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Sweet*Studio

あなたと過ごす、この瞬間は忘れない。

サクラ2505

2005-04-08 | フィクション
わたしのつぼみがふくらんで、花が咲くまでのあいだ、わたしは人の姿を見、声を聞くことができる。
そして、花が散る頃、わたしの今まで見てきたことがすべて目の前に現れて、そして花の終わりとともに消えて行く。

わたしは、そんなことをもう500回、くりかえして今日まで生きてきた。

500年前、母のおとした小さな実から、わたしは生まれた。
そして、人のいいおじさんが、わたしをここに運んで、大きくなるまで育ててくれた。
母のように、人々に愛されて500年も長く生きていけるように、と願いを込めて名付けられた。
「サクラ2505」と。

おじさんの願いは叶って、わたしは今もこうしてしっかりとここに根づき、生きている。
昔とくらべれば、大きなバスに乗って大勢が押し寄せてくるようなこともなくなったけれど、それでも毎年静かにわたしの所に通ってきては、いろいろと話し掛けてくれる人たちがいる。

わたしが返事をしていること、あなたには聞こえていますか?


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SAKURA2505♪お玉つれづれ日記♪ 〜沖縄★美人画報〜 
お玉さんのすてきな「おとなのえほん」に触発されて3日かけてかきました。
コメント (4)
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ゆるがないもの(後編)

2005-03-21 | フィクション

ゆるがないもの(前編)


そんなある日、たったひとつ、何かが違うものを見つけた。
それはたったひとり、しっかりとそこに存在を続けている、人間。
普通に出会えば印象が薄いであろう、ごく普通の青年だった。

毎日、私は彼を見つめる。
彼も私をみつめるようになる。
その問題の5段めに私がいる時の、彼の位置が近くなる。

いつしか、自然に言葉をかわすようになった。
それが、どんなきっかけだったか、覚えていない。
ごく自然な交流だったのだと思う。
しかし、この駅から、反対方向の地下鉄に乗って行く二人。
接点は本当にこの駅だけ。
でも、ほんの一点の接点でも、毎日という時間のつながりで、それは線になる。

気がつくと、いつのまにか問題の5段めでも、世界は揺らぐことはなくなっていた。
いつも唯一ゆるがない存在である彼ばかり見つめていたので、気がつくのに時間がかかったのだった。

彼の存在は、私にとって、しっかりと続く過去と未来となった。
彼は、私とすべてを繋ぐ掛け橋となったのかもしれない。

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ゆるがないもの(前編)

2005-03-14 | フィクション
地下鉄の南北線のI駅の階段を下りて行くあと5段というところで、私はいつも躓く。
いや、表現は少し違う。
正確に言うと、風景がそこで揺らぐのだ。
すべてが溶けていくようで、足元が危うく感じられる。
しかし、階段は当然のことながら、私をしっかりと受け止めてくれているし、
一瞬の揺らぎの後は、ごく当たり前の日常風景が広がっている。

これは、私だけなのだろうか。
ずっと、そう不思議に思っているのだが、他の人にたずねてみる気持ちにはならない。
普通は、すべてが平に、なめらかに進んで行くものだと思う。
だから、きっとこの一瞬の出来事は何かの手違いなのだと思う。

そうは言っても、この一瞬の揺らぎは、私には毎日必ず起きる。
足元が溶け、目の前にいた人が水彩画のように滲む。

揺らぐのは、私以外のすべて、なのだろうか。
それとも、私のほう?
信じられないのは、自分以外のすべて。
それとも、私自身なの?

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