しばしば植物に親しむ方法は何かと問われたら名前を知ることだという答えが返ってくる。
それはわかる。
その名前の由来から納得のいくことが多い。
では、子どもたちにとってはどうだろうか。
たくさんの植物の名前を知っていたら驚かれるだろう。
「植物博士」と呼ばれるかもしれない。
だが、それだけで良いのか。
下手をすれば「頭でっかち」な「植物博士」に終わることもある。
それよりだったらむしろ植物を育てていった方がより愛情が育まれていくに違いない。
私は、普段から親子や子どもを対象にした自然観察会を行っている。
この場では、私が解説しうる範囲で名前を覚えてもらうことを大切にしているが、それ以上に大事にしていることがある。
それは、五感で親しむということだ。
「五感で親しむ」とは、「視覚」「聴覚」「触覚」「嗅覚」「味覚」で親しむことだ。
では、具体的にどんな方法か。
例えば「ママコノシリヌグイ」という植物がある。
「ママコノシリヌグイ」は、「継子尻拭」と書く。
これは、三角状の葉の裏に主葉脈に沿ってトゲがある。
「継子」をいじめるため、厠の落とし紙としてこの葉を置いたからだという。
なんともおぞましい話だが、実際この植物の葉裏に触れてみてトゲの痛さを実感してもらうのだ。
もっとも今の時代。「継子」という概念も説明する必要がありそうだが。
「ヘクソカズラ」という植物がある。
こちらは、「屁糞葛」と書く。
これもまた忘れそうもない名前だが、それ以上に印象に残るのは、そのにおいである。
葉や茎など傷つける事によって悪臭を放つ。
「サンカクイ」という植物がある。
こちらは「三角藺」と書く。
こちらは、茎を実際手で触れてみることによって、茎が三角形であることがわかる。
池や沼それに川岸などに見られる。
「クロモジ」という低木がある。
こちらは、枝を少しだけ折って香りをかいでもらう。
この香りを実際嗅いでもらうことによって、和菓子用のつまようじにしたりクロモジ茶につかわれた意味が実感できるだろう。
ちなみに私が住んでいる日本海側の多雪地帯には変種の「オオバクロモジ」である。
こちらもまた良い香りをするが、いつもやっていることは、葉全体を唇に当てて草笛に挑戦してもらうことだ。
けっこう大きな音を出せるので、いつも子どもたちには人気だ。
嗅覚だけでなく聴覚でも植物に親しめる一つの方法だろう。
草笛に関していえば、笹笛やタンポポ笛も楽しめる。
他に楽しくできる植物実験がある。
エゴノキの実を使った実験だ。
エゴノキの若い実数個に少しだけ傷を付け、水を入れたペットボトルをシェイクしてもらう。
たちまちシャボン玉の如く泡立つことに驚かれるだろう。
エゴノキの実には、実際、石鹸成分でもあるサポニンが含まれているから昔は、洗濯にもつかわれていたという。
他にも植物を使った実験といえば、カタバミの葉を使って10円玉をピカピカにするというものがある。
これは、カタバミの葉にシュウ酸が含まれていることによってできる実験だ。
さらに春先の実験になると思うが、アオダモの枝先を水に浸してブラックライトを当てるというものがある。
背景を黒くしたりしながら観察すると枝先からまるで小さな煙のように青い液体が流れているように見えるから楽しい。
このように植物の名前だけ伝えても伝わりにくいことでも実験や遊びを通して親しむことができる。
そもそも子どもは自然に対して親和性があると考える。
それは、歩く際にも目線が地上に近いし、地上を這う小さな虫でも小さな自然物でも発見できるからということがある。
それも偏見のないまっすぐな眼で見ることができるからだ。
また、母胎という自然から生まれて間もないからこともある。
かのレイチェル・カーソンは「センス・オブ・ワンダー」で次のように述べている。
「知ることは感じることの半分も重要ではない」
そのためには、レイチェル・カーソンの言葉を借りるまでもなく一緒に共感できる大人が一人近くにいたら良い。
きっとそばにいたはずの大人も子どもの発見やつぶやきに驚くに違いない。
その積み上げは、きっと子どもの植物好きもっと広く言えば自然好きにつながるに違いない。