゾディアック」のフィンチャー。
「ソーシャル~」ほど早口でもなく「ゾディアック」よりも明快なストーリーのため、
まるで観ている自分までがミズーリの住人のように錯覚し、目が離せなくなる。
本当に近所で発生していれば井戸端会議レベルの事件を
これほどの吸引力でスクリーンに惹き付ける手腕は相当なものだ。
ここ日本でも、結婚とは牢獄だと言われることがある。
出会った頃は多少の粗にも目をつむり、喧嘩すらスパイスに変換させることが出来たが
2年経ち、3年経ち、5年も経った頃にはもうお互いの正体は見えていて、
居ることが当たり前になったスウィートホームは、耳鳴りがするほど静寂な空間へと変わる。
念のために断っておくと私がそうだと言っているわけではないぞ。
酒場で聞かされる愚痴あるあるの上位である。
世の女性はニック(ベン・アフレック)のだらしなさに激怒するだろうが
私はどちらかと言うとニックに同情してしまう。
つま先が震えるほどの背伸びをして、何とか手が届いた高嶺の花(エイミー)。
手に入れた瞬間は嬉しくとも、その後は永遠に身の丈以上の人生を強いられる。
疲れ果てたとき、手身近にあった小さな花が美しく映ったとして誰が責められよう。
田舎町に越してきたことで、思い描いていた理想の生活に影が挿した妻と
故郷に戻り友人や妹もいてどんどん腑抜けになる夫。
この二人の行く末は、是非とも劇場で確かめていただきたい。
見ている最中の熱中度は今年公開のサスペンスでも
トップクラスではあるが、その分だけ抜けも早い。
観賞後もじわじわと胸に残るのは、先日紹介した「デビルズ・ノット」の方が上。
2時間半近くかけて「うん、やっぱり結婚は牢獄だな」と思わされる映画でもあるので
結婚間近のカップルにはお薦めしない。
逆にこれを見てプロポーズするぐらいの覚悟がある夫婦なら上手くいくに違いない。
映画「ゴーンガール」は12月12日公開。(明日11日の夜先行上映もあり)
<デヴィッド・フィンチャー監督作品>
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