BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

鈴蘭が咲く丘で 第1話

2024年05月15日 | 薄桜鬼 ヒストリカルファンタジーパラレル二次創作小説「鈴蘭が咲く丘で」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「ねぇ、こんな所に本当に居るの?」
「だから、確かめに行くんじゃない!」
スマートフォンと小型カメラをそれぞれ片手に持ちながら、グレースとアリシアはロンドン郊外にある廃墟へと向かった。
そこはかつて貴族のお屋敷だったとも、精神病院だったとも言われている、“いわくつき”の廃墟だ。
廃墟探索ユーチューバーとしてそこそこ人気がある二人は、その廃墟へ向かった。
そこには蔦が絡んで、いかにも廃墟といった寂れた雰囲気を醸し出していた。
「うわぁ、“何だか出そう”ね。」
「もう、やめてよ。」
そんな事を言いながら二人が廃墟の中へと入っていくと、奥の方から物音がした。
「ねぇ、何か音がしなかった?」
「気の所為じゃない?」
二人が物音のする奥の方へと向かうと、そこは子供部屋だったようで、朽ちた乳母車が転がっていた。
「さっきの音は、この音だったのね。」
「なぁんだ、びっくりしたぁ。」
二人がそう言って笑いながら他の部屋を探索していると、再び何処からか物音がした。
「さっきより寒くなって来たわね。」
「そうね、もう帰ろう。」
二人が子供部屋全体をカメラとスマートフォンで撮影した後、彼女達は“何か”が自分達に近づいて来ている事に気づいた。
「早く帰ろう・・」
「うん・・」
二人がドアを開けて外から出て行こうとした時、彼女達の前に謎の黒い影が現れた。
「きゃぁぁ~!」
「いや~!」
彼女達の消息は、そこで途絶えた。
この動画がユーチューブにアップされた数日後、グレースとアリシアの遺体が子供部屋で発見された。
彼女達の死因は、失血死だった。
何故、彼女達が殺害されたのかは、事件発生から6年経っても解明されていない。
廃墟は維持費の問題で取り壊す事が決まったのだが、工事の度に怪我人や死人が続出し、工事を請け負っていた建設会社が倒産し、更に工事を推し進めていた自治体が経営破綻し、住民達は寂れた町を捨て、かつて“鉄の町”として栄えた町は、廃墟と化した。
「もう、すっかり変わっちまったな。」
朽ち果てた町を車窓から眺めながら、男は溜息を吐いた。
高台の上に建っている廃墟と化した屋敷は、かつては色とりどりの美しい薔薇が咲き誇った中庭があり、いつも笑顔と笑い声が絶えない屋敷だった。
そっと中庭へと入った男は、そこで美しい鈴蘭が一輪、咲いている事に気づいて、思わず笑みを浮かべた。
「まだ、残っていたのか・・」
男はそっと鈴蘭の花を一輪摘むと、屋敷の中へと入った。
150年以上経っているから、屋敷の中はかなり荒れ果てていた。
軋む階段を恐る恐る上がった男は、廊下の奥にある寝室の中へと入った。
そこには、かつて家族が共にこの屋敷で過ごした写真が壁に飾られていた。
男は、そっと寝台の近くにある引き出しを開け、一冊のノートを取り出した。
それは、屋敷の主人が遺した日記だった。
 ノートを開くと、そこには一組の夫婦の写真があった。
「会いに来たよ・・父さん、母さん。」
ノートに書かれた字を男がなぞると、朽ち果てた部屋がまるで魔法にかけられたかのようにかつての美しい姿へと戻った。
(ここは・・?)
「まぁ、そんな所に居たのね。もうすぐ夕飯の時間だから、下りてきなさい。」
寝室のドアが開き、レースのエプロンと黒いモスリンのワンピース姿のハウスメイドが中に入って来た。
男は、ハウスメイドの後について一階へ降り、ダイニングルームに入ろうとすると、彼女が慌てて止めた。
「あんたが入るのは、こっち!」
ハウスメイドに連れられて男が入ったのは、使用人専用のダイニングルームだった。
「今日は大した物がないね。」
「それは嫌味かい?こっちは朝からパーティーの準備で忙しいっていうのに。」
料理番・エイミーは、そう言って顔を顰めた。
「そんな顔をしないでおくれ。」
「あの、ここは何処なんですか?」
「あんた、若いのにもうボケちゃったのかい?ここはハノーヴァー伯爵様のお屋敷だよ!」
自分をこの場所へ連れて来たハウスメイド―レイチェルはそう言って大声で笑った。
「トシ、奥様がお呼びだよ!」
「はい・・」
レイチェルによると、自分はこのお屋敷で従僕見習いとして働いているという。
「遅かったわね。」
「申し訳ありません。」
