かつて「白い色は恋人の色」という歌があった。
1969年にリリースされたというから、年配の方しかわからないかもしれない。
「花びらの白色は恋人の色」で始まるこの歌。
以前、早春は。黄色の花が多いとこちらのブログで書いたが、梅雨の今はどうだろうか?
近くの里山を見るとノリウツギ、ミズキ、ツルアジサイ、イワガラミといった白色の花が目立つようだ。
さらには、多くの緑色の葉に混じって白色のマタタビの葉も目立つ。
早春の花に集まる虫たちは、アブやハエなど小さな虫たちであった。
では、白い花たちに集まる恋人たち(虫)たちは?
オオハナウドのような大型の花にでもちょこんと飛んでくる虫たちを見るとチョウたちの吸蜜もそうだが、花に乗っても花がつぶれないカミキリムシなどの甲虫が多いのではないだろうか?
もともとは花の色で一番多いのは、白色だし、これからの季節は気温が高くなるにつれて様々な昆虫たちが現れる。
また、マタタビの葉の白色に関しても本当はマタタビにしてみれば花にダイレクトに来てほしいのだろうが、花は下向きで小さくしかも多くの葉に囲まれているので目立ちにくい。
そのため、あえて葉を白くさせることで、この場合はハチの仲間であるようだが、受粉の時期に白色の葉で呼び寄せているようだ。
ちなみに、この白色は葉の表面側に空気が入った状態で水の中でこの白のふくらみを指でつぶすとわずかながら空気の泡が出てくる。
決して葉緑素がなくなったわけではない。
あえて葉に空気を含むことで、乱反射により白く虫たちに目立たせるのだ。
今の時期、ツユクサも見られるようになってきた。、
あでやかな青色は、小さな花だが遠くからでも良く目立つ。
ところでおしべは鮮やかな黄色だ。
これは誰を呼び寄せたいのか?
黄色といえば早春の花ーそう、アブたちであった。
ただ、ツユクサのまわりは夏の花だらけ。
これでは、アブたちにも気づかれないのではないか。
ところが、ツユクサもなかなかのものだ。
あの鮮やかな青色の花びらと黄色のおしべは、補色関係だったのだ。
それでアブたちを呼び寄せる。
ところがツユクサの深謀遠慮はこれで終わらない。
実は、この黄色のおしべがダミーというから驚きだ。
つまりたっぷりの花粉があるように見えるダミーには花粉がない。
そして、アブたちが本当の花粉を探している間にダミーおしべの手前にあるおしべに花粉が付けられていく。
これで、一件落着と行きたいところだが、話はまだ終わらない。
本当のおしべにありつけたというところだが、このおしべも花粉が少ない。
ツユクサの花には、さらに花粉をたっぷりつけたおしべがある。
これこそ目立たないが花粉をたっぷり含んだおしべである。
なぜ、ツユクサはこれほどまで手の込んだアブたちを呼び寄せるのか?
私にはわからないが、いずれこの時期少なくなったアブたちに花粉を運んでもらいたいという一心なのかもしれない(擬人化させてはいけないでしょうがあえて)。
ちなみに、このツユクサ、一日花、厳密には朝早く開花し、昼過ぎには閉じてしまうようなので受粉も急いで行わなければいけない。
それがゆえに、受粉されなかった場合の保険代わりに花を閉じることによって自殖をしているというからこれもまた驚きだ。
自分の花粉を自分のめしべにつけることつまり自殖は、遺伝的に弱い子孫ができてしまう(自殖弱勢)。
それでもツユクサはこの方法を取り入れている。
それだけ、子孫を残すことが難しくもありこれまで生き続けてきた理由にもなるだろう。
ツルアジサイと同じ仲間(アジサイ科)にエゾアジサイといものがある。
ヤマアジサイの変種とされ、主に日本海側の多雪地帯に生息する。
これからの時期、私たち雪国の里山ではおなじみの花だ。
何しろ、見た目が青く良く目立つ。
しかし、近づいてよく見ると青く目立つのは花の周辺部いわゆる飾り花(装飾花)の花弁がそうであって、中心部の両性花は必ずしも目立たない。
これもまた飾り花の鮮やかな青色によって虫たちを呼び寄せているようだ。
あくまでも花粉を作るのは、この青色の飾り花ではなく中心にある両性花なのだ。
おまけにこのアジサイの仲間のすごいところは、受粉が終われば飾り花は裏返ってしまう。
まるで店じまいをしているかのようだ。
ツバキの花の色は赤色だ。
私の住む地域では、里山にユキツバキという多雪地帯に特化した背丈が低くしなり強い種が多く生息している。
もちろん、この花の色も赤色で春先に目立つ。
マンサク(マルバマンサク)ほど早くはないが、近年は雪が消えて間もない4月には開花が見られる。
では、この赤色は誰を引き寄せるため?
虫たちといきたいところだが、早春はアブやハエなどの小さな虫たちである。
どう考えても彼らが訪れるには花が大きすぎるし、花粉を運んでくれそうもない。
そんな時、頼りになるのは野鳥たちだ。
早春でも留鳥であるヒヨドリやメジロたちの出番である。
彼らは、花に嘴を突っ込んで蜜を吸う。
嘴が花粉まみれになってもかまわない。
まさに花の赤色は彼らを呼び寄せるための色なのだ。
そういえば秋の木の実も赤色が多い。
これもまた野鳥たちに食べてもらい、種子を糞と共に遠くに運んでもらうための色なのだろう。
まさに野草たちは、様々な色で花粉を運んでくれる生き物たちを様々な色仕掛けで呼び寄せる。
ただし、色仕掛けは色仕掛けでも野草の色仕掛けは、子孫を残していくために野草の必死な生きざまなのだ。