私の愛車を彼が運転している時に
彼の携帯が鳴った‥
彼の長い人差し指を唇に
『シーッ』と合図してナビが自動受信した
思いがけずに夫婦の会話が
耳に入ってきた‥
「あたし~ごめんね出先へかけて」
『構わないよ今なら、どうしたの?』
優しいお父さんの口調で
私の知らない彼だった‥
彼女は私が隣に居ることを
当然知らないで話し続けている
彼もそんな素振りさえ出さずに
慣れたモノでした(苦笑)
私だけが異空間に取り残される感じが
引き千切れそうな不快感で苦しい
走る車のドアを開けて飛び出したい
そんな衝動に駆られた
五分間の飛び交う景色と言葉に
意識が朦朧として何十分にも感じた
自分のしていることが
改めて恐ろしい事と思えたのです
夫婦の固い絆を目の当たりにして
ぼんやりと月を眺めながら
何も感じない振りをした
その場から逃げるように去る私‥
襲いかかる孤独の不安
必ず棄てられる日がくる
彼はそれほど愚かな人間ではないから
その時を迎えても
彼を愛し続けられる魂を
鍛えておこうと
もっともっと強くならなくては
笑顔で「ありがとう」と言えるように
遠去かる飛行機を見ながら
「さ・よ・う・な・ら」 と
小さく手を振ってみた
これが最後かも知れないと
いつものように感じながら