The Society of Hormesis ホルミシス学会

STRUCTURED MICRONUTRIENT, US PAT/TH FDA (Med), JP FDA(Food)

原発の独自規制によってガラパゴス化

2013-07-09 11:33:31 | 規制改革
 「安全文化、安全対策は真摯(しんし)に改善していきたい」。大飯、高浜の3、4号機の安全審査を申請した関西電力常務の森中郁雄(56)は8日、記者団に語った。原子力規制委員会は電力会社の安全意識を問題視。「世界一厳しい」という新規制基準は電力会社の安全への意識を変える“荒療治”の側面も持つ。

 東京電力福島第1原発事故前の規制は、あってないようなものだった。民間事故調査委員会は、日本が海外の知見を取り入れない独自の規制を続けたことを、大陸から隔絶し独自の進化を遂げたガラパゴス諸島になぞらえ「ガラパゴス化」と評した。

 その代表例が「B5b」と呼ばれるテロ対策だ。B5bは米原子力規制委員会(NRC)が2001(平成13)年の米中枢同時テロを機に策定、全電源喪失を想定した機材の備えと訓練を、米国の全原発に義務づけた。平成20年に保安院職員がNRCで説明を受けたが、電力会社へ指示をすることはなかった。

 「B5bが日本で導入されていれば、福島第1原発事故は防げた可能性があった。規制機関の不作為は致命的だった」(政府関係者)。新基準はテロ対策についても規定、規制委は「世界最高レベルの規制」を目指したと自賛する。だが異論もある。

 ◆「運転中保全」認めず

 新基準骨子案がまとまった後の今年2月、北海道大学大学院教授(原子炉工学)の奈良林直(ただし)(61)は海外調査でワシントンDCにいた。米原子力エネルギー協会を訪れた際、協会幹部に声をかけられた。

 「日本は原子力の安全文化が遅れている。オンラインメンテナンス(運転中保全)を認めていない。運転中に緊張感を持って点検する必要がある」

 複数ある非常用発電機などの検査は運転中でも可能で、運転中保全は検査期間短縮や作業員の効率運営にもつながる。原発主要国では運転しながら検査するのが常識で、全てを止めて検査するのは日本だけだ。

 「日本には『動かさなければ安全』という意識が根底にある。福島の事故もそうだったが、運転中にバルブを開閉したりするような実際に即した点検、訓練でないと非常時に適切な行動が起こせない」と奈良林は指摘する。

 奈良林は帰国後、規制委の新基準に関する意見公募で運転中保全の必要性を訴えた。だが、新基準で盛り込まれることはなかった。

 時の首相、菅直人(66)の政治判断で運転停止が命じられた中部電力浜岡原発(静岡県)を除き、国内で停止中の原発は全て定期検査で止まっている。

 ◆国民・業界から孤立

 世界最高の規制機関とされるNRCは良い規制の5原則を定めている。重要度順に独立性▽開放性▽効率性▽明瞭性▽信頼性-だ。日本の規制は「効率性」や「柔軟性」に乏しいといわれる。

 最新の科学的知見を反映させるバックフィット制も、日本は新基準の大半の対策について審査を通るまで稼働させない。むやみに稼働を止めず、リスクと費用対効果で安全を判断するNRCとは対照的だ。電力会社との接触を極度に避ける規制委は「孤立」していると指摘される。

 「国民や業界とのコミュニケーションがあって初めて効果的な規制ができる」。昨年12月、規制委の国際アドバイザーで英原子力規制機関の機関長、マイケル・ウェイトマン(64)は記者会見で、規制の在り方をこう説明した。

 だが、新基準の意見公募も2回実施され、計約6400件の意見が寄せられたものの、大多数は文言の微修正だけで終わった。

 「安全神話」で海外の知見を取り入れずガラパゴス化したこれまでの規制。新規制も、国内外の意見を十分に聞いたとはいえない。再びガラパゴス化の道をたどるか。それは規制委が柔軟に審査し「動かさないための規制」から脱却できるかにかかっている。(敬称略)

 【用語解説】ガラパゴス化

 世界標準からかけ離れ、日本独自の発展を遂げている状態のものを揶揄(やゆ)した新語。大陸と隔絶し生態系が独自に進化した南米エクアドルのガラパゴス諸島からつけられた。平成20年ごろ、世界標準と異なる日本の携帯電話の通信方式や端末を自虐的にいう「ガラパゴス携帯(ガラケー)」とともに広がった。


