ウクライナ戦争の本質を議論するために「必要なのは、一にも二にもリアリティ」だと佐藤氏
は言う「日本のメディアには現実に立脚して情勢を分析するという視点が稀薄」だ。そして
「どちらが正義かといった心情をひとまず離れて、なにが確かな事実なのかを判断の拠り所」
にすべきだと。日本も欧米も感情的な正義を振りかざして論じるために「停戦交渉のきっかけ
も掴めず、戦いは長期化」している。
ウクライナという国は三つの「異なる地域」から成り立っている。ことを本書で始めて知った。
ウクライナ西部のガリツィアを拠点としている反ロシア感情を抱く地域、戦争の舞台となって
いる東部、南部の親ロシアの黒海沿岸地域、そして首都キーウを中心とする中部である。
さらにクリミア半島のセヴァストポリ軍港がプーチン大統領の最大の関心事であると佐藤氏は
分析する。19世紀のクリミア戦争で多大な犠牲を払いながら獲得したクリミア半島を1954年に
ソ連のフルシチョフがウクライナに割譲したが、後にソ連が崩壊し、ウクライナが分離・独立
するとは当時のフルシチョフは思いもしなかったことだった。
手嶋氏が西側が「戦争勃発後の国連総会の決議では、すべて賛成多数でロシアが断罪された」
という評価を下すならば、無邪気すぎると言う。ロシアは国際社会でそれほど孤立しているわ
ではなく、「反西側」のエネルギーは、想像以上に底堅い。日本もひたすらアメリカの言いな
りで反ロシアを唱えるだけでは国際潮流に乗ることは出来ない、しっかりした情報分析と臨機
応変な対応が必要な時がやってくる。
ウクライナ戦争の嘘 手嶋龍一 佐藤優 中公新書クラレ