二階の子供部屋へと男―トシが向かうと、そこには顰め面をしている女性が立っていた。
「まぁいいわ。これから、坊やのおむつを縫って頂戴。」
「はい、わかりました。」
「わたくしが居ない間、坊やをちゃんと見ておいてね。」
「はい・・」
(一体何がどうなっていやがる?)
そんな事を考えながら、トシはハノーヴァー伯爵家の嫡子・アーサーのおむつを縫っていた。
するとそこへ、一人の少年が子供部屋に入って来た。
「トシさぁ~ん!」
焦げ茶の、少し癖のある髪を揺らし、美しい翠の瞳を煌めかせたその少年は、トシに抱き着いた。
「誰だ、てめぇは?」
「トシさん、もしかして僕の事忘れたの?」
少年は、涙で翠の瞳を潤ませた。
(こいつ・・)
「まぁ八郎様、こちらにいらっしゃったのですね!さぁ、旦那様がお呼びですよ!」
「嫌だぁ~、トシさぁん!」
謎の少年は、レイチェルに首根っこを掴まれ、子供部屋から連れ出された。
「ごめんなさいねぇ、あの子が何か迷惑な事をしなかったかしら?」
少年とレイチェルと入れ違いに入って来た貴婦人は、そう言った後花が綻ぶかのような笑みを浮かべた。
「はい、これ。」
「あの、これは・・」
「お菓子よ。後でこっそりお食べなさい。」
「ありがとう、ございます・・」
「また、会いましょうね。」
彼女は、そっとトシの頭を撫でると、子供部屋から出て行った。
(素敵な人だったな・・)
その日の夜、トシは貴婦人から貰った焼き菓子の袋を開き、それを一つ食べた。
トシが菓子を頬張っていると、裏庭の方から大きな物音がした。
(何だ?)
トシが裏庭へと向かうと、そこにはこの屋敷でキッチンメイド見習いとして働いていたエリーの姿があった。
彼女の首には、刺し傷があった。
「どうした、坊主?」
「人が、死んでいるんです。」
「何だって!?」
庭師のジョーが警察を呼ぶと、ハノーヴァー伯爵邸は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
「エリー、どうしてこんな姿に!」
「トシ、犯人の姿を見たの?」
「いいえ。俺が駆け付けた時には・・」
「そう。疲れたでしょう、部屋へ行って休んでいなさい。」
「はい。」
トシが使用人専用の寝室へと向かおうとした時、彼は誰かが言い争っている声を聞いた。
「エリーを殺したのは、あなたなの!?」
「俺じゃない、信じてくれ!」
「あなたの事は、信じられないわ!」
声は、若い男女のものだった。
顔は見えなかったが、女の方は髪に青い蝶の髪留めをしていた。
(あいつら、誰だったんだ?)
そんな事を思いながら、トシは深い眠りの底へと落ちていった。
翌朝、トシが眠い目を擦り寝室から出ようとした時、窓に鮮やかな青い蝶の髪留めをした女が映ったので慌てて彼は彼女の後を追った。
(何処だ?)
トシが女の後を追っていると、急に彼は険しい崖が目の前に現れたので、慌てて立ち止まった。
屋敷へと戻ろうとする彼の背を追い掛けるかのように、不気味な女の笑い声が響いていた。
「トシ、あんたこんな朝早くに何処に行っていたんだい?」
「エイミーさん、実は・・」
トシは、エイミーに青い蝶の髪留めをした女の話をした。
「あぁ、その女は、“死神”さ!」
「“死神”?」
「あんたは、まだここに来て日が浅いから知らないんだね。」
エイミーによると、その昔この屋敷に住んでいた貴婦人が居て、彼女はいつも恋人からの贈り物であった青い蝶の髪留めをよくしていたという。
「彼女は、只管愛する男の帰りを待った・・裏切られている事にも気づかずにね。」
「それは、一体・・」
「彼女の恋人は、戦地で病に罹って、向こうに住む女と夫婦になったのさ。」
「それで?」
「あの女は、崖から飛び降りて死んじまった。でも夜な夜な崖まで男を誘き出して殺すようになったのさ。」
だから、青い蝶の髪留めをした女を見かけても、決して追い掛けてはいけないよーエイミーはそうトシに釘を刺すと厨房へと消えていった。
「トシ、奥様がお呼びだよ!」
「は、はい!」
トシは今日もアーサー坊ちゃまのおむつを縫い、奥様の愚痴を聞いた。
「トシ、はいこれ。」
奥様はそう言うと、トシに小遣いをくれた。
「これで好きな物でも買いなさい。」
「はい。」
トシはエイミーの夕飯の買い出しに付き合うついでに、初めてお屋敷の外から出た。
町は、活気に溢れていた。
「あたしはパン屋に行くから、あんたは本屋にでも行っておいで。」
「はい。」
トシはエイミーとパン屋の前で別れ、本屋へと向かった。
本屋は、少し町の外れにあった。
「いらっしゃい。」
店主は、眼鏡を掛けた優しそうな老人だった。
「あの、今日は・・」
「今日は、君が読みたい本が入って来たよ。」
「ありがとうございます。」
トシは、奥様から頂いた小遣いで本代を払った。
「気を付けて帰るんだよ。」
「はい。」
本屋から出たトシは、パン屋の前でエイミーと待ち合わせして、お屋敷へと戻った。
「今夜はゆっくり出来そうですね。」
「そうだね。夏の社交期はまだ先だし、暫くゆっくり出来そうだよ。」
エイミーがそう言いながらジャガイモの皮を包丁で剥いていると、レイチェルが何処か慌てた様子で厨房に入って来た。
「どうしたんだい、レイチェル?そんな顔をして?」
「うちの人が・・」
レイチェルの夫で町の教師だったトムが、海辺で遺体となって発見された。
「どうして、こんな・・」
「可哀想に・・」
トムの遺体の首には、エリート同じ刺し傷があった。
「魔物の仕業よ。」
「エイミーさん、あれは?」
トムの葬儀に参列していたトシが、突然葬儀の最中に意味不明な言葉を喚き散らしている老婆を見た。
「あぁ、あの人は海辺の家に住んでいるマリー婆さんさ。頭がちょっとね・・」
エイミーは、そう言うと己のこめかみを人差し指でさした。
「そうですか・・」
「エリーに続いてトムまで・・何で、良い人ばかり・・」
トシがレイチェルの自宅へと向かうと、そこには彼女の親族達が集まり食事の支度をしていた。
「レイチェル、何か食べないと。」
「何も食べたくないの。寝室で休んでいるわ。」
レイチェルはそう言うと、そのままダイニングルームから出て行った。
「トムさんは、どんな人だったんですか?」
「優しい人だったよ。子供達からも慕われていたよ。」
エイミーは、そう言いながら汚れた食器を洗った。
「トシは働き者だね。それに、手先が器用だし。」
「そうですか?」
「奥様が、何であんたに坊ちゃまの世話を任せたと思う?」
「俺が、子供だからですか?」
「あんたを信頼しているからだよ。」
「そうですか・・」
「まぁ、あんたはまだここへ来て日が浅いから、色々と教え甲斐がありそうだよ。」
「はぁ・・」
「そうだ、このお茶をダイニングに持って行っておくれ。」
「はい。」
トシが茶と茶菓子を載せたワゴンをダイニングルームへとひいていくと、中から女達の声が聞こえて来た。
「レイチェルも可哀想に。あの年で未亡人なんて・・」
「子供が居ないから、気楽で良いんじゃない?」
「まぁ、ね・・」
「それにしても、ねぇ・・ハノーヴァー伯爵家は呪われているのかしら?」
「きっと、あの髪留め女の呪いよ!」
「ねぇ、レイチェル戻って来るのが遅くない?」
「そうねぇ。」
「失礼致します、お茶とお茶菓子をお持ち致しました。」
「あら、可愛い子ね。」
「見ない顔ねぇ。坊や、お名前は?」
女性達はトシの顔を物珍しそうに見た後、彼を質問責めにした。
「ねぇ坊や、お茶とお茶菓子はわたし達が頂くから、レイチェルの様子を見て来てくれないかしら?」
「はい、わかりました。」
トシがレイチェルの寝室へと向かい、ドアをノックしようとすると、中からレイチェルの悲鳴が聞こえた。
「やめて、お願い・・」
「レイチェルさん!?」
トシが寝室の中に入ると、レイチェルはベッドの上に仰向けになって倒れていた。
「レイチェルさん・・」
彼女も、首を刺されて失血死していた。
「誰か、誰か来て下さい!」
「レイチェル!」
「誰か、お医者様を!」
奇妙な連続殺人事件は、結局犯人が見つからないまま事件の捜査は打ち切られた。
季節は夏を迎え、ロンドンは社交期を迎えた。
トシ達は奥様達と共に、ロンドンへと向かった。
初めて見るキング=クロス駅は、この前行った町よりも活気に溢れ、混沌としていた。
「さ、早くしな!」
「はい・・」
「モタモタするんじゃないよ、遅れちゃうよ!」
エイミーはトシの手をしっかり握ると、キング=クロス駅から出た。
「これ位で騒いでいたら、ロンドン暮らしは勤まらないよ!」
「わかりました。」
「まぁ、ロンドンでまた変な事件に遭わなきゃいいけど。」
辻馬車に揺られながら、エイミー達はハノーヴァー伯爵家のタウンハウスへと辿り着いたのは、昼前の事だった。
「みんな、奥様が今日はゆっくり休むようにってさ!」
「良かった!」
「移動距離が長かったからねぇ。」
「そうだねぇ。」
「俺、部屋に荷物置いてきますね。」

トシはそう言うと、使用人用の寝室に入って荷物を置いた後、そのままベッドの上で眠ってしまった。

気が付いたら、もう夜になっていた。

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