「米国における原子力規制と連邦議会による監視機能」

2013年5月29日
 日本の原子力規制委員会のあり方が様々な視点から注目を集めているが、原子力の利活用と適切な規制を目指して体制整備を進めてきた米国においては、どのような議論が行われ、基準が策定されているのか。福島事故後の規制方針、一部の原子炉に対する「フィルターベント設置要求」などをめぐる動きなどを振り返りながら、米国の原子力規制の状況を報告する。
□独立性と強い権限を持つNRCにも連邦議会による監視システムが機能
 我が国では2012年9月、原子力規制委員会が「独立性の確保」を主たる目的として発足した。その有効な参考例とされたのが米国原子力規制委員会(NRC)といえる。ただし、NRCはその独立性と強い権限が確保されているが、一方でNRCが独走に陥ってしまわないように連邦議会による監視システムが整えられていることを見過ごせない。監視権限を持つのは、上院の環境公共事業委員会と下院のエネルギー商業委員会である。
 NRCは、連邦議会が監視機能を果たせるよう、十分に情報提供することを要求されており、半年に一度は上院と下院の歳出委員会に活動報告書を提出しなければならない。さらに、連邦議会は必要に応じて供述書の提出をNRCに要求するとともに、NRC委員や上級スタッフを呼んで公聴会を開き、状況説明を行わせている。
□フィルター付きベントの規制要求をめぐる議論の紛糾
 NRCは2012年3月、福島事故を踏まえて①仮設配備機器等の強化②使用済み燃料プールの監視計器強化③沸騰水型原子炉(BWR)のマークⅠ・Ⅱ型格納容器のベント強化――の3点を発令した。このうち、BWRマークⅠ・Ⅱ型格納容器のベント強化とは、耐圧や構造上の強化を意味する内容であるが、さらに放射性物質の放出を抑制する「フィルター付きベント」を規制要求に盛り込むかが検討課題とされた。
 ベント系統にフィルターを設置すると、万一の事故の際に放射性物質の放出が抑制される。ただし、重要な隔離機能を持つ原子炉格納容器に穴を開ける大がかりな工事が必要でもあり、設置費用は1600万ドル(約16億円)を超えるといわれている(産業界は30億~45億円かかるとしている)。フィルターベントは高額な費用に見合う効果があるか疑問視する声が多いとともに、もしこれが規制要求された場合、追加投資に耐えられずに廃炉前倒しを余儀なくされる原子炉が出てくるという懸念も出された。
 NRCスタッフは、フィルターベントを規制要求するか否かについて当初2012年7月までに提案する予定だったが、議論が紛糾したため延期。検討の結果、NRCスタッフは2012年11月に「BWRマークⅠ・Ⅱ型格納容器にフィルターベント設置の指令を発令する」という案をNRC委員へ提案した。これに対して、産業界は他にも放射性物質の放出を防ぐ対策はあるため、フィルターベント設置を規制要求するよりも、総合的に放射性物質を抑える対策(注)を施す方が効果的である、と従来から主張しており、NRCの原子炉安全諮問委員会も2012年11月、フィルターベントを直接規制要求するよりも放射性物質放出を抑制する総合的な性能規定アプローチ(仕様ではなく性能を規定する方法)要求する方が効果的だとする見解を示した。
(注:フィルターベント以外の放射性物質放出抑制対策としては、排気を原子炉底部の水槽に通して放射性物質を除去する方法、格納容器内での水の噴霧により放射性物質を水に捕捉する方法、格納容器を冠水させて冷却とともに放射性物質を水に捕捉する方法などがある。)
□重みある連邦議会からNRCへの書簡
 このような議論の紛糾を背景に、NRCを監視する下院エネルギー商業委員会のアプトン委員長ら21人の議員はNRCによる過度な規制変更を懸念し、2013年1月15日付でマクファーレン・NRC委員長宛に書簡を送った。また、上院環境公共委員会の議員7人も同様な書簡を2月4日に送っている。書簡の内容の概要は次のようなものである。

(書簡の概要)
 ▽ 我々の懸念は、NRCが厳密な技術的評価や費用対効果分析を怠っていることを起因に生じている。NRCはこれまで実施してきた安全対策や、これから実施しようとしている安全対策の複合的な効果を考慮していないのではないか。ある安全対策を単独の効果で考えるような断片的な検討は、予期せぬ結果を招くという深刻なリスクがあることを無視してはならない。また、NRCは原子炉の安全は各発電所の違いを踏まえた性能規制アプローチにより守られてきたという歴史的事実を放棄しようとしているのではないか。
 ▽ 米国の規制要求は日本と違うことは疑いない。福島事故が米国で起きるかどうか判断するためには、福島第一原子力発電所にどのような防御機能があり、どのような防御機能が欠如していたかを知り、最も重要なのは米国にその防御機能の欠如が存在するかどうか明確にすることである。健全な規制変更のためには、米国と日本の規制要求事項の比較評価が不可欠な情報となる。このような国際的な原子力規制の比較なしでは、健全な規制変更はあり得ず、NRCの信頼をも低下させる。原子力は国家のエネルギーセキュリティ確保に多大な貢献をしており、原子力基本法では「原子力エネルギーは、社会の幸福へ最大限貢献すべきである」とうたわれている。この目的のために議会は「公衆の健康と安全」と「原子力による利益」のバランスを保つように努めてきた。立法者としての議会のゴールと規制者としてのNRCのゴールは、バランスが保たれるべきである。
 ▽ スリー・マイル・アイランド(TMI)事故後評価では、膨大な数の安全対策が提案され、実施された。しかし、NRCがとった対策の中には、実質的に役立たないと分かったものもあり、それらの対策は削除された。規制当局は規制要求を出す役目を担っているが、規制要求事項の増加で必ずしも安全性が増すわけではなく、単なる追加となることもある。NRCが実施する規制変更前の徹底的な技術的検討と費用対効果分析は、「安全上重要な規制変更」と「不必要な規制負荷」とを見分けるのに役立ってきた。規制当局の手腕は、拙速な規制厳格化ではない熟慮を伴った体制立てたアプローチで試される。NRCスタッフは、他の対策も合わせた放射性物質放出抑制の性能要求とせずに、多大な初期投資が必要なフィルターベントの設置を要求することを提案している。これは費用対効果分析の法令要求を満たしていない可能性があり、訴訟対象にもなり得る。また、(原子力規制の大きなよりどころとなっている概念である)「適切な防護」のレベルを間接的に(適切な検討の手順を踏まずに)再定義するような新たな前例ともなりかねない。NRC原子炉安全諮問委員会は、「フィルターベント設置要求は、リスク情報を活用した費用対効果分析により正当化されていない」と指摘している。産業界も「フィルターベントという単一の対策だけで放射性物質放出の抑制に成功しない」とし、冷却水の注入、格納容器スプレイ、格納容器圧力を調整しながらの排気などを組み合わせた方法を考慮すべきだとしている。歴史的に守られてきた原則である、規制変更前の技術評価と費用対効果分析を徹底的に行うことを求める。このプロセスがなければ、安全上重要な対策と「単に良さそうに見える対策」を見分けることはできない。
 ▽ NRCの「良い規制の原則」には「規制活動は、規制が達成できるリスク低減の程度に見合うものでなければならない。複数の効果的な代替案がある場合、リソース投入が最も少ない方法を適用すべきである」とある。原子力による発電は、他の例に漏れず市場原理の中にある経済活動であり、コスト的な課題は深刻な影響をもたらす。NRCはその決定によっては、多大な社会的な影響がもたらされることを踏まえ、いかなる規制変更をする場合でも、綿密な費用対効果分析をする責務を負っていることを認識しなければならない。市場原理の力はNRCが負う責任を免除してくれることはない。
 ▽ 本委員会が、前回議会で環境保護庁の環境規制による石炭火力発電への影響を危惧していたように、我々は今、福島事故後の原子力規制変更が米国の原子力発電に与える影響を懸念している。規制当局が直面している問題は、相反する視点が混在する複雑な問題であることは理解している。しかしフィルターベント問題を、他の対策とは独立させて断片的に検討するアプローチは、「適切な防護」の概念を蝕む結果にもなり、我々は適切でないと判断する。また、我々は、NRCが総合的な性能規定アプローチの原則に従い、必要な時間をとって十分に検討を行うことを要求する。


□仕様規定よりも実効的な安全向上につながる性能要求重視の姿勢
 こうした議会からの提言もあり、慎重な審議を重ねてきたNRC委員は投票を行い、2013年3月19日に最終的な決定を下した。NRC委員はNRCスタッフに対して①フィルターベント設置の指令は即時に出さず、他の対策も含めた総合的な規則制定に向けた検討を行う②2012年3月に出したベント強化の指令をシビアアクシデント(過酷事象)にも耐え得る内容に改定する―という2つの指示を出した。今回の決定は事業者の廃炉計画にも大きく影響し得ると懸念されていたが、長い議論の末に出されたNRC委員の決定はフィルターベントを即時に規制要求とするものでなく、大きな混乱を招く結果は避けられた。
議論の背景には、経済性が絡んだ意見の他に、仕様規定なのか性能規定なのか、という規制の方向性の論争も含まれていたと考えられる。最近のNRC委員の発言では、設備等の仕様を規定する仕様規定を「あれやこれやと定める規定」とも表現し、必ずしも安全向上に効果的な方法ではなく、実効的な性能を要求する性能規定を重視すべきだ、というコメントが頻繁に聞かれていた。このような議論を経た今回の決定は、仕様規定よりも性能規定をより重視していくというNRC委員の姿勢を象徴しているかのようにも映る。
日本でもいわゆる「活断層問題」への原子力規制委員会の対応や7月に施行される新たな規制基準などをめぐって、規制や独立性のあり方、議論の展開方法に注目が集まっている。独立性が確保されながらも、連邦議会による監視システムが機能している米国の事例を参考にしながら、実効の上がる安全規制を確立し、原子力の利活用につながるシステム構築が求められているのではないだろうか。



実用原子力発電所における安全規制に対する国際比較
http://www.nsr.go.jp/archive/nisa/shingikai/118/002/no2-2-1.pdf

諸外国における原子力発電所の安全規制に係る法制度
http://www.jeli.gr.jp/report/jeli-R-127@2013_01_NuclearSafetyRegulation.pdf
福島第一原子力発電所事故の影響 - Wikipedia
ja.wikipedia.org/wiki/福島第一原子力発電所事故の影響‎

原子力発電所の安全規制高度化の議論に向けて - JAIF 日本原子力産業 ...
www.jaif.or.jp/ja/news/2011/hattori_anzen-kisei110208.pdf‎




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