ケセランパサラン読書記 ー私の本棚ー

◇『つくしちゃんとおねえちゃん』 いとうみく 作  丹治陽子 絵  福音館

『つくしちゃんとおねえちゃん』

読後感がとても、穏やか安寧な心地がする本。
こんな、先が見通せないコロナ禍の、不安不穏な社会状況に在って、ほっとする寧らぎを感じる。

おねえちゃんは、足を若干、引きずる障がいがあるのだけれど、それについての詳細描写は、作家は作中スルー。

私は左利きだよ、とか、
声が低くて、ソプラノ、無理、とか
杉はOKだけど、アカシアとポプラの花粉はNGとか、

そんなぐらいに感じ取れるサラリとした描写に、最近こそ“障がいも個性” といわれるようになって、しかし、そうはいってもというのが現実。
なのですが、
この『つくしちゃんのおねえちゃん』では、二人の姉妹のごく当たり前の日常の情景描写から、ふんわかと障がいも個性というか、障がいってなに?というほどの、「軽み」に達した世界観が、読み取れる。
作家いとうみくの表現力の豊かさというか深さを感じられる作品だ。

つくしちゃんのおねえちゃんは、とても負けず嫌いだけど、それは障がいがあるから負けたくないではなく、とにかく勝ち気、負けるのが厭なんだというのが分かる。
「なんか、いるよね〜、そういう負けず嫌いの子って!」と思わず、ニヤニヤとしてしまう。

 

 

それにしても、『つくしちゃんのおねえちゃん』のちょっと前に出版された、この作品 ↓ ↓ ↓

これは、私の心臓にAED並のショック療法を与えたような本だったので、そのあと、すぐあとに読んだ『つくちゃんとおねえちゃん』は、まるで陽射しが暖かく明るい部屋でチャイでも頂いているような気持ちでした。

『あしたの幸福』、これもいとうみくという作家の真骨頂の一部を為す作品なので、読んで欲しいというか、この2冊を読み比べて欲しいものだ。

作家いとうみくの、ポアロがいうところの「灰色の脳」が織り成す世界の広さと深さを認識することになるのは、間違い無い。

作家は、言葉を紡ぐと言われるが、この作家は、人が生きるその世界を紡ぐ。

 

 

 